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本日のお題 5 (駄目女の妄想コメディです)

こひらわかさんの本日のお題は「チョコレート」、ほんわかした作品を創作しましょう。補助要素は「部屋」です。 #njdai http://shindanmaker.com/75905

「疲れたぁ」


 1Kフローリング6畳一間のアパートに帰宅する。

 手を洗ってうがいをしたあと、私は着の身着のままカーペットの上に置かれたクッションの上に座り込んだ。

 こたつ机の上に、コンビニで買って来た食材を並べる。

 がしゃがしゃとビニール袋を漁りながら、私はうきうきした心を抱えて、温かいビーフンの入ったプラスチック容器を取り出した。

 明日は休日。

 さらに今日は残業時間がいつもより短かった。

 そのことで気分が良くなった私は、駅前のスーパーではなく、アパートの通り沿いにある近場のコンビニに寄って夕飯を買い込んだのだ。

 ビーフンと、ペットボトルの炭酸飲料と、野菜ジュースにスナック菓子、それに、チョコレート。

 主食を食べ終わった私は、だらりとテレビを見ながら、塩味のきいたスナック菓子をぱりぱりと頬張った。

 え?

 夕飯のあとにスナック菓子はさすがに太る?

 早くシャワーを浴びてメイクを落とせ?

 いいえ、この怠惰な時間は自分へのご褒美なのです。

 時には自分を甘やかすことも、必要でしょう?

 なあんて、いもしない誰かに向かって言い訳する、そんな典型的駄目女の私のもとに、なぜか奇跡はやってきた。

 コンビニで売っていたのは、期間限定のとあるチョコレート。

 ティム・バートンの映画に出てくる「ウォンカチョコレート」のように、銀紙を開けると、当たりであれば中からチケットが出てくるという仕組みだ。

 何気なく開けた銀紙の中には、チョコレートとともに、きらきら光る金のチケットが入っていた。

「え、うそ、当たっちゃった?」

 私は目を丸くした。

 今までガリガリ君もチョコボールもどんぐりガムも、当たりと名の付くお菓子にはことごとく縁の無かった私。

 だが、おお、神よ、今日は何のご褒美ですか?

 私生活に潤いを与えたもうた、いるかいないかわからない神様に心の中でガッツポーズをしながら、私はチケットに書かれた文言を読んでみた。

「なになに? 『出血大サービス! このチケットがあれば、あなたの心の中にある、今一番会いたいものに会えます。使用方法:寝る前にこのチケットを枕の下に置いてください』ですって」

 はて?

 どういうことかしら。

 私のテンションは、上がったまま残念な意味で下がり所を失った。

 困惑した私は、しかしそのテンションのままシャワーを浴びて身支度を整えると、安物のパイプベッドの上にごろりと寝転んだ。

「や、やっぱりいつもの私だったわ。当たりを引いても当たりじゃないって、私らしいわね」

 このチケットはきっとビックリマンチョコやプリキュアチョコのシールのように、どのチョコレートにも入っているものなんだわ。

 そう思うとがっくりしたが、だが私はとりあえずそのチケットを枕の下に置いて、就寝することにしたのだ。


 夜半。

 どうやら私は夢の中にいるようだった。

 ふわふわした、足元のおぼつかない雲の上で、私は信じられない気持ちで目の前に立つものを見ていた。

 目の前には、心臓が何個あっても足りないぐらいどきどきする相手が立っていたのだ。

 さらさらの紺色の髪、黒曜石のような鋭く光る瞳、そうして少しばかり皮肉な笑みを乗せた薄い唇。

 そう、彼は今、巷で話題のネオロマンスゲームに登場する黒衣の貴公子アドヴァルド様だった。

「う、うそお!? なぜここに!?」

「ほのか、会いたかった」

(ひいい! 喋ったあああ!)

 私はぐるぐると混乱した。

 目の前に、自分の大好きな登場人物がいて、実際に喋っている、そしてそれをちゃんと『現実もしくは夢』として認識している状態が信じられなかったのだ。

「こ、これはきっと最近とみに乙女ゲームをやり過ぎたせいよ! いいえ、昨日飲んだ炭酸飲料の中にアルコールが混入していた、って、現実逃避している場合じゃないわ!」

「ほのか」

「いいや、それともええと、確かプラシーボ効果? それだわそれ、きっと思い込みなのよ!」

「ほのか」

「ああ当たりチケットってすごい、いや、自分の思い込みが恐ろしい」

「ほのか」

 三度目で肩を掴まれた。

「ひゃああ!?」

「何を考えている?」

「ああああどあどアドヴァルドさまっ!」

「どうしたほのか?」

 口をパクパク開閉しながら、私は自分の肩を掴んでいる手からゆっくりと視線をずらし、麗しきアドヴァルド様のご尊顔を拝した。

 ああ、アニメーションが実写になるとこうなるのね、絵師さんが描かれる絵が割合写実的だったから、実写になってもあまり違和感がないのだわ。

 と、また現実逃避をしていると、アドヴァルド様が口を開かれた。

「ほのか、私のことを忘れたのか? あれだけ愛し合ったというのに」

「あ、愛?」

「昼も夜も無く、閨の中で睦みあったのに」

 誓って言いますが、ゲームは全年齢対象です。

「そ、それは私の妄想……」

「妄想なのだとしたら、今この触れている感触はなんなのだ? ほのかの柔らかい頬も、甘い唇も、今、目の前にあるというのに」

 一番好みの声で、とても悩ましげに囁かれるのだから堪らない。

 アドヴァルド様はそのまま私を腕の中に抱き込んだ。

 彼の胸板に頬が付き、彼の鼓動を実際に聞いている。

 もう、夢でもなんでもいい!

 乙女の妄想力を舐めんなよ!

 ええいままよと、私はアドヴァルド様に抱きついた。

 途端にしっかりと抱き返される。

 あとはそのまま、めくるめく官能の世界へ……



 ピピピピピ

 ピピピピピ

 ピピピピピ

 ピピピピピ

 ピピピピピ



「ふあ?」

 ぱちりと目が覚めた。

 ごしごしと目をこすり、辺りを見回す。


「あはは……、プラシーボ効果ってすごいのね」


 そう思いながら、顔を洗おうと起き上がり、ユニットバスに足を運んだ。

 そこで何気なく鏡を見た私は、あんぐりと口を開けた。


「は、はあ……!?」


 何と、私の首筋には幾つもの口付けの跡が散っていたのだ。

「こ、これは、ダニ? じゃないわよね?」

 パジャマ代わりのスウェットを脱ぐと、あられもない場所にまでその跡は付いていたのである。



「あのチョコレート、当たりどころの騒ぎじゃないわよ……!」



 こうして私の波乱万丈な毎日が幕を開けたのだった。




【了】

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