女子小学生二人が悪役令嬢を目指す話(挿絵あり)
「ねぇ月子ちゃん、なんか暇じゃない?」
小学5年生の青葉がぼーっとしながら呟いた。小柄な体に短い髪がよく似合う、元気そうな子だ。
「確かにねぇ……なんもする事ないものね」
同じく小学5年生の月子もぼっーとしながら応える。青葉の方を振り向くと同時、長い黒髪が物憂げに揺れた。
ここは月子の自宅。月子の友人である青葉は休みの日は毎日ここに来るのだ。しかし、することも無いのか、2人はソファーに寝転んでいるだけ。今日もいつも通り、グダグダと一日が終わるだろうなぁと思いながら、月子はテレビを付けた。
「あっ、そうだ!」
突然青葉がぱっと立ち上がり、ガサゴソと自分のカバンをあさり始めた。何をやっているのだろう。月子はぼーっとその姿を眺める。しばらくすると、青葉は勢いよくカバンから何かを取り出した。
「じゃーん! 新しいゲームソフト買ったんだよね〜」
青葉の手には新品のゲームソフトが握られている。
「なになに……悪役令嬢オンライン……。面白いのかしら?」
怪訝そうな顔を向ける月子。
「善は急げ! とにかくやってみようよ!」
言うや否や、青葉は勝手にゲーム機を取り出しソフトを入れる。
「よし!」
早くもテレビ画面にはゲームタイトルが表示されていた。
「……」
「ん? どうしたの月子ちゃん?」
「いや……なんかこのゲーム安っぽくないかしら?……例えばフォントとか」
フォント以外にも、なんともいうか雰囲気が安っぽい気がする。
「そんな事ないよー。このゲーム2万円もしたんだから」
「2万!」
思わず声を上げる月子。ソフトでその値段はいくらなんでも聞いたことがない。
「ささ、はじめよはじめよ」
「2万……」
腑に落ちない様子の月子を尻目に、青葉がはじめから、を選択。ゲームがスタートした。そしてテキストが表示されはじめる。
「ねぇこれ全体的にフリー素材じゃないの!?」
「何言ってるの月子ちゃん? 2万円のゲームがフリー素材なんて使うわけないよ?」
きょとんとした感じで青葉が言う。
「だって、なんか見たことあるわよこの絵! あと背景の模様がよく見たら画像加工する時のやつよ!」
「だって2万円のゲームだよ?」
「さっきから2万としか言ってないわよ!?」
こほん、と咳払いして一旦落ち着く月子。
「まず、このゲームどこで買ったのよ……」
「裏道でフードかぶったおじさんに売ってもらった……1グラム1000円で」
「ゲームをグラム単位で売ってるの初めて聞いたわ!」
「だって、合法で足がつかないって言ってたし……」
「それゲーム売る時の文句じゃないわよ……」
「確かに……よく考えるとゲームをグラム単位で売るなんておかしいよ!」
「よく考えなくてもおかしいわよ?」
しょんぼりしはじめる青葉。それを見て月子も少し焦り始める。
「…………よし、折角だからプレイしましょう! これから面白くなるかもしれないわよ青葉ちゃん!」
「そう……だね! じゃあ続けよう!」
「ええ」
「あれ、よく見たらこれ、「わたくし」の間違いで「わたしく」になってない……?」
「…………」
「月子ちゃん……」
「……」
青葉と月子は無表情で丸ボタンを押し、テキストを読み進める。ボタンを押すたび、悪役令嬢のセリフが出てくる。
『さて、さっそくだけど私は非常にピンチなの!』
『クソ泥棒猫が私の婚約者を奪おうとしている』
『あのビッチ……殺す』
『というわけで、私の婚約者を奪おうとするクソビッチ「アリア」をピクニックに呼んだわ』
『さて、どうやって殺そうかしら』
「ずいぶん過激なゲームね」
「こんなに過激なゲーム、2万円出さないと出来ないよね……もう元取ったと言っても過言じゃないね」
「強引に自分を納得させても悲しいだけよ……?」
大げさに誉めまくる青葉を優しく諭す月子。悲しそうな顔で青葉は丸ボタンを押した。
『というわけで、私はいま、のどかな高原に来ています!』
悪役令嬢の主人公が言う。そしてすぐにイラストが現れた。
「絶対のどかな高原じゃないわよこれ!」
噴火してるし……
「でも、画質が良いねこれ。 およそ2万画素くらいかな?」
「青葉ちゃんはそろそろ2万って言うのやめなさい!」
青葉の思考を打ち切るように丸ボタンを押す。悪役令嬢のセリフが続く。
『のどかな景色ですわね……』
「嘘つきなさい!」
「悪役令嬢にとってはのどかな景色なのかも……」
丸ボタン。
「やっぱり危ないじゃないの!」
月子はもはやツッコむついでのようにボタンを押している。
悪役令嬢はどうやら殺人を実行段階に移そうとしているようだ。
『さて、どうやってあのビッチを殺そうかしら……』
テキストと同時、イラストが表示される。
「やっぱり全体的に雑だわね……」
「だね……まぁ、それも込みで楽しもう……」
青葉はもはや諦めの境地に入ったらしい。
そしてもう一度丸ボタンを押すと、テレビ画面に選択肢が表示された。
「おっ、本格的なゲームっぽいね月子ちゃん!」
「嬉しそうね……」
二人は選択肢に注目する
▷蹴り殺す
▷焼き殺す
「どっちみち、このビッチさんは死ぬのね……」
「まぁ、逃れられない運命なんだよきっと……」
二人で相談して、焼き殺すを選択した。
『現れよ! ドラゴン!』
悪役令嬢は突然呪文を唱え始める
「ドラゴン!?」
「ドラゴンなんて来るのかしら……」
ボタンを押すと、突如空から何かが現れた。
「これドラゴンじゃなくてゴンドラじゃないの! しかも切り抜き下手くそ!」
「違うよこれは大日本帝国陸軍一三式艦上攻撃機だよ」
「なんでそんなに船に詳しいのよ……」
友達の無駄な特技を知り、妙に感心しながらも丸ボタンを押す月子。ポチッ
『ドカーン』
『いたい!』
「この爆弾、もはやケータイに入ってる絵文字じゃないの……」
段々と安さに磨きがかかってくる。安さ世界一にでも挑戦しているのだろうか。
「爆弾、って打つと出てくるね」
青葉がポケットからケータイを取り出しながら呟く。
「というか、このビッチさんは無事なのかしら……」
「いたい! って言ってる余裕があるみたいだし、きっと無事だよ!」
ビッチさんの無事を祈る無垢な二人。
丸ボタンを押す。
イラストが切り替わる。
「全然無事じゃなかった!!!!!」
「なんかエグいよ月子ちゃん!」
ビッチさんの顎から上が無くなっている。ご丁寧に血飛沫まで舞っている。
「なんか主人公が『してやったり』みたいな顔してるのが怖い!」
月子が画面に注目する。
「落ち着いて月子ちゃん! 主人公の顔は元々こんな顔だよ!」
青葉は平静を取り戻すように月子をうながす。
「…………ふぅ……」
「………………」
それきり黙ってしまう二人。丸ボタンを押す元気も無くなってしまった。
「……別のゲームやろっか」
「……ええ」
青葉の言葉を皮切りに、二人は悪役令嬢オンラインの電源を落とし、別のゲームソフトをセットし始める。こうして、二人は口直しにテ◯リスを始めた。
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| ロ | ロ
|ロロロ ストン | ロ
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「おっ、いい調子」
「がんばれ〜!」




