1年後のアンモナイト *3* PM3:02
「いやいやいや、由有の午前中の生活について聞いてるわけじゃねーけど」
帰りの電車はすぐにきた。
ホームへの階段を上がりきるのと同時に電車がすべりこんできた。
5分以上待たされることもざらにある電車にすぐに乗れるなんてラッキーだ。
寒い中待たなくてすむのはありがたい。
「でも、これも栄司に話さなきゃいけないと思ってたからさ」
年末年始に帰る、とか。
三が日の内に加瀬家に挨拶しに行く、とか。
「まあ、聞いておきたい情報ではあったけど」
「でしょ?」
電車はそんなに混んでいなかったけれど、席はぽつぽつと空いているだけだ。
二人そろって座れることはなく、座席の前に二人でならんでつり革を持つ。
乗り込んだ電車の車内アナウンスの音量はいやに大きかった。
アナウンスが流れるたびに、会話が遮断されるほどには。
「それで、いつ波瑠が出てくるんだよ?」
先を促してはくるけれど、さっきの剣呑な雰囲気はもう感じられなくなっていた。
今朝の話から始めたおかげで、栄司が落ち着いてくれたみたいでよかった。
そりゃあ、自分の妹が泣いてる現場にあったら何があったのか気になると思う。
それに、栄司は結構シスコンだと思う。
波瑠ちゃんのことも瑠里ちゃんのことも栄司は大好きだし、二人だって栄司のことすごく好きだと思う。
本人たちに言うと、否定するけど。
けんかばっかりだって本人たちはいつも言っているけど、そもそも仲良くなきゃけんかもしない。
ああ、でも栄司が一人で暮らすようになってから、やっと『妹がいるのも悪くない』なんて言ってたっけ。
妹の二人も『お兄ちゃんがいてもまあいいかなって思う』なんて言っていた。
離れて暮らしてみると、素直になれるものなのかもしれない。
きっと彼女たちが歳を追うごとに、これから仲良くなっていったりするんだろうな。
兄弟がいるってうらやましいかも。
「由有、何笑ってるんだよ?」
いけない。
怖いお兄ちゃんを落ち着かせることが先決だった。
「ごめん、ごめん」




