1年後のアンモナイト *5* PM3:10
「ん、じゃあ波瑠が一緒に買い物するはずだったのか?」
「うん、そのときまでは」
電車は順調に進んで、もうすでに半分まできた。
相変わらず車内のアナウンスは大きくて、ちょくちょく会話を中断させられるけど、この数分間で慣れてきてしまった。
「それなら、なんで波瑠泣いてたんだ?」
二人を見つけた瞬間は由有を疑ったけど、すぐにそんなわけないって思ったよ、と栄司はつづけた。
でも今の話だと、やっぱり由有のせいなのか?と首をかしげている。
途中、停まった駅で黒いストレートヘアの女性が乗車してきた。黒髪にグレーのコートといういでたちが、ついさっきまで一緒にいた女の子を思いおこさせる。
でも、よく見るとコートの質感も違うし、高級そうな皮のカバンを持っている。
携帯電話を持つ指先には赤く塗られた爪。携帯電話そのものにもキラキラした飾りがついていて、あの子の好みではないだろうな、と思った。
それに、その人の年齢はもう僕たちよりも年上なくらいだろう。
「由有ってああいう人が好み?」
栄司が、突拍子もなくそんなことを言ってくる。
「ううん。別に」
「ふうん・・・」
どうにも納得がいかなそうに栄司が頷く。
家の最寄り駅までは、あと二駅。
「それで、僕は栄司にメールして聞いてみようとしたんだよ。波瑠ちゃんが一緒でもいい?って」




