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4 再会―巻貝由有―

 広い駐車場に車が止まる。

 平屋みたいな形で、ちょっとだけ2階部分がある家だった。

 小学生の時にみたはずのその家は、まったくと言っていいほど記憶になかった。

「大人になってから来るのは初めてやろな」

 はい、と頷く。

 駅に着いた時には不思議なくらい落ち着いていた心も、さすがに家を目の前にするとさざ波を立て始めた。

 叔父は、僕のその気持ちを読んだかのように背中を軽くたたいて、玄関へ向かった。

 通り抜けた庭には、花や野菜が植わっていた。

 叔父が玄関を開けようとしたら、向こうから扉が開いた。

 それに驚いたみたいで、こちらがわに開いてくるドアに当たらないように慌ててよけていた。

「うわ。姉ちゃん、あぶないよ」

 彼がそう言った。

 ということは、ドアの向こうから、出てくるのは・・・。

「由有ちゃん!」

 今にも泣きそうな目でこちらを見つめていたのは、母だった。

 まぎれもない本人だけど、9年の歳月は母にも訪れていたみたいで、歳をとったな、と思った。でも、健康的な顔をしていた。ちゃんとまっすぐに由有を見ていた。

 母は、由有ちゃん、と呼びながらそっと近づいてきて、壊れ物に触るみたいに冷たい手が僕の頬に触れた。不思議とその冷たさも悪くないなと思った。

「・・・ごめん、ごめんね」

 そう繰り返しながら、母は僕のことを抱きしめた。

「つらい思いさせてごめんなさい。1人にしちゃってごめんね」

 母の腕も体も軽かった。こんなに細かったなんて知らなかった。

 身長も、記憶にある母よりもずいぶん小さくなった気がする。

「許してなんて言えないけど・・・会いにきてくれてありがとう」

 しゃくりあげるような声だった。

 僕はそっと母の肩に手を添えた。

「僕は大丈夫だから。お母さんも元気そうでよかった」

 自分の口からこんなにスムーズに言葉がでるなんて。自分が1番信じられなかった。

 でも、心からそう思ったんだ。

 僕は大丈夫だった。心も体も元気に生きている。

 幸せだなって思える時間も持っている。

「僕は大丈夫だよ」

 苦しんだ時間は、母のほうが長いのだろうと思った。

 「祐一」の影や、自分の心、罪悪感・・・そんないろんなものと戦って、苦しんで、巻き込んで、傷ついたり、傷つけたりして、年月を過ごしてきたんだろうな、と思った。

「もう、会ってくれないかと思ってた」

 震える声で、母は言った。

「そんなことないよ」

 強がってそう言った。手紙を前にしてあんなに悩んだなんて、ここでは絶対に秘密にしておかなければいけないと思った。

「手紙、ありがとう」

 今は、本当にそう思う。

 あの手紙がなかったら、こんな機会は訪れなかった。

 そう思ったら、なんだか急に目の前がじんわりとした景色になった。


「ごめんなさい」と言い続ける母と

「僕は大丈夫だから」そう言い続ける自分。


 2人とも目を拭うことさえせずに、ずっとそうしてた。

 祖母が出てきて

「あんたたち、はよ中に入りなさい」

 そう言われるまで続いた。


 祖母の家の敷居をまたぎながら、昨夜の栄司の言葉が頭に浮かんだ。

『お母さんは本当に由有に会いたいって思ってるよ。でも、いままでは罪悪感が強すぎて言えなかっただけだ』

 正解かも、とつぶやいた。

 「だろ?」と自信満々に言ってくる顔まで浮かんだ。


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