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本日のお題 15 (「スイッチ」 ぬるい作品 その2)

こひらわかさんの本日のお題は「スイッチ」、ぬるい作品を創作しましょう。補助要素は「イベント」です。 #njdai http://shindanmaker.com/75905


「なあ遠藤、俺の『やる気スイッチ』ってどこにあんのかなあ」

「私に聞かれてもわかるわけがないでしょ。それより小林君、これで完成なんだからちゃんと手ぇ動かしなさいよ」

 今日は文化祭のイベント前日である。

 小林は舞台装置を片手間にチェックしながら、脇で作業している遠藤の、眼鏡越しのきりりとした横顔を見つめる。

 彼女が手を上げたから。

 音響なんていう全然興味のない係に、わざわざ自分も立候補したのだ。

「遠藤はさ、頭いいから将来弁護士とか教師とかになるんじゃねーの?」

 こん、こん、と飛び飛びに置いてある機材をノックしながら、小林は何気ない風を装って聞く。

 来年の受験が終われば、もう学校でも遠藤とはほとんど会えなくなる。

 だから、今少しだけでも彼女との繋がりが欲しくて、小林は彼にしては珍しく一歩踏み出したのだ。

「ちょっと小林君、セッティング済みなんだからあんまりいじらないでよ?」

 そう言いながらも遠藤は律儀に答える。

「私ね、将来はテレビ業界に就職するつもりなの。もちろん大学には行くけれど。私、今のメディアの現状を何とかしたいのよね」

「アナウンサーとかじゃなく? 遠藤、NHKで原稿読んでそうなのにさ」

 それを聞いた遠藤は苦笑した。

「変えるなら裏側から変えないと、って私は思っているの。それと小林君、私、あなたが思っているほど頭も良くないし、人前で何かするのも得意じゃないのよ。学級委員の仕事だって、なり手がいないから手を上げているだけなのよ」

「そんなことないよ。男子も女子も、遠藤に一目置いているし、遠藤の話なら皆ちゃんと聞くだろ?」

 それに、眼鏡を外した遠藤の顔が意外に整っているということは男子の誰もが知っている。

 彼女の言うことを聞くのは、少なからず彼女に対して好意を持っているからに違いない、いや、少なくとも自分はそうだ、と、小林は思った。

 ふ、と微笑んだ遠藤を見て、小林の胸はどきりと鳴る。

「お世辞ありがと。小林君は将来何になるの?」

「俺? 俺はなあ……とりあえずテキトーに大学行って、テキトーに就職しようとして、でも多分就職できなくてフリーターやってるかな」

「何だか小林君らしいわね。でもそれが最近の若者の現実よね」

「若者って、遠藤俺と同い年だろ?」

「精神年齢の違いよ。それにもしかしたら私も将来落ちこぼれてフリーターやってるかもしれないし」

 遠藤のその言葉に小林は片手を目の前でぶんぶんと振った。

「ないない! 遠藤なら絶対大丈夫だよ! だって遠藤、俺と違ってちゃんと目標持ってるし、やっぱり遠藤は俺より何倍も頭良いし、きっと大丈夫だって」

「なあに? 小林君、褒めても何にも出ないわよ? さ、作業に戻りましょ」

 それからは二人の間に沈黙が訪れた。

 しばらく機材を調整していた遠藤は、ふう、とため息をつくと両腰に手を当てた。

「さあ、これで完了。小林君、今からリハーサルするから台本の手順どおりにスイッチを押していってくれる?」

「りょーかい」

 明日のイベントは絶対に成功させてやる、と小林は思った。

 遠藤のために、普段はゆるい俺だけど、格好いいところをみせてやるんだ、と。

 表面上はいつもと変わらず、しかし台本をしっかりとチェックしながら、小林は一部のミスもなくリハーサルを終えた。

 全体でも最後の調整が終わり、後は明日のイベント本番を待つのみとなったとき。

 皆が荷物をまとめて帰り支度をしていると、遠藤が小林の傍にやってきた。

「ねえ小林君、私、小林君の『やる気スイッチ』見つけたよ」

「え?」

「さっきのリハーサル、とても上手くいったわ。小林君はもともと勘がいいのよ。だから小林君も何か目標を見つけたら、きっとそれに向かって要領よくやれると思うの。それがあなたの『やる気スイッチ』だと思う。明日の本番、頑張ろうね」

 そう言って、遠藤は先に帰っていった。

 彼女の後姿を見送りながら、小林は今、天啓を受けたような気分だった。

「俺って勘が良くて要領もいいのか。気付かなかった。……それに、俺、たった今すごい目標見つけた」

 小林はぐっと片手で握り拳を作った。


「俺、遠藤と同じ大学に行く」


 それは彼にとっての小さいけれど大きな一歩であった。



【了】

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