EX とある高校生の観察日記
主人公が書いているノート内容です。
昼休みの教室は、今日もいつも通りだった。
誰かが笑い、誰かが騒ぎ、誰かが調子に乗る。そこに俺の居場所はない。だから今日も、観察者としてこの空間を眺める。
窓際の席で昼食を広げながら、ふと視線を上げた。まず目に飛び込んできたのは、前方で一人芝居をしている男子。
――山田。最近ハマっているのは、どうやらバトル系アニメらしい。
「俺は……負けられない! 村のみんなが……俺を信じて待ってるんだ!」
そう叫ぶ山田の腕は天を指し、彼の視線は遥かなる何かを見ているようだった。
その声に、周囲の男子たちが笑い声を上げる。だが彼の顔は真剣だ。演技ではなく、本気で“なりきっている”。
痛い。でも、少しだけ羨ましくもある。あんなふうに堂々と何かになりきれるなんて、俺には到底できない。
次に目に入ったのは黒板前の女子二人。
「見て見て、この子、猫耳つけたらかわいくない?」
「え〜、めっちゃいいじゃん〜!」
――佐々木と木村。絵が得意な佐々木は、たびたび黒板にイラストを描いては、それを木村が賞賛している。
今日のテーマは“オリジナルのキャラ”らしいが、どう見ても既存の某アニメのパクリにしか見えない。
それでもふたりは満足げに笑い、黒板をキャンバスのように扱っていた。教室という公共の場で、堂々と、自分の“好き”を主張している。
……この二人も、俺にはまぶしい。
最後に、教室の一番奥でひとり佇む斎藤に目をやる。
彼は今日もPCにイヤホンを差し込み、完全に自分の世界に入っていた。
後ろを通るふりをして、ちらりと画面を覗く。
――左半分には、ソ連軍の行進と国歌。右半分には、ナチスドイツの戦車解説。
……一体、何を目指しているんだお前は。思わず笑いそうになるが、斎藤は真剣な表情だった。
こうして見ると、クラスのやつらって本当に自由だなと思う。自由すぎて、痛い。でも、だからこそ面白い。
俺のノートの片隅に、自然と文字が浮かぶ。
観察記録:山田、佐々木&木村、斎藤。
痛い。でも、目が離せない。
……そして俺もまた、彼らを観察することで何かになろうとしている。
この行為そのものが、もう既に、痛いのかもしれない。