5日目
登場人物
境野里奈:平輪高校3年生
鷹取みのり:平輪高校3年生
前田哲彦:平輪高校3年生
有沢淳也:喫茶店「アリサワ」マスター【1日目処刑者】
有沢美琴:喫茶店「アリサワ」店員【1日目犠牲者】
鷹取勝正:仁楼村駐在警察官【2日目処刑者】
名畑継治:仁楼村村長【3日目処刑者】
柿原清美:平輪高校物理教師【3日目犠牲者】
林川凌介:平輪高校3年生【4日目処刑者】
名畑修二:小説家【4日目犠牲者】
相関図
~~まとめ~~
占 林川凌介 名畑修二○→前田哲彦○→名畑継治●→鷹取みのり●
柿原清美 有沢美琴○→境野里奈○→名畑修二○
霊 鷹取勝正 有沢淳也○
有沢淳也
騎 名畑修二 ?→柿原清美→?→?
処 有沢淳也→鷹取勝正→名畑継治→林川凌介
犠 有沢美琴→なし→柿原清美→名畑修二
気が付いたら里奈は、自宅の玄関の前まで帰っていた。辺りを見回したが、人の姿は見えない。里奈は何が起こったのかまるっきり覚えていなかった。
里奈は呆然としながらドアを開ける。ドアノブを持った瞬間に気が付いたのは、掌についたロープの跡。クッキリとした跡が残っている。
1歩1歩廊下を歩く度に、徐々に里奈の頭に記憶が蘇る。
人狼が村に現れた。すごくすごく前の気もするし、ほんの前の気もする。
最初に殺されたのは都会の大学からやってきた大学の先生。仁楼遺跡を調べていて、凌介の家の宿に泊まっていた。
その日を境に、毎日ひとりずつ村の人たちが人狼に殺された。お父さんもお母さんも、村のおじいちゃんおばあちゃんから小さな子供まで。毎日誰か、必ず殺された――。
気が付いたら、村に残っているのは自分含めてたったの10人。お姉ちゃん、淳也さん、村長さん、修二さん、カツさん、柿原先生、そしてかけがえのない親友と恋人――――凌介、哲彦、みのり。
でも次々と人がいなくなった。淳也さん、お姉ちゃん、カツさん、村長さん、柿原先生、そして凌介。悲しいよ、あたしはすごく。あの凌介が、人狼に成り代わられていたなんて。あの優しい凌介がもういなかっただなんて。
次の日、修二さんが来なくて集会場に集まったのは3人。そしてあたしは、あたしは、あたしは――。
◇
〈数時間前〉
朝日はいつもと同じように昇った。この村にはもったいないほどの輝き。もしかしたら、もうこの朝日を眺めることはないかもしれない――いや、絶対にそうはなりたくない。里奈は目一杯朝の空気を吸い込むと窓を閉めた。
そして集会場へ向かうため、階段を下りて玄関へ。
……あら? 里奈は玄関ドアのフックに、見慣れないものが掛かっているのを見つけた。
◇
里「おはよう……」
議論場には、既に親友と恋人の姿はあった。とてもとても沈痛な面持ちで。
哲「……それじゃあ、議論を始めようか」
み「そうね……」
里奈は耳をふさぎたい気持ちでいっぱいだった。こんな話し合い、聞きたくない。なんでこんなことになっちゃったんだろう。なんでなんだろう。
里奈はギュッと奥歯を噛みしめて、「お願い」と短く言った。
哲「人狼、なんでみのりを襲ったんだ? みのりは――みのりは、里奈の1番の友達だったのに」
み「それはこっちのセリフよ。哲彦を返してよ、里奈の大好きな哲彦を」
哲彦は大きくため息をつくと、冷たい目をみのりに向けた。
哲「まあ、しょうがない。君はみのりじゃない。信じたくはなかったが、みのりに成りすましている人狼だ。そう思って、話させてもらうよ」
み「それはみのりも同じだよ。あなたは哲彦じゃない。昨日の夜までは信じていたかったけど、しょうがないよね。あなたは哲彦の皮を被った人狼、それを頭に置いて喋らせてもらう」
里「覚悟は――――してきてるから」
里奈はふたりの眼を見てから頷いた。
み「じゃあ、みのりから話させてもらうね。やっぱり1番怪しいのは、人狼の凌介からあなたは人間だと言われているいること。それも2日目という割と早い時期に。そうすれば、多少あなたが論を誘導しようとしても、処刑される可能性はグッと低くなる。あの時点で、片方の占い師の結果が人間であるあなたを処刑することはほぼないから」
哲「確かにそうだな。オレもどうせそこは追及されると思っていたよ。そこに関してオレは何も言うことはない。君らがこうなることを予想してあらかじめ手を打っていた、そういうことなんだろうな。じゃあオレの反論だ。真の占い師の柿原先生が襲撃されたのは、2日目の夜。これが意味するのは君が占われる可能性を懸念したということ」
み「それはあなたも同じでしょう? 3日目、みのりもあなたも十分に先生から占われる可能性はあったわ」
哲「いや、そうじゃない。2日目時点で占われていたのは、美琴さん、修二さん、里奈、オレの4人だ。より占われる可能性が高かったのは、どちらの占い師からも占われていなかった伯父さんか君だ。結局は修二さんを占っていたわけだけど」
み「柿原先生をコントロールすることは難しいから、あなたが懸念したのは、偽占い師の”林川凌介”が人狼に人間だと嘘をついていることを考えて、先生があなたを占うこと。1日目の時点で先生を襲撃しなかったのは、2日目に人間判定をもらっても片方の占い師がいなくては信用されないと思ったから。だからあえて、2日目に先生を襲撃しようとした。襲撃が成功していれば、先生の残した結果は里奈の人間判定だけになって非常に優位に立てる」
哲「いや、違うな。もし先生が襲撃されていたら、”林川凌介”を処刑して4人で最後の日を迎える、そんな展開になりやすいんじゃないか? 確実に村に平和をもたらすためにな。やっぱりそう考えると、君は元々目立つ位置ではないから、処刑されにくかったのもしれないな」
み「……どういうこと?」
哲「はっきり言って、君は実に狡猾なんだよ。あまり意見は出さないが、心情的に処刑しようと思える位置ではない。カツさんとのやりとり、あれは実にすごいよ。本物の娘と父のようだった。だがそれも、今の位置に入り込んで処刑を免れるための策略だったんだろう?」
み「ひ、ひどい……! みのりは、ホントにお父さんのことが……」
哲「もう良いんだよ、人狼さん。オレはここで死ぬわけにはいかないんだ。1日目2日目のあなたは、終始カツさんを庇うことに徹していた。みのりの性格を考えれば、何ら不思議なことではない。だがそれは、自分が人狼ではないアピール。ホンモノの鷹取みのりであることのアピールに過ぎなかったんだ。ああしておけば、自分よりも中身の見えにくい人物に占い先が向くだろうという作戦。現に先生は里奈を占っているからね。3日目はまあ運がよかったというトコだろう。殺せなかった先生は、修二さんを占っていたんだから。でもどのみち、3日目にも占われる可能性は2日目と同じく低かったろうけど」
み「そんな……。でもあなたがその気なら、みのりも言わせてもらうよ。あなたはみのりとは逆に、よく喋るタイプよね。元々の哲彦の様子を考えても、彼は頭が良かったからこういうことに真面目になるのは普通に見える。だから論を自分の進めたいように進めても、大した違和感は生まれない。例えば1日目、霊媒師のどちらかに手をかけることを提案した修二さんに、最初に乗ったのはあなた」
哲「それはただ、オレもそうした方が良いと思ったからだよ。村のためならしょうがないと思って」
み「ふぅん。でもやっぱり、人狼はそうやって自分の都合の良いように村を動かすものだと、みのりは思う。それに3日目に”林川凌介”の占い結果から村長さんを処刑しようと言ったのも、あなたよね?」
哲「それも同じだよ。オレは村のために貢献しようと、最善の方法を提案していただけで……むしろあまり意見を述べようとしない、君の方が怪しいんじゃないか?」
み「そうかしら? 人狼は殺されるわけにいかないの。だったら積極的に、自分が村にとって必要であることをアピールし続けた方が、生き残れる可能性はあがるんじゃない? それに3日目はあなたの発言が火種となって、みのりを含めた村人たちはほとんど村長さんに投票してしまった――彼はただの人間だったのに」
哲「そんなのは何の人狼の根拠にはならない! だったら、他の意見を出せば良かったろ!」
み「違うわよ。そういう他者の意見を受けなさそうな説得力が、あなたの人狼であることを示しているんじゃない。人狼は、場の流れを思うとおりに動かせた方が良いに決まってる」
哲「オレは……オレはただ自分の正しいと思ったことを言っていただけだ。村のためを思って、行動してきた。それに対して君はどうだ? 何も言わずにうまいことやり過ごしていただけじゃないか。でも今日はそれが嘘のようにスラスラと意見を述べている。そうしているのは、昨日までとは違って今日は君ひとりの力で里奈を騙し切らなくてはならないから」
み「そうじゃないわ! 今日、この日はなんとしてでも里奈を説得しなくちゃならないから。あなたに殺されるわけにいかないからよ! それにみのり、思うの。人狼は村人たちを誘導して、人を減らしていった方が良い。日頃から意見を出したり、周りを巻き込んだりして。霊媒師と名乗った淳也さんとお父さんはまだしも、村長さんはあなたが処刑に誘導したようなものじゃない!」
哲「そうだ、オレは確かに伯父さんを疑って殺したさ! だがオレはその罪を一生背負って生きていく覚悟がある! 村のためとはいえ、人狼でなかった伯父さんを殺してしまった罪を!」
み「そんなの何とでも言えるわ! ただ村を動かそうとしていたこと、それだけは事実でしょ!」
哲「そうだ、事実だよ。だが君は2日目、人間の心理的に占われにくい位置にいたというのも事実だ。そして3日目、占われる確率が少し上がるその日に先生を襲撃しようとしているんだよ。他にも1日目、オレの出した『能力者に名乗ってほしい』という意見を推していたよな。3日目の伯父さんを処刑しようとしたオレや修二さんの意見にも、君は柿原先生に尋ねられてからだけど賛同している。結局は、多数派の意見に乗って怪しまれない位置にいようとしていたんじゃないか? それから1日目の投票、君はもうひとりの人狼である”林川凌介”と同じく淳也さんに投票している」
み「それは関係ないでしょ! あの日、あなたたち人狼にとっては霊媒師と名乗ったどっちかが狂人っていう情報しかなかったはず。だから『狂人が残れば良いなぁ』くらいの気持ちで投票するしかない。だからお父さんに投票したあなたと、”林川凌介”と同じく淳也さんに投票したみのりでは、別に差は生まれていないわ。それに”心理的に”って言うのなら、あなたが昨日”林川凌介”と繰り広げたあの”茶番”こそ、今日にこうなることを見越しての布石だったんじゃない? 彼とのつながりなんてまるでないと見せかけるための」
哲「違う! オレは……!」
その瞬間、柱時計が低い音を響かせた。
里「どう、すればいいの――?」




