あなたと同じ顔
私を見て嗤う『私』。
渋谷のスクランブル交差点。
無数の人が行き交う場所で、私は『私』を見つけた。
遠くから瞬きもせず私を見つめてくるその顔は、不自然なほど貼り付けたような笑顔をしていた。
何故か誰も気にも留めない笑顔の私は、また人混みの中へと消えていった。
「──って事があったんだけど、マジで怖くない!?」
帰宅早々、私は興奮気味に今日遭った出来事を家族に話したが、家の空気はいつも通りだった。
「姉ちゃんが二人いたら地獄だよ。」
弟が大袈裟に顔を顰める。
「ドッペルゲンガーってやつ?凄いじゃない!」
母は何故か喜んで拍手をする。
「今度うちに連れて来れば良い。」
笑えない寒い冗談を言う父。
「ニャーン。」
ずっと可愛いうちのアイドル猫が甘えた声を出す。
私はため息をついた。
この幸せお気楽能天気家族たちは、私とあの不気味な笑顔の私が入れ替わっても多分気が付かないんだろうな。
「見間違いかなぁ……。」
段々私も自信がなくなってきた。
モヤモヤする気持ちを洗い流そうと、「お風呂入る」と言い残し私は脱衣所に向かった。
「うーい。あ、母さん俺明日バイト。」
「風邪引くからちゃんと温まるんだよ〜!」
「なぁ、TVのリモコン何処だ?」
「ニャーン。」
元気に私の背中を見送る家族と可愛い猫。
その全員が、ドアを閉める私の後ろ姿を一心に見つめていた。
スクランブル交差点にいた私と全く同じ、
不自然なほどの不気味な笑顔で。
最期まで私は、それに気が付かないままだった。
〈終〉




