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俺たちは異能力バトルがやりたかった  作者: 読書丸
特に何も無い
2/14

不変之環

 50過ぎても課長止まりの男、TPOをわきまえない男、つまらない男、頭がおかしい男、万年独身男…


 自分を表現しようとしても、マイナスの言葉しか出てこない。

 それが自分。


 朝起きて、飯を食い、会社に行き、ずるずると残業をこなし、飯を食い、死んだように寝る。

 たったそれだけを繰り返す日々。


 金はある、が欲しいものはない

 趣味もない

 熱意もない

 体力もない


 生きるために仕事をしているのか

 仕事をするために生きているのか

 ソレすらもわからなくなってきた自分


 そんな自分が今…




 人生最大の危機を迎えている。



 事の発端は今まで務めていた会社をクビになったことだ。

 30年以上、自分の色々なモノを捧げ、尽くしてきた会社から別れを告げられたと言うだけでも最大の危機に匹敵するのだがそれもまぁ仕方がない。

 むしろ、こんな自分を今まで雇用してくれた会社には感謝すらしている。


不変之環(アンデットサークル)

 それが自分の異能。

 中学生の甥に付けられた能力名だが、他に呼び方があるわけでもないのでこう呼んでいる。


 この異能はゴミだ。

 頭の右後ろ…言語化しづらいのだが、あえて例えるなら鬼の角の丁度反対側のような位置に直径3cm程の円がある。

 そこから生えるのは40cmの髪。

 その髪は如何なる事があろうとも抜けず、切れず、伸びない。

 それだけの異能。


 永遠に髪が残るという異能に気がついた30代のあの日、既に寂しくなりつつあった自分の頭に天が恵みをくれたのかと感謝したのも今は昔。

 自分は禿げた。

 異能に守られた直径3cmの円に生えた40cmの髪束以外見事に禿げた。


 わかるだろうか?

 ハゲのおっさんの後頭部にズレたポニテがくっついているような滑稽さが。

 植毛やかつらやアートなんちゃらを試せど、円の違和感はどうしても拭えなかった時の絶望が。


 ふざけた頭になってから、帽子が手放せなくなった。

 職場の人間は同情的な視線を向けてきてはくれたが、取引先の相手にこちらの事情は通用しなかったらしい。

 会社も多少は庇ってくれていたのだが、流石に限度というものがあった。


 ココまでが前座だ。

 そう、前座。


 会社をクビになった自分は、流石にショックを受けたのか、近くの公園で慣れぬ酒を飲んでいた。

 昼間から家に帰ると、否応なしに現実に戻る気がして、公園という挾間の幻想に逃げた。


 そしていつの間にか眠ってしまっていたのだろう。


 次に意識がハッキリとした時には。



 幼い女の子に膝枕をされて眠っていた。



 女の子はポケットに、あの忌まわしい髪を突っ込んで眠っている。

 ポケットのチャックには髪が絡まり、女の子の手首を掴んだまま動こうとしない。

 ぐっちゃぐちゃに絡まった髪とポケット、そして女の子の腕の三者が、なにか呪いのようにも思える。


「…おはよ」


 試しにぺしぺしと、頬を叩くと、ゆっくりと女の子が目を覚ます。

 おはようより先におじさんに状況を説明してほしいところだが、流石に子供相手に動揺して喚き散らす程自分の心は若くない。


「おはよう。起きたばっかりで大変だろうけど、出来たらおじさんになんでおててがこんなになっちゃったのか、教えてくれないかなぁ?」


 可能な限り優しくしなくてはならない。

 なぜならば、この状況を遠目から見るならば、寝ている女の子の顔を至近距離で凝視しつつ膝枕される酔っ払いのおっさんであり、ココで声をあげられようものなら日本の司法システム的に、まず間違えなく残りの人生を機能美を追求したホテルで過ごさなければならなくなってしまう。

 いや、その気遣いももう遅いか。


「えっとねー、おじちゃんの髪が変だから持って帰ろうと思ったんだけど絡まっちゃったから寝た」


 女の子は寝ぼけまなこを擦りながら答えてくれるが、何一つとして事態は好転しない。


 そもそも、である。

 自分のこの髪は、たとえどんな事があろうとも切れないし、抜けない。

 絡まっているチャックは金属製であり、当然ながら素手で切れるわけが無い。


「ねぇ、ぽっけに入ってるおててって、外に出せるかな?」


 という唯一の望みも、


「できなーい」


 と打ち砕かれる。

 つまり現状、この状況を抜け出す術はない。

 女の子のポケットから40…いや、絡まっていることを考慮すると、およそ30cmしか顔を離せない。

 体勢的に、ろくに携帯すら触ることが出来ない。

 一体どうすればいいのだろうか?


 警察は捕まる

 友人は仕事

 家族は遠い

 バッグには何があったか

 チャックを意味もなくカチャカチャと弄る

 まるで知恵の輪みたいだ


 遠くの方がなにか騒がしくなっている。

 夕方なのになぜだか明るい。

 ドップラー効果の例にあげられるようなあの音が近づいてくる。

 ヒステリックに聞こえる女の声。


 あぁ、考えるのも面倒くさい。

















「おじさん、眠いからもう1回寝てもいいかな?」

「いいよ。」

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