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第二話 ヒバリのこころ

 机の上のスマートフォンが七時を知らせるアラームを鳴らし、目が覚めた。設定したのは僕自身だけど、毎朝律儀に起こしてくれるスマフォを少し恨んだりする。アラームの曲は「惑星のかけら」にしていた。しばらく聴いていたが観念してベッドから立ち上がりアラームを止めた。

 スマフォを手に取り、ベッドに戻って座り込む。まだ眠気はあるものの体は覚醒し始めていた。でも、頭はまだぼんやりしている。昨日見たことは全て夢だったのかもしれない。考えては見ても、心のどこかでそれは本当にあったことだと認識している。夢にしては鮮明過ぎた。

 逡巡していても時間は過ぎる。脳裏に焼き付いた一連のイメージを振り払うように寝巻を脱いで制服に着替えた。簡単に朝食を済ませ、顔を洗い、祖父の仏壇に手を合わす。体に染みついた朝のローテーションを無意識で行い、自転車に乗って登校する。家を出たのはいつも通り七時四十分だった。


 二年生の教室は二階にある。僕のクラスは一組で、廊下の端だった。

 教室後方のドアを開けて自分の席を目指す。そうすると当然ながら前に座っている雨倉の姿が目に入る。雨倉はいつもと同じように二階堂と話している。

 僕が席に着くと二階堂がまず反応した。

「おはよう新垣君」

 雨倉も僕に気付き、振り返った。「おはよう……」

 雨倉の挨拶は何かを含んだ言い方だった。僕も二人におはよう、と返したが普段通りに言えた自信がない。

「新垣君って、大丈夫?」二階堂が訊ねる。

「なにが?」僕は返事する。

「体の調子が悪いのかなーって。昨日もタイムがすごく悪かったし。」

「タイム?」ここで雨倉も会話に入った。

「うん、私は陸上部でマネージャーやってるんだけど、新垣君の昨日のタイムがすごく酷かったんだよ。どっか道に迷ったみたいに」

 これには僕も雨倉もドキっとした。でも悟られないように顔には出さないように努めた。

「へぇ~、新垣君って陸上部なんだ……」と雨倉。

「あ、そうなんだ。陸上部で走ったりしてるよ……」と僕。

「陸上部なんだから走るのは当たり前じゃない」と二階堂が不思議そうに言う。

「あれ? 陸上競技って砲丸投げとか走らない種目もあるんじゃないっけ?」雨倉は素に戻った調子で訊く。

「うちは田舎だからそういう凝ったものはやってないの」二階堂が答える。

 そうして話題が変わっていったことにホッとして、また話題を振られないように机に荷物だけ置いて退散した。


「今日はサボるなよ」

放課後の練習中、岡野が言ってきた。

「サボってはないよ」僕は嘘をついた。

「サボってないなら昨日は何やってたんだよ」

「何って……」

「何を隠してんだよ」

「なんでもないってば」

 岡野は勘が鋭い。二階堂と違って隠し事をするには向かない相手だ。

 そもそも何で隠しているんだろう。自分のことじゃないのに。僕にも分らないことなのに。


 昨日のこと。神社でのこと。

 雨倉と黒い怪物。雨倉が戦っていた。雨倉の右手が銀色に光った。雨倉が殴った。怪物が消滅した。雨倉が僕に気付いた。そして……。


「雨倉さん……」

「新垣君……」

 二人の間に気まずい空気が横たわっていた。神社の境内は先ほどの戦闘なんてなかったかのように静寂に包まれている。怪物が地面を抉った痕だけが寂びれた神社に不釣り合いに残っていた。

「どうしてこんなとこに?」先に言葉を取り戻したのは僕だった。

「うん……」

 雨倉は言い淀んだまま次の言葉が出せずにいた。

「それより新垣君こそどうしてここに?」

 今度は僕が口を噤む番だった。素直に雨倉の後をつけてきた、というのは憚られたし、なにより知り合って間もないのに一歩間違えればストーカーのような行為をしていたと知られたくなかった。

「散歩……かな?」疑問形で答えてしまった。

「こんな何年も人が来てないような場所まで?」

「う……」

 なんだか僕らは酷く混乱して、お互いに上手く会話できなかった。

 雨倉は、「明日の放課後、時間ある?」と訊いた。

「六時過ぎなら……」

「じゃあ待ってるからその時に改めて話そう」

「うん」

 それだけ言うと雨倉は急ぎ足で去って行った。神社に一人残された僕は呆然と立ち尽くしていた。体の制御が戻ってから山道を下っている時に、そういえば口止めもされなかったなぁ、と思った。


 

二話 完

今回は短いですがキリがいいところで。

次回の更新予定は8月3日。

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