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プロローグ

 とある時のとある所。仁楼じんろう村という村があった。そこは周りを険しい岩山に囲まれ、外界からほぼ隔離された地域であった。1本のトンネルが隣の平輪ひらわ町に続いており、それが他の町との行き来をするための唯一の道だった。学校のない仁楼村に住んでいる学生は皆、そのトンネルを20分程度歩いて平輪町の学校へ通っていた。仁楼村はいわゆる”田舎の村”というヤツだった。人口はそんなに多くはないが、若者から年寄りまで幅広い年齢層の人々がそこに住み、仲良く平和に暮らしていた。


 そんなある日。考古学者と名乗る男が仁楼村にやって来た。年に2,3度はテレビの取材やら植物の研究やらで遠方から人がやってくることもあったので、村人たちは男を何の疑問も持たずに村に泊まらせた。男は、村人たちも滅多に立ち入らない仁楼遺跡の調査が目的だった。毎日のように助手と共に遺跡へ向かって調査を進めた。

 男がやってきて2週間経った頃であろうか。珍しくたったひとりで仁楼遺跡に足を踏み入れた男は、仁楼村の秘密を見つけてしまったのである。




「100年に1度、夜になるととても濃い霧が発生する。

 どこからともなく、狼の遠吠えが聞こえてくるだろう。

 村人たちは深い眠りに落ちる。

 いつも通りの明日が来ると信じたまま。

 狼はふたりの村人を襲う。

 そして、襲った人物に完璧になりすますのである。

 家族や友人、恋人ですら気が付かないほど完璧に。

 記憶すらも奪って。

 そして、毎晩村人ひとりを襲うのだ。

 村が完全に滅びるまで」


 そこまで古文書を読み解いた安野やすの吾郎ごろうは、思わず手に持った資料を落としてしまった。

「まさか……これは本当なのか?」

 思わず言葉が漏れる。早く村人たちに知らせねば。そして村人たちを避難させよう。この「100年に1度」というのがいつかは分からないが、早く逃げることに越したことはない。そうすればきっと被害は出ないはず。吾郎は資料を鞄に詰め込み、急いで遺跡を出た。

「……ん?」

 辺りはすっかり日が暮れていた。どこからかフクロウの鳴き声がする。慌てて懐中時計を取り出すと、既に午後11時を過ぎている。どうやら調査に夢中になって、時間が経つのを忘れていたようだ。吾郎が宿への道を歩み始めようとすると、自分の向かおうとした方向からふたりの人物が姿を現した。暗くて誰か判別することは不可能だが、おそらくなかなか帰らない自分を心配して様子を見に来たのだろう。吾郎はそう思った。

「ご心配かけてすみません。つい熱中していて、こんなに遅くなってしまいましたよ」

 吾郎が呼びかけてもふたりは反応しない。ただこちらに向かってじりじりと歩いているだけだ。その時、吾郎はふと疑問に思うことがあった。それはこんな真夜中にふたりはライトも持たずに歩いていること。自分を探しに来てくれたのならそれくらい持っていそうなものだが……。

 吾郎は鞄からライトを取り出してふたりに光を当ててみる。すると、良く見知った顔がそこにはあった。

「おや、あなた方は――」

 言いかけた次の瞬間、吾郎の首筋にグサリと何かが突き刺さる。

 声を発する間もなく吾郎はその場に膝から崩れ落ちた。

 辺りには血の匂いが漂う。

 何かを引き裂くような音が、森に静かに響く。

 村からは濃い霧が流れてきていた。

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