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4 再会―巻貝由有―

 食後のお茶を飲んでいると、母が何かを思い出したように顔を上げた。

「由有ちゃん、お友達の子は元気?」

「栄司のこと?」

 なんで母が知っているんだろう。祖母から聞いていたのだろうか。

「そう、その子」

「元気だよ。どうして?」

 一度顔を合わせていた祖母ならともかく、母が栄司のことを気に掛けるのはなんか違和感があった。

「お礼が言いたいの。栄司くんとお母さんに。写真、ありがとうって」

「写真?」

 覚えのない言葉に首をかしげていると、母はとなりの部屋からアルバムを取ってきて、開いたページを見せてくれた。

 高校の卒業式の写真があった。

 大学の卒業式が終わって『そのまま加瀬家に来い』と呼び出されたときに外で栄司と撮ってもらったスーツの写真もあった。

 あとは、瑠里ちゃんと写っている写真も。これはたぶん、瑠里ちゃんの高校の制服が届いたときにたまたま加瀬家に居合わせて、「制服をきて写真をとろう」って言ったときのやつだ。

 その3枚が、きれいにアルバムにしまわれていた。

「栄司くんのお母さんが、たまに送ってくれていたの」

 母は、アルバムをとじてそれを抱きしめた。

「私のたからもの」

 なんだか恥ずかしいような、くすぐったいような、不思議な気持ちだった。

 栄司のお母さんが写真を送ってくれていたなんて知らなかった。

 そういえば写真をとられた割にはその写真が僕の手元に来ることがなかったな。

 こういうことだったのか。

 栄司もたぶん知ってたのかな。

 まったくもう。



 そのあと僕は、その写真がどういう状況で取られたものかをひとつひとつ説明することになった。

 そうして加瀬家のみなさんのことにも話が及んだ。栄司のことはもちろん、波瑠ちゃんと瑠里ちゃんのことも僕の家族の知るところとなった。ケーキが大好きで、いつもお土産を全力で喜んでくれる可愛らしい2人のことも話した。

 最近は加瀬家にお邪魔するとお父さんからお酒をちょっと分けてもらったりするよ、と話すと叔父さんは

「いいなあ。今度は僕とも一緒に飲もうよ」と誘ってくれた。

 次来るときにはいいお酒仕入れておくよ、と約束付きで。

 ただし、叔父さんも僕もあんまりたくさんは飲めないのが祖母にばれてて、

「ほどほどにしときなさいよ」

 なんてたしなめられてしまった。

 母は、加瀬家でいつもごちそうになっている料理はどんなものなのかと聞いた。

 加瀬家の子どもたちの好物をいくつか挙げる。

「お母さんも作れるように、練習するわ」

 そう言ってくれたけれど、

「僕はおばあちゃんが作ってくれる煮物とかも好きだよ」と答えた。

 だって、この家で食べるには、加瀬家の料理はちょっと油が多いような気がして。

 母は、祖母に目を向けると

「そうね、そういうお料理のほうがいいわね」と笑った。

 祖母はそれに気づいて競うように言った。

「わたしだって揚げ物たべることくらいあるわ」


 なんだか、普通の家族みたいな会話だった。


 いつのまにか夜は更けていて、祖母は時計を見て立ち上がった。

「由有、今日は泊まっていけるんやろ?」

 うん、と頷く。

「そんなら、ふとん出すから手伝って」

 祖母について、部屋を出た。

 この家の生活習慣に合わせて、用意された部屋でいつもよりずいぶん早く布団に入ると、栄司に「今日は泊まることになった」とだけメールしておいた。

 また心配かけると怒られるから。

 言いたいことはいっぱいあるけど、それは会ったときに取っておこう。

 

 早く会いたいな、と思いながら目を閉じた。


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