4 再会―加瀬栄司―
いつの間にか暗くなってきたから電気をつけた。
もう1度由有の携帯に電話をしてみた。あいかわらず電源が切られているというアナウンスが流れる。
明日までに帰って来なかったら警察に行くからな、と脅かすよなメールも打っておく。
明日までここで待ってみよう。
それでも帰って来なかったら、由有のばあちゃんに電話をしよう。うちの母にも話して警察にいくべきかどうか相談しよう。
テレビのない静かすぎる家で、どう時間を過ごせばいいのかわからなかった。
そのうち、ピンポーンとインターホンの音がした。
まさかと思ってインターホンの受話器もとらず、あわててドアを開けた。
そこに立っていたのは、中年の男性だった。スーツに重そうな黒いカバンを持っている。
「こちらは巻貝先生のお宅でよろしいですよね?」
巻貝先生、という呼び方。それでわかった。出版社の人だ。
「はい。巻貝は留守ですが・・・」
「私は巻貝先生の担当をしております高橋と申します」
名刺をくれた。名乗られたら名乗り返さなければいけない。
「俺は、巻貝の友人で加瀬です」
「ああ、巻貝先生の高校のお友達ですね」
俺の名前はしっていたみたいだった。由有が話していたんだろうか。
「先生は、お出かけですか?」
「はい、そうみたいで・・・」
玄関先で話すのもなんだから、と勝手に家に上げた。
いつもの俺の定位置に座ってもらって、俺は由有の定位置へ。
座ってもらったらお茶くらい、と電気ケトルで湯をわかす。ポットをだして、茶葉を入れて、湯のみを用意してお湯が沸くのをまつ。
「慣れてらっしゃるんですね」
「そうですね、ここで料理した回数は住人よりも多いと思いますね」
カチンと音がして湯が沸いたら、ポットへ注ぐ。
茶葉が広がったら、湯のみに交互に注ぎ入れて1つを高橋さんの前に置いた。
「いただきます」
高橋さんは丁寧にそう言って、両手で湯のみをもってお茶をのんだ。
つられるように自分も湯のみに手をつける。ちょっと茶は薄かったかもしれない。
「巻貝がどこにいってるのかは、俺にもわからないんです。もしかして締め切りとかですか?」
「いいえ。巻貝先生はいつも締め切りまでに仕上げてくださいます。今回も締め切りの数日前に原稿をいただきました」
「それなら、どうして?」
「確認したいことがあったので、メールをお送りしたんです。普段パソコンのメールでやりとりしているのですが、いつも1日とたたずに返信をくださいます。でも今回は3日たっても返信がなく、携帯にお電話さしあげてもつながらないもので。それで直接会いに来てみたという次第です」
3日か。じゃあ、金曜から返信がないってことか。
「ご心配おかけしてすみません。戻ってきたら至急連絡するように言いますんで」
「いえ、確認事項は今週中にお返事いただければ間に合うんです。ただ、もし家の中で倒れていたら大変だと思って様子をみにきただけですので」
高橋さんはお茶をゆっくり飲みながら世間話を少しして、「では、そろそろ」と立ち上がった。先生が戻ってきたらメールを確認するように伝えてください、と言って。
それから最後に
「加瀬さんが、先生の小説を生み出したんですね」
よくわからないことを言って帰っていった。
玄関まで見送って、湯のみとポットを片付けていると玄関でガチャガチャと音がした。
高橋さんがなにか忘れものでもしたのかな、と玄関へ行く。
「なんだ、栄司か。ドアのかぎ開いてたから、泥棒に入られたのかと思った」
そんなのんきなことを言う住人がいた。
「ばっかやろう!」
安心したやら、怒りたいやら、いろんな感情がうずまいて、それしか言えないまま、靴を脱いでもいない由有のことを抱きしめた。




