22.一躍、時の人
(…さっきからどうして、こんなに見られているのかしら…?)
宮殿の東側、白薔薇の香る庭園にて。
白い花垣を背にフェルシアは直立していた。
その意識のほとんどは目前のガゼボへ向けられている。そこには警護対象のハース公爵とその来賓達が談笑中だ。
しかしフェルシアは先ほどから、己への視線が気になって仕方なかった。
ハース公爵と語らうテュリエールの貴人を始めに、その従者も書記役も給仕のメイドも。
現在、合わせて十以上の視線がフェルシアに突き刺ささっている。
だが王宮入りしてからずっとこの有様だ。
理由は不明だがテュリエール人の誰も彼も、フェルシアを見て驚いた顔をする。そのくせ皆一様に口にはしない。
そして今や、それに気付いた仲間の隊員までがフェルシアに注目しはじめていた。何だ何だ、とまた増える目。彼女だって聞きたい。
目の前では青空の下、翠色の丸屋根と白亜の円柱が建ち、辺りを白い花びらがひらひらと舞っている。
まるで風景画のようだ。この奇妙な事態さえなければ、もっと素直に辺りを眺めていられただろうか。
やがて来賓を見送ったハース公爵へ、耐えきれなくなったフェルシアが尋ねる。
「…あの、マクダ様」
「ん?どうしたんだい?」
さすがに彼も事態に気付いているはず。現状をどう思っているのだろう。
「一つお伺いしたいのですが。私は、この国に来てから何か粗相がございましたか?…私はなにやら、テュリエールの皆様から大変注目されています」
思い切って尋ねれば、ややして返されたのは。
「ああ…。うーん…、実は私にもよくわからないんだ。まあ、今は気にしなくていいだろう。君が何かをしたわけではないんだ」
フェルシアはかすかに眉を寄せた。
何やらなだめられたが、原因はやはり自分らしい。ますます疑問がつのる。
「あの、それは……?」
「すぐに分かるさ」
しかしそこでまた遠くに人影が見え、二人も会話を打ち切って前を向く。
以降、私的な話をする暇はなく。フェルシアは大きな謎を抱えたまま過ごさざるをえなかった。