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中編

(――ああ、神様!なんてことなの!)

 キャリサは、相変わらず表向きは鉄面皮だった。

 そして今、なぜかキース・ホフマンと洒落たレストランで晩餐を共にしている。ここは王都でも指折りの名店で、向こう半年までは予約がとれないはずだった。しかし、こうして二人はここにいる。

(アレス次官補!お恨み申し上げますわ!なんてことをなさいました!?)

『今夜、君たち空いているよね?素敵な店を予約したんだ。もちろん、行ってくれるね?』

 呆然とする二人に、アレス次官補(確信犯そして黒幕)はそう告げたのだ。

 そのあとどんな対応やら会話やらをしたか、キャリサは全く覚えていない。

「えっと」

(気まずいですわ…)

 今この場の二人を包む空気に名を与えるとしたら。そう、“気まずい”。

「マックライン先輩、お怪我は大丈夫…じゃないですよね」

と、ホフマンが自分で墓穴を掘ってしまうくらい、気まずい。

「気にしないでといいました。全く差し支えありませんので」

 ホフマンはここで顔を会わせたときから、ずっとそわそわとして落ち着きがない。まるで、この場を誰かに見られたくないような、でも何かが気になるからこの場を離れられないような。

「……ホフマン?あなた、上層部からわたしと見合いをしろと言われたんでしょう」

 ホフマンは面白いぐらいにぎくりと体を震わせた。

「上層部からだから逆らえない。そこへ未婚女性の顔に傷をつけてしまった。罪悪感にさいなまれている。違う?」

 ホフマンは今度は面白いぐらいに青くなった。

「あなた、恋人がいるのではなくて?だから、そわそわとして落ち着かないんでしょう」

 次はかわいそうなくらいに白くなった。

「もしかしたら、今夜別の場所で待ち合わせていたりするんでしょう。ならば、そちらへ向かいなさい。わたしのことは気にしないように。後輩の恋路は邪魔したくないから――早く行って差し上げて。次官補にはわたしからうまく断っておくから」

 キャリサがそこまで言えば、ホフマンはすみません!といってすぐさまにでていった。残されたキャリサは、はーっと溜め息を吐いた。

「わたしだって、恋人がほしいわ」

 それは紛れもないキャリサの本音。キャリサは周囲の席のカップルたちが心底羨ましい。

「けれどもそれは叶わない夢、叶わない願い」

 キャリサは自嘲ぎみに笑い、席をたつ。カウンターで退席を告げ、店を後にする。

(寒い)

 外は、春先とはいえまだ肌寒い。キャリサはストールか上着を持ってきていないことを悔いた。厚手のワンピースだけで体も寒い。それに銀髪も結い上げているから首筋が余計に寒くて仕方なかった。

(早く、帰ろう)

 そして、次官補への上手な言い訳を考えよう。かわいそうな後輩へ迷惑にならないように。

(ああ……恋がしたい)

 周囲が暗い中、一人寂しくキャリサは歩く。それでも繁華街だから灯りはあるため、若い女の一人歩きもできる。

(恋がしたい。でもできない)

 キャリサの目は自然とすれ違うカップル達にゆく。カップル達を目で追いかけてしまう。

(バカみたい)

 そんな自分がいやになって、さらに自嘲する。

(でもできないものは余計にしたくなるもの)

 キャリサの脳裏に、なぜか九つも離れた後輩の顔が思い浮かぶ。

(あー…)

 キャリサは泣きたくなるのをこらえ、近くに身を隠せるものがないか探し始めた。

「マックライン先輩」

(これは、わたしの期待から来る幻聴?)

 なぜか、キャリサの耳にアルフレート・サリーズの声が入った。

 キャリサがゆっくり振り返れば、そこには厚手のロングコートに身を包んだ彼がたたずんでいた。

「先輩……ホフマンさんは、どうされたんですか」

 どこか痛みをこらえたように問うてくる彼は、痛々しかった。

「彼は……他に恋人がいるの。だから、」

 キャリサは言葉がつまる。なぜ、あなたがいるの。なぜ、あなたがそんなことを聞くの。

(期待してしまう……だめ、期待できない)

「なら……」

(安心したように、微笑まないで)

「俺、……先輩が次官補に言われてたの聞いて。いてもたってもいられなくて」

(ああ…もう、だめ)

 キャリサは、自覚してしまった。恋心を。無視していた、彼へのときめきの、その先を。

 だから、自分を抱き締めて近くの茂みに飛び込んだ。続いて、キャリサの体が淡く……光り出した。

「せん、ぱい」

(ああ…もう、終わり)  キャリサは、恋を自覚したそのとき、体が淡く発光するのだ。蛍の、ように。

(この体を見られたら)

 もう、おしまい。

光るんです。蛍のように。

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