本日のお題 4 (「模様」 苦い作品 その1)
こひらわかさんの本日のお題は「模様」、苦い作品を創作しましょう。補助要素は「乗り物」です。 #njdai http://shindanmaker.com/75905
――僕の体には牡丹の花が咲いている。
正しくは、牡丹の模様のような傷跡だ。
この傷は、愛音の家族とバス旅行に行ったときに受けたものだ。
高速道路でバスが横転し、僕はそのとき隣に座っていた愛音をとっさに受け止めた。
――気が付くと、青空が見えていた。
愛音は僕の腕の中にいて、奇跡的に無傷だった。
動こうとして、体中が痛み、特にわき腹に鈍痛を覚える。
手を添えると何で切ったのかはわからないが出血していた。
ああもう駄目だなと思った。
薄れゆく意識の中で、目を覚ました愛音が泣きながら僕を呼んでいるのを聞いた気がした。
僕は奇跡的に助かった。
傷は臓腑には達しておらず、救命チームの迅速な対応で一命を取り留めたのだという。
僕が無事生還してから、以前と変わったことがある。
それは愛音の態度だ。
今、愛音は僕の言いなりになっている。
彼女は僕がしたいことは何でも受け入れてくれる。
好きだという言葉も、体をつなげることさえも、全て受け入れ、僕の言いなりだ。
行為の最中、彼女は僕の牡丹の模様に必ず口づけをする。
ごめんなさいと泣きながら、何度も、何度も。
澱んだ瞳で、愛音は僕を見る。
なぜ?
僕は愛音のことを守ったのに。
こんなにも愛しているのに。
何がおかしいのだろう。
どこで間違ったのだろう。
僕の腹には大きく、大輪の牡丹が咲いている。
その傷を、愛音は愛しいと言う。
果てのない闇に落ちながら、澱んだ瞳で彼女は呟く。
そうして二人の狂ったこの愛情は、牡丹の模様のように、重く、苦しく、永劫に、僕らを包んでいくのだ。
【了】