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俺たちは異能力バトルがやりたかった  作者: 読書丸
特に何も無い
9/14

進まぬ会議は踊るだけ

「今期の予算案ですが…」


ZUN☆ZUN☆ZUN☆DA☆


俺は踊る


「…よってこちらの資料より…」


ダバダバダバダバ


会議の中で、俺は踊る


「流石にこの金額だと厳しいのでは…」


チャンチャカチャンチャンチャチャンカチャン…


軽快なステップ、決めポーズ


「将来性と前期の成果を鑑みまして…」


ぐるぐるグルグル♪ドッカーン☆☆


無視を決め込む周りを無視して踊り続ける


「ですが……ZUN☆CHA☆」


ダカダカダカダカ…フィーバー!!


すると来るのだ、波が


会議全体を巻き込む…波が!!


「ィェーィ!!!!!」


真面目にプレゼンをしていた新人が

激を散らしていた課長が

脇に控える秘書が

進行に困っていた司会が

資料に目を落としていた上司が

赤い顔で喚き散らしていた御曹司が


みな一様に踊り出す


「…一旦休憩とする。」



俺はその一言でようやく踊りを辞める。

ゼェゼェと上がる息、忙しなく動き続ける心臓、クーラーの効きを感じさせぬほど火照った身体。

喉を滑り落ちる冷たい雫が、その全てを労わるように染み渡る。



『進まぬ会議は踊るだけ』


今現在、俺は異能者にしては珍しく、異能を最大限に利用できる職についている。

と言うより、俺に合わせて職場に仕事が作られた。


『会議は踊る、されど進まず』という言葉をモチーフとしたこの異能は、俺が踊っている時に一定以上会議が進展しない時、会議の参加者全員が踊り出す。


その会議が有用なものであるかというものを異能という絶対の定規で測れる俺は、この大企業で行われるありとあらゆる会議に参加している。

つまり、俺の仕事は会議中に踊り続ける事であり、それ以外のあらゆる業務を免除されているのである。


羨ましいと思うだろうか?


確かに、低学歴で低脳無能な俺が大企業で安定した収入を得ることが出来るのは異能のおかげであり、異能のおかげでしかない。

ただ、益もなく利もない会議を有用なものだと言い張り、無駄な時間と給料を貪り食う企業の寄生虫は多少減ったとの自負はあるし、そもそも、考えてもみてほしい。


休憩があるとは言え、ほぼ一日中踊り続けることの苦痛を。


別に高い給料を貰っている以上、この仕事に文句を言うわけではないのだが、給料に見合うような仕事内容である事程度は理解して欲しい。


息をつく。


汗ばんだ身体を拭い、一抹の清涼感を得る。


俺の身体ももう若くはない。

この程度の会議で息が上がり、身体は火照る。


そろそろダンスを舞というジャンルにシフトしていくことも考慮に入れなければなるまい。


それにしても

それにしてもだ


この異能、ダンスがダンスとして成立するためには一定以上の水準が必要で、例えば横ステップを延々と続けるような事をしていても発動しないし、あまりにもダンスの練度が低くても発動しない。

また、ダンスの難易度やクオリティに応じて効果時間が若干増減することもわかっている。


すなわち、いかに体力を温存でき、かつクオリティが高いと判断されるダンスを探すことが目下の課題と言ってもいい。


しかし、そう、しかし、だからといってパラパラやコウメ太夫の謎踊りも受理されるのはチョットどうかと思うわけである。


会議の中で踊る以上、ふざけたものであればあるほど給料泥棒の誹りを免れなくなってしまう今の立場、1番のコストパフォーマンスを誇る踊りがコウメ太夫というのはいささか思うところがある。


いや、もっとはっきりと言おう。


俺の練習の日々を返せと


俺が必至に試行錯誤し、あらゆるジャンルのダンスに手をつけていた中、疲れの中ヤケクソ気味にしたネタが受理されたときのなんとも言い難い感情…


はぁ、どうして行こうか。


アレやコレやと益体もない思考を積み重ねる時間があるのも、この職場の嬉しいところだ。


いつの間にか身体は適度に残る疲労感を除き平時の状態へと戻り、思考に余裕が戻っている。


余裕ついでにふと、携帯に目をやると

『15階』

というだけのメッセージが来ていることに気付く。


中々に素っ気ないメッセージであるし、コレだけで何を察せと言いたいところでもあるのだが、差出人が社長その人であり、15階は社長のいるフロアであるならばまた話は変わってくる。

このような呼ばれ方をするのは稀であるが、まぁ無いわけではない。


はて、なにか呼ばれるような事をしでかしたのだろうかと首を傾げたものの、俺の貧弱な記憶様は一向に答えを返してくれない。

益体もない思考は得意だが、答えを探す考察は苦手である。


仕方ないと、周りの人間に断りを入れ、ひとまず重い腰を上げるとする。


いつもの会議室、いつもの廊下、いつものエレベーター


10年来の嫁さんの様に慣れ親しんだ奴らが、なぜか別人のように感じられる。


そう、予感だ


なにか嫌な予感


クビだとかそういったものですまされない、ネットりとした予感が、奴らを別人へと変えている。


このエレベーターの扉の向こう


一体なにがあるというのか


いっそなにかの不具合で開かなければいい




そんな思考との逃避行を許すわけがないと言わんばかりに、目の前の扉が開いてゆく。

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