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本日のお題 12 (「温度」 アンハッピーな作品です)

こひらわかさんの本日のお題は「温度」、アンハッピーな作品を創作しましょう。補助要素は「夜」です。 #njdai http://shindanmaker.com/75905

 アンハッピー:不幸な,不運な,悲惨な,みじめな.



「別れてくれないか」

 突然、電話で彼にそう告げられたのは夜も更けた頃。

「君とは恋愛に対する温度が違うんだ。君の愛情は僕には重すぎる。もう、疲れたよ」

 言うだけ言うと、彼は私の話も聞かずにさっさと電話を切った。


 思えば今日は散々な日だった。

 朝寝坊した上に、着替えの際にストッキングが爪のささくれに引っかかって伝線したので、穿き直さなければならなかったこと。

 朝、急なダイヤの乱れで電車の到着が20分遅れ、朝のラッシュがさらに過酷な状況になったこと。

 車内で思いっきり足を踏まれた上に、至近距離で誰かの(多分ニンニクだと思われるが)酷い口臭を嗅ぎ続けなければならなかったこと。

 その上ぎりぎりで出社していつものようにIDカードを通したらエラーが出てしまい、結局遅刻したこと。

 仕事でありえないケアレスミスをしたこと(ぼーっとしていて重要資料をうっかり廃棄処理の書類と一緒にシュレッダーにかけた)。

 貴重な休憩時間、急なさしこみでトイレにこもっていたら、トイレとつながっているパウダールームで同期と先輩が私の陰口を言っていたのを聞いてしまい、さらにそれが相手に知られて物凄く気まずくなったこと。

 帰りに駅の改札を通ろうとしたらエラーが出て、窓口で手続きする羽目になったこと。

 スーパーで夕飯と日用品を買い物かごに入れ、いざ会計というときに財布を見たら現金が2000円しか入っておらず、カードで払う羽目になったこと。

 帰宅したらエアコンがつけっぱなしになっていたこと。

 そして極めつけは先ほどの別れの電話だ。


 自分のうっかりミスも多々あったが、今日は全体的に悲惨な部類に入ると思う。

「温度って何よ、温度って!」

 そう言いながら、私は缶チューハイを開けたのだが。

 ぷしゅっという音とともに中身があふれ出て、部屋着とカーペットを汚した。

「何よもう! 何なのよ!」

 私が一体何をしたって言うのよ。

 本当に今日は散々だった。

 しかも外の道路では大学生の宴会帰りなのか、数人が大声で何やら調子っぱずれの歌を歌っている。

「いい気なもんね、こっちは酷い一日だったってのに」

 ぶつくさと呟きながらタオルを取ろうとしたとき。



 ササササッ。



 部屋を横切る小さな黒い影が見えた。


「え……?」


 一気にさあっと血の気が引く。

 見間違いなんかじゃない。

 もしかしてまっくろくろすけ?

 いいえ、我が家はそんなメルヘンな部屋じゃないのよ。



 あれは……Gだ。



 名前を言うのもはばかられるほど、私にとっては忌まわしい存在。

 Gは確実にいる。

 別に汚部屋だというわけではないのに、奴はよく現れるのだ。

 Gホイホイやコンバットを設置しても、一向に効き目がないのだ。

 私は腹を括った。

 ニヒルに微笑んで、片手にGジェットを持ち、もう片方の手には丸めた雑誌を持った。

 戦いの前の高揚感と、体中の温度があがる感じがする。


「ふう……今夜は、長い夜になりそうだわ」


 こうして深夜、悲惨な一日の堂々たる締めくくりであるかのように、私とGとの攻防は続いたのであった。



【了】

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