パノラマ
永遠なんて望んでないから。
この愛しい気持ちを忘れたくないだけ。
[ただ、少しだけ下さい]
爽やかな春風吹く中、少し汗ばんだ左手を拭う。
絡めた指先を解けば寒々しくなる。
「はい。」
当たり前のように"恋人繋ぎ"に戻った私たちは、見つめ合って笑った。
左隣の君をそっと見る。
年上だけど私より少し小さくて、でも性格は男らしくて。
こんなにも人を好きになることなんてなかった、その気持ちに胸が温かくなる。
まだ蕾な桜の下を歩く、質素なデート。それも君と一緒だから幸せ、なんてベタだけど心から思う。
「今、幸せ?」
不意に聞いてみる。答えなんて分かってる。
「当たり前だろ。すっげー幸せ。」
「私も。」
違うものを見て、違うものに笑って、違うものに泣く。全く違う世界に居る私たちは、すれ違うことも多い。
君が不安になるような世界に私はいるし、私は君の世界を分かってやれない。
キラキラした世界も、くすんだ闇の世界も、互いに知らない世界を生きている。
だけど私には君がいて、君には私がいる。それだけで頑張れるんじゃないかな。
今だけ、かもしれないけど。
「私ね、こうやって一緒にいることが一番の幸せ。」
「そんなん俺もだって。」
そうやって頭を撫でてくれるのが好き。
甘い空気に、ふらふらと繋いだ手を揺らす。
「何するー?」
「もう少しこうしてよ。」
いーよ。
またふわふわと散歩を続ける。長い長い土手沿い、きっと桜が咲いたら綺麗なんだろうなって上を見上げる。
人の居ない道で私から軽いキスをする。
「!!」
驚いた顔に、ふっと吹き出す。
「びっくりしすぎだってー」
普段私からすることは少ないから。これだけで一年長く居られると思うんだよね。
「あーもう、大好き。」
甘いのもいいじゃん、人前じゃ無理だけど。
「帰ってゆっくりしようか。あ、ケーキでも買ってさ。」
「いいね、そうしようか。」
歩きだしたと思ったら、少しして君が立ち止まる。
引っ張られて止まった私に、君は真剣な目をして言うんだ。
「一生とか、永遠とか、そんなこと言うキャラじゃないし言いたくない。」
「うん?」
「だけど、40年、いや50年だけでいい。一緒に居てよ。」
君らしいと思った。それって結局、なんて茶化せない。
目の前が滲むくらいに嬉しかったから。
「それだけで俺は満足だから。少しだけちょうだい、ね?」
ふにゃ、と笑った君に私は照れを隠して言った。
「少しじゃないじゃん。でもしょうがない、プレゼントするよ。」
一緒に居すぎて染み付いた同じ笑い方をした。
さっきまでの真面目な空気はどこへやら、子供のように「帰ろ帰ろ」と笑う君をみて思う。
同じものを見たって仕方ない。違う世界を見て、2つを合わせてひとつの世界にすればいいんだから。
キラキラした舞台からだって、最前列にいる君くらい見えるんだから。
鬱ぐような変わらない日常を、私が一時だけでも輝かせられるなら。
カビ臭い舞台裏の努力も、君が待っていてくれるなら大丈夫だから。
あと50年くらいくれてやる。
(背を合わせれば360°)