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デート中の女性心理を”あるある”的に書いてみました。
笑えるネタとして書いたので、全ての女性がこの作品の通りではありませんwww
ここは東京都内にある、某テレビ局である。
新番組『詐欺を暴く!』というタイトルで番組がスタートしようとしている。
司会者である坂内は、隣に座っている黒鷺に言った。
「本日は宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
「黒鷺さんに解説してもらえると、番組も盛り上がります」
その言葉の通り、黒鷺は詐欺については誰もが一目置くほどのスペシャリストなのだ。
「いやー。とんでもありませんよ」
黒鷺は大仰に笑って見せたが、言われて当然だと思っているようだった。
アシスタントディレクターの合図で、番組がスタートする。衝撃的な音楽が流れ、坂内と黒鷺がクローズアップされる。
モニターに自分の姿が映し出されたことを確認すると、坂内はゆっくりと話し出した。
「今や、ありとあらゆる詐欺がはびこっていますが、この番組では古代よりだまされ続け、分かってはいても騙されてしまうという、特有の詐欺について解説を交えて紹介していきたいと思います。
そこで、その筋ではスペシャリストと名の高い黒鷺さんにお越し願いました。
黒鷺さん、宜しくお願いします」
モニターには、坂内の隣に黒鷺の姿も映し出されている。黒鷺は自分の姿を確認すると、笑顔で小さく頷いて見せた。
「さて、本日の被害者です」
坂内がそういうと、別の画面に一人の男性が映し出された。
彼は、街中の大きなビルの前で周囲に目を向けていた。
「彼は、某大学の二年生です。かれこれ、二十分ほどあそこに立っています」
坂内がそう言うと、黒鷺が腕組みをしながら、身を乗り出してモニターを食い入るように見つめた。
「おや、ケイタイを出しました。なにをするのでしょう」
坂内がモニターの男性の手元に注目すると、黒鷺が答えた。
「多分、相手に連絡をするのでしょうね」
「先ほどから、五分おきにメールしたり、ケイタイを確認しているようです」
「相手が遅れているのなら、ケイタイを確認するのは当然ですね」
二人は、モニターの男性の動作をじっと見つめ続けた。
街中の男性は、ケイタイを耳に当てると話し出した。
「なにやってるんだよ。どこにいるの?」
しばらく、頷きながら視線を当たりに這わせる。すると、ある一点に視線が止まった。止まった途端、男性の顔に明るさが戻った。
「ごめ~ん」
視線の先には、短めのスカートをヒラヒラと踊らせ、髪をツインに結んだ、真っ赤な口紅の女性が焦ったように小走りに近づいてきていた。
「ごめんじゃないよ。どのくらい待ってたと思ってるんだよ」
「ごめんね。怒ってる?」
「怒ってないよ。でもさ、かなり待ったんだ」
「ん~、でもね。遅れたわけじゃないのよぉ。来てたんだけど、待ち合わせの場所を間違えたの」
「そうか……。じゃぁ、しょうがないな。ドジだなぁ」
男性はあっさりと彼女を許して、手をつなぐと歩き出した。
「ほぅ~。新手の詐欺ですなぁ。こりゃぁ、見事です」
「これも詐欺ですか?」
今の状況のどこに詐欺が隠されているのか、全く気がついていない坂内は首をひねった。
「本当は、完全に遅刻していたはずです。それを、場所を間違えたと言いましたね。これが“来てたのよ詐欺”です」
「なるほど!」
二人は歩き出すと、どこへ行こうかと相談をしているようだった。
「どこへ行く?」
「え~と……」
彼女が小首をかしげて考える風をしていると、男性が『動物園はどう?』と提案してきた。
「動物園?」
風は冷たく、ミニスカートの彼女には厳しい寒さだ。
(動物園なんて、つまんないし、寒いじゃん! わざわざミニスカートはいてきたのに、動物園ってどうよ! どうせなら、カラオケとか暖かいところにして欲しいんだけど!)
「そうね。行こう! 準となら、きっと楽しいわね」
彼女は、思っていることと全く反対の回答を出した。
準と呼ばれた彼は、有頂天だ。自分が提案した場所に、彼女が同意するどころか、彼と一緒ならどこでも楽しいだろうと付け足したのだから。
「これまたお見事ですねぇ」
「そうなんですか?」
「これはですなぁ。彼女は、本心暖かいところへ行きたかったはずです」
「どうしてです?」
「あの姿です。しかも、北風の吹く寒い外だ。できることなら、暖かい場所でデートがしたいと思うのは当然です」
「なるほど。それなら、どうしてはっきりと言わないのでしょうか? 暖かい場所がいいといえば、それで済むと思うのですが」
黒鷺はニヤリと笑って見せた。
「そこですね。多分、この二人は付き合いだしてまだ日が浅いのでしょう。彼女のほうは、まだ本音を出せない。もちろん、彼氏の方も本音は出せない状態です。今全てを見せたら、壊れてしまう可能性がある。つまり、まだ別れたくない相手なのでしょう」
「ああ、それでさっきの遅刻もあっさりと許したんですね」
「そうです。だからこそ、彼女は自分の意をまげて、彼に同意した。ここで起こるのが、“賛成してあげたわよ詐欺”です。しかも彼女は『一緒にいれば楽しい』と彼の心をくすぐっています。これが“くすぐり詐欺”ですね」
「すごいですね~」
坂内は、ひとつの会話の中に存在する二つの詐欺にビックリしていた。
動物園に着くと、あちこちと見て歩く。
その間も北風は容赦なく二人に襲い掛かった。
動物たちは、寒さに身を縮めながらも、園を訪れた人たちのために姿を現している。
「寒いね。暖かい飲み物を買ってくるから、待ってて」
男性は、近くの自動販売機を見つけると、走りだした。
そして、温かいペットボトルを二本もって帰ってきた。
「はい、佐織。紅茶でよかった?」
よかったかと言われても、買ってきた後の話なのだから、どうせなら買う前に聞いてほしかった。佐織と呼ばれた彼女は、困った表情を隠しながらニッコリと頷いた。
それでも、紅茶は温かく佐織の胃袋を満たしてくれる。
二人はなおも、歩き続けた。
しかし、温かい飲料は佐織の胃袋を通過し、腸に達したとき困った状況を生んでしまった。
「あ……あの、トイレに行ってくるね」
「うん、じゃそこで待ってるから」
佐織はゆっくりとトイレへと歩き出した。
佐織がトイレから出てくるまで、準の方はひとつの檻の前で、動物の動きを見つめていた。見つめながらも、じっとひとところに佇んでいるのはかなり辛い。寒さが身に凍みてくる。
一方トイレの中では、佐織が個室の中で壮絶な戦いを繰り広げていた。
体から排出されたそれを即座に水で流し、臭いが体にしみこまないよう努力を重ねながら拳を握りしめていた。決して彼氏には見せられない姿で時間短縮に勢力をふりそそいでいたのだ。
ようやく全ての戦いが終わると、軽く口紅を引き、トイレを後にした。
「準~」
「おぅ、遅かったな」
「う、うん。お化粧、直してたから」
「そうか」
「出ましたね~」
黒鷺がまたしても唸った。
「え? なにが出たんですか?」
「今の、分かりませんか?」
「トイレですか?」
「もちろん、そうです」
そうですと言われても、トイレでなにがあったのかまでは、モニターに写すことができないのだ。
「彼女は大して化粧を直してなどいません! せいぜい、リップを引きなおしたくらいでしょう」
「え? それじゃぁ、トイレでこんなに長い時間なにをしてきたんですか?」
「つまり、大きいほうをしてきたのです!」
「大きい?」
「分かりませんか? しょうがないなぁ。ウンチですよ、ウンチ」
「ウンチ?」
「そうです。ウンチをしてきたが、ウンチだとはいえない。そこで、化粧を直してきたことにしたのです。これが世に言う“ウンチウンチ詐欺”です!」
「あ! あ~ なるほど!」