1年後のアンモナイト *2* AM7:00
12月23日、天皇誕生日の祝日。
今日は、栄司と会う約束をしている日だから、ちゃんと日付を覚えていた。
金曜日だけど、休日。
買い物するものがあるから付き合ってくれ、と栄司に頼まれていた。
何を買うっていってたんだっけ?
まあ行きさえすれば、好きなように動く栄司についていけばいいだけだ。
今日はちゃんと出かけるための身づくろいをしなきゃいけない。
時計を見ると、まだ朝の7時。
いつもより早く起きてしまった。
布団から出ると、朝の冷たい空気が体中に襲い掛かる。
天気予報は晴れなはずだけど、冬の朝はまだ明るくなりきらない。
寝室を出ると一番にエアコンをつける。
性能はわるくないはずだけど、温まるまでに時間がかかるのが難点だ。
シャワーでも浴びようか。
たまに出かけるときくらい、慣れないことをするのもいいかもしれない。
栄司とでかけるなら、少しくらい身ぎれいにしていかないと怒られそうだ。
それに、栄司はけっこう見栄えする外見をしているから、隣を歩くならちょっときれいにしないと、という見栄もほんの少しだけある。
お湯がでるまでの数十秒を寒さに震えて、お湯がでたらその温かさがじんわりと全身にしみわたった。
髪を乾かして、服を着てリビングに戻るとエアコンが効いたのか少し温かい。
個包装のドリップコーヒーを淹れる。
本当はお茶のほうが好きだしお茶葉もあるけれど、ポットの洗い物が増えるのが面倒だ。家にある白い陶器のポットは小さい割に縦に長くて洗いにくいことこの上ない。
しかもお湯を満タンまで入れると、マグカップ1.2杯分くらいというなんとも微妙な量しか入れることができないから、一人で使うにも微妙だし、二人で使うにはもっと微妙だ。
新しいの買おうかな、と思っていてもなかなか実行にはうつせないままだ。
冷凍パンでもあったかな、と冷凍庫をあけてみるけれど期待は裏切られて、すっからかんだ。そういえば昨日の朝、食べきったような気がする。買わなきゃな、と思ったんだった。
ご飯を炊くのも面倒だし、朝ごはんはこのままコーヒーだけか。
栄司との約束は午後だから、それまで何も食べないのはきつい。
買い物にでも行こうか。
でも、どうせ夜は栄司が来ることになるだろうから、しこたま買い物をしてくることになるだろう。それまで待つのが得策な気がする。
ああ、そういえば、貰い物のお菓子があったかもしれない。
お歳暮だといって出版社の担当さんが持ってきてくれたものだ。
朝ごはんは、それでしのごう。
とりあえず、お昼を考える時間までは仕事でもしようか。
パソコンと携帯電話を寝室から運んできた。
携帯のボタンを押すと、着信を知らせる通知がある。
おばあちゃんからだ。
用件の見当はつく。カレンダーをじっとみつめて、考えにふけっていると再び電話が鳴った。
『由有? 元気なん?』
お決まりの言葉から電話が始まる。
「うん、元気だよ」
『年末年始やけど、いつこっち来るの?』
用件は予想の通りだ。
「大掃除はいつなの?」
『30日やな。31日はもうおせちつくって、正月の準備せなあかんで』
「それなら、30日に行くよ」
きっと大掃除なら、手伝えることがあるだろう。おせちづくりは無理だけど。
『助かるわ。義弘も31日まで仕事やっていうし、女手だけでは掃除しきれんところもあるで、由有がしてくれるなら大助かりや。年始はいつまでおるん?』
「2日までかな」
『そうなん?もっとゆっくりしとったらいいのに』
「でも、三が日の間に栄司の実家にも挨拶しに行きたいから」
それに、3泊くらいがいまはまだちょうどいいと思う。
『それなら、栄司くんのところにもっていってもらうおみやげも用意せなあかんね』
あ、おみやげか。
そういえば、田舎の実家に帰るときにはお土産を買っていくものだったりするんじゃないだろうか?
「おばあちゃん、何か食べたいお菓子とかある?」
『別になにもいらんで。身一つで帰ってきなさい』
新幹線の時間の相談をして、電話を切った。
おみやげは要らないと言われたけれど、たぶん何か買っていくのがいいだろう。
そうだ。せっかく今日はデパートのある街に行く用事があるんだから、今日おみやげを選ぶのがいいかもしれない。
日持ちするものなら、今日買ってもいい。
それなら、お昼の時間になったら出かけよう。
外で昼食を食べて、おみやげを選びにデパートにいって、そのあと栄司との待ち合わせ場所にいけば十分間に合うだろう。
栄司の買物に付き合って、そのあと食料品を買い込みながらここにきて、一緒に夕飯食べる感じなのかな?
うん、今日の予定はそれで決定だ。




