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作者によって「純文学」という名前をつけられた作品たち

かんぼけ

作者: 檸檬 絵郎

ある方のかっぽうのお題で、「樹木」からの着想作品としてお寄せしたものなのですが、

私主催「アートの借景」企画 参加作品にすり替えての投稿です。


ですが、今回は絵画メインではないです。本当に「借景」って感じ。


 朝、玄関を出ると、ぼけの木が視界に入る。素朴な色をした細い枝に、いくらかの桃色の花をつけた低木。駐車場へ出てから振り返ると、冬の陽を浴びてより一層、その上品な色を際立たせる。

 この時季に咲く種類は寒木瓜かんぼけというらしい。寒くなるにつれて、淡い桃色だったぼけの花は濃い桃色へと変わっていく。赤みが増していく。それは寒い日に肌が紅潮し、吐く息が白濁するのと似ていた。また、長ねぎをたわめて育てると、ストレスで糖分が増えるのとも似ていた。


 いつだったか、スーチンの描いた赤いグラジオラスを見たことがある。鮮やかな絵で、私は一目見て、美しいと思った。ポストカードがあったので買って帰ったが、うちに帰ってみるとそれは、病的なまでに歪んだ毒々しいグラジオラスの花であるとわかった。調べてみると、スーチンという画家は内面を反映したある種悲劇的な作風を得意としたのだそうだ。

 けれど、私の抱いた「美しい」という感動が間違っていたとは思えない。今でさえ、ポストカードにプリントされた染み付くような赤色のグラジオラスを見るたびに、やはりこれは、美しいのではなかろうかと思う。



 年が明けて、ぼけの花を見た。朱に染められた花のいくつかが、しわくちゃになっていた。私は思った。これもまた、グラジオラスの赤なのだな、スーチンの悲劇の赤なのだな……

 冷たい陽光を浴びるぼけの花と、いくらかのそれを細い枝で支える素朴な色のぼけの木は、これから出かけようとする私の心に、静かな風を吹き込んでいた。






いずれ挿絵を追加したい。

写真を撮りまくっているので、たぶん描くと思います。

季節外れになりそうですが……



……だって冬になって、『夏の夜の川』の挿絵を追加した私なのですから。





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絵画情報


シャイム・スーティン(ハイム・スーチン)

『赤いグラジオラス』(1919年頃)

デトロイト美術館所蔵





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― 新着の感想 ―
[良い点] 『たまねぎ』と比較すると面白いかな とも思いました イラスト挿し絵があると、もっと引き立つかも イメージって大切かも知れません 文章だけで伝えられるのなら 凄い事だとも思います
[一言] 純文学というと、私には敷居が高く、例によって本作の真の良さが理解できていないと思うのですが、何か絵画的な、木瓜とグラジオラスの赤が目に浮かんでくるようでした。
[良い点] スーチンの絵、独特の良さがありますよね。 あの良さは、好き嫌いが分かれる良さでもあります。 自然に歪んでいるのではなくて、意思を持って歪んでいます。 檸檬さんの寒木瓜の絵は、どんな風になる…
感想一覧
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