21.北の地にて
夜明け前、空が白み始める。
稜線から射した陽はパアッとその下にある景色を照らした。
ガラス越しに眼下を眺めていたフェルシアも、ほう…と息をつく。
(やっぱり、とても美しいわ)
ここへ来てから何度思ったことか。
薄闇に浮かび上がる、優美かつ大胆な装飾、円状に並んだ白い石畳。
故国とは違う、異国情緒あるきらめきに彼女は見とれていた。
初めて訪れたテュリエールの王都。
そこは大都市の名の通り、大きな建物がひしめきあい、絶えず人々の行き交うにぎやかな場所であった。
まだ時折騒乱があるらしいが、見渡す限り風雅な街並みである。
フェルシアは正直、もう少し荒れているのでは…と思っていた。樹海を抜け、田舎道を抜けて。初めて街の防壁を抜けた時は驚いたものだ。
そうしてしばらく、フェルシアが街全体の輝くような光景を眺めていると。
背後からコンコン、とノックが聞こえた。
「失礼いたします。お嬢様、お目覚めでしょうか?」
リリィだ。返事をすれば入ってきた姿にフェルシアはホッとした。
ここでは宮殿に部屋を借りているが、やはり見知った人がいると安堵する。
その後リリィからタオルを渡され、寝汗を拭っていると呼びかけられる。
「今宵はいよいよ晩餐会でございますね」
「…ええ。遅れないよう気をつけるわ」
使節団がテュリエール到着して早三日。
今夜は使節一同がテュリエール王と正式に見えての食事会だ。
会には着任中を除いた自分達軍人も出席し、フェルシアも正装して参加する。ナイトドレスを装うので、仕事が終わり次第早く帰ってこなければ。
「公爵様もご存じですし、きっと定刻にて帰してくださることでしょう」
リリィの言葉にフェルシアも頷く。
今日の任務はハース公の護衛。彼もフェルシアが晩餐会に出ることは知っている。
「でも、仕事が押すこともあるから……もし遅れても、頼むわね」
だが、フェルシアにも事情があるとはいえ、あくまで主たる役目は一隊員だ。
そう伝えればリリィは「もちろんにございます」と微笑み、フェルシアに立つよう促した。
二人してクローゼットへ進む。今更ながらこの部屋は豪華だ。
天蓋付きのベッドにサイドテーブル、クローゼット、鏡台など。身支度に必要なものが揃っている。
全体の雅やかな装飾はもちろん、広い前室と寝室の続き部屋であることも外せまい。
本来なら一室がせいぜいのところを、フェルシアは厚遇されていた。おそらく名指しで呼んだテュリエール側から配慮されている。
そうして身支度を終えたフェルシアは、仕上げに白銀の髪を結び、青い制服姿で軍帽を被った。
「行ってきます。リリィも気を付けて」
室内を出て、これまた大理石の美しい廊下で二人は向き合う。
「はい。お嬢様もお気をつけて。どうぞ行ってらっしゃいませ」
フェルシアもその挨拶に頷くと、サッと身を翻した。