2.
「お昼だね。何か食べようか」
準は、園内にあるフードコートを指差した。
フードコートと言っても、ショッピングセンターにおかれているような立派なものではない。
空の下に汚れたテーブルが置かれ、冷え切った椅子があるだけだ。
「……」
さすがに、ここでは体が冷えてしまう。
だからと言って、暖かい場所で食べたいというのは、園を出る以外にないのだ。
「それとも、動物園を出て、どこかの店に入る?」
準は佐織の顔色を伺うように言った。
園を出るにしても、まだ半分も動物を見て回っていない。佐織もそれは十分わかっているのだ。
寒さを堪えて準に合わせるか、ここはわがままを通すべきか。
佐織はちょっとの間考えると、ニッコリと笑ってこう言った。
「ラーメンが食べたいな」
準は、ホッとしたように笑顔を出すと、売店へと歩き出した。
「う~ん。彼女、かなりの兵と見た!」
「え? これまた、どうしてです?」
「“寒いけど我慢するわ詐欺”ですよ!」
「“寒いけど我慢するわ詐欺”?」
「そうです! この健気さが、相手の心を掴むんですよ」
「そんなものですかぁ」
お昼を食べ終り、動物たちを見て回る。
食べたせいか、大分体は温まってきたように感じる。
二時を回った頃、二人は動物園を出ると、電車での移動となる。
都内なのだから、電車の移動は当たり前のことだと認識すべきだろう。
しかし、佐織は準に言った。
「免許は? 車は?」
「え? 免許はあるよ。車は……都内なら、要らないよね」
「そうなんだ……」
「だって、止めるところがないし」
「……そうだね。でも、ドライブも……いいなって」
「ドライブか……そうだね。じゃさ、今度車を借りてくるから、そしたらドライブに行こうよ」
「ううん! いいの、いいの! 別に行きたいわけじゃないから。気にしないで!」
佐織が必死に否定して見せるが、準は逆に次のデートでは車を用意するからと約束してしまった。
「“小さなわがまま詐欺”ですな」
「何ですか、それ?」
「こうやって、チラッとわがままを言ってみて、相手の反応を見てみる。そして、引く! 見事です! こんなことをされたら、誰だって参りますよ」
「そういうものですかぁ」
坂内は、自分だったらどうだろうと想像してみた。
確かに、付き合いだして間がない相手なら、彼女の意向に沿うことだけを考えるだろうと思い至った。が、全てが黒鷺の言うとおりになるものだろうかと、疑問が湧き出していた。
その後、観覧車を乗りに行ったり、海が見える場所を散歩したりと、これが暖かい季節なら最高のデートコースだったはずだが、残念なことに寒すぎた。
「今日は楽しかったぁ」
夕食を食べ終わると、佐織は満面の笑みでそういった。
「もう、時間だから帰るね」
「え? だって、まだ」
「明日早いから。帰らないと」
「そうか、じゃぁ仕方ないね」
時計は八時を回ったばかりだ。
「駅まで送るね」
「ありがとう」
二人は駅へと向かう。向かう途中に、色とりどりのショーウインドーが、佐織の目を奪った。
「きれい……」
そこにあったのは、薄ピンクに光る宝石をあしらったペンダント。
「高いなぁ……」
佐織がショーウインドーから離れると、準は値札を確認した。
「これもまた! 相手の心理をついてきてますねぇ」
「これも詐欺ですか?」
「これは、“いろいろ詐欺”が使う手の一つですが、相手に残像として残す手法です。自分が欲しいのはこれなんだと、相手に植え付けるんですね。しかも、自分には『高いから買えない』という経済状態もそれとなく、教えている」
「そんなものですか」
駅に着くと、二人は同じホームに立っていた。
「またね」
「次はドライブに行こう!」
「そうね」
彼女の微笑みと同時に、電車がホームに滑り込んできた。
家に帰り着いた佐織は、玄関から歩いた通りに洋服を脱ぎ散らかしていく。これは、父親からの遺伝らしい。
「佐織! ちゃんと洋服を片付けなさい!」
母親の怒声が飛ぶが、全く意に介していない。
そのまま風呂に飛び込み、化粧を落す。
全てを風呂で済ませるのだ。
風呂から出てくると、ボサボサ髪にノーメイク。眉は無くなり、どこの般若だと聞きたくなる。
服装はと言えば、上下ヨレヨレのジャージ姿だ。
その姿で、髪をドライヤーで乾かすこともなく、タオルでゴシゴシと拭きまくっている。
「お母さん、今日は夕飯いらないからね」
「食べてきたの?」
「うん」
それだけ言うと、階段を上って行った。
そして、自分の部屋に入ると大きく伸びをして見せた。
「あー!!! 疲れた!!!」
かなり大きな声である。
「ネコかぶってデートしてるのも、疲れるんだよね」
そう言うと、ドアを勢いよく閉めた。
そのドアにつけられた小さなプレートが、閉まったドアの勢いで大きく揺れた。
プレートにはしっかりと今の佐織のことが書かれていた。
『女 休止中!』
「素晴らしい! ここまで自分を分かっている詐欺師もなかなかいませんよ」
「そうなんですか?」
「そうですよ! あれだけ“可愛いでしょ詐欺”を繰り広げて、彼を罠にかけたのです。そして、家に帰ればまさに彼女自身だ。ドアのプレートもさすがだ!
これぞ、詐欺師中の詐欺師ですよ!」
「これが、詐欺師の本性と言うことですね」
「いやいや、これも詐欺のひとつですよ」
「どういうことですか?」
「これはね、明日になれば又化粧をして女を再開するのです。つまりは“女止めてますよ詐欺”です!」
黒鷺は『いい仕事をした』と言いたげに、満足そうにソファーに身を委ねた。
坂内は内心(これじゃ、第二弾は無いな)と考えていた。
エンディングテーマが流れると、虚しくも坂内の声が『またお会いしましょう』と発せられた。
エンド
いかがでしたか?
笑ってもらえたかな~
えぇぇぇぇ。不謹慎とか、おこ~?www
注☆全ての女性が、作中の女性と同じ行動及び思考ではありまてん!
(`・ω・´)シャキーン