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本日のお題 1 (ゆりゆりしくいきます)

こひらわかさんの本日のお題は「制服」、ファンタジックな作品を創作しましょう。補助要素は「先輩」です。 #njdai http://shindanmaker.com/75905

 その女学院ではある噂がある。

 先輩の制服のリボンを身に付けると、9月の「黒百合祭」で運命の出会いが訪れるというのだ。

 その黒百合祭当日、二人の女性徒が渡り廊下を歩いていた。

「そう言えば、運命の出会いって言ったってねえ、私達は3年だから先輩なんざもういないわよ」

 みつるはそう呟くと、自分のショートカットの頭をがしりとかいた。

「みつるちゃんは待っているの? 運命の人」

 柔らかなセミロングの髪をさらりと揺らしながら、隣で微笑む由佳は、この女学院の「憧れのお姉さま」である。

 スミレの花のような芳しい匂いを絶えずまとう由佳が、みつるを見て可愛らしく小首をかしげた。

「うーん、私も乙女じゃないからねえ。白馬の王子様は存在しないのはわかってるわよ」

「どちらかって言うと、今はみつるちゃんが白馬の王子様に見えるからねえ」

 由佳がころころと鈴を震わせたような声で笑う。

 ああ、と、みつるは思う。

 もし自分が由佳のように女らしかったら。

 この女の園では、自分は体のいい「男」の身代わりなのだ。

 自分のボーイッシュな容姿を振り返り、みつるは心の中で自嘲する。

「そう言えば、由佳はそのリボン、一年のときに三年の先輩に貰ったものだったわよね」

「ええ、そうだけれど」

「由佳にはあった? 運命の出会いってのが」

 みつるのその言葉に、由佳はにっこりと微笑みながら言った。

「みつるちゃんと出会えたことが、私にとっては運命の出会いなの。出会えたのはこの制服のリボンのおかげ、かしら」

「由佳ったら……。でも、ジンクスなんてそんなもんか」

 がっくりと肩を落としたみつるであるが。

「みつるちゃん、手、つなぎましょう?」

「はあ? いきなりどうしたの」

「ほら、後輩が見てるわよ」

 視線をやると、一年生の女子達が四・五人固まってこちらを見ている。

「目撃者がいたほうがいいわよね」

 そう呟くと、由佳はおもむろにみつるの手を取ると、彼女の頬に手を添えた。

「みつるちゃん、実は私、みつるちゃんに隠していたことがあるの」

 由佳がぽそりとみつるの耳元で囁いた。

「え?」


 それは一瞬だった。


 温かい光に包まれたと思ったら、由佳が、西洋風の古風な装束に身を包んだ男性に変化したのだ。

 ぽかんとした表情のみつると女生徒達を置いてけぼりにして、その由佳だった男性はきらきらと微笑んだ。


「みつるちゃん、私の運命の人」


 バリトンのいい声で、その美青年は歌うように呟いた。


「はっ……はああああ!?」


 皆さん。

「憧れのお姉さま」が「絶世の美青年」に変化しましたよ。


 背の高いみつるよりも、さらに頭一つ分以上高い美青年は、みつるの手を握ったまま、その手を自分の頬まで持ってきた。

「黒百合祭当日は、異界との扉が開くんだ。私が出会った三年の先輩は、私と同じ場所から来ていた。私は、運命の人を、ここで見つけたよ。みつるちゃんには悪いけれど、私はあなたを離すつもりはないから」


 そう言うと、にやっと、由佳であったはずの美青年は人の悪い笑みを浮かべた。


「『先輩の制服』のリボンは、異界との橋渡しの道具なんだ」


 そう言ったのを最後に、二人の姿はその場から掻き消えた。


 後日、二人の失踪は奇妙な行方不明事件として取り沙汰されるものの、世間は女生徒達の集団ヒステリーとして片付けられていった。

 それからのち、この女学院ではこのような噂が広まることとなる。


「『先輩の制服』のリボンを身に付けると、運命の人に連れ去られる」



【了】

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