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セラン・ブルーと幸福の少女  作者: Annabel
第2部 テュリエール王国編
79/98

21.北の地にて

 夜明け前、空が白み始める。

 稜線から射した陽はパアッとその下にある景色を照らした。


 ガラス越しに眼下を眺めていたフェルシアも、ほう…と息をつく。


(やっぱり、とても美しいわ)


 ここへ来てから何度思ったことか。


 薄闇に浮かび上がる、優美かつ大胆な装飾、円状に並んだ白い石畳。

 故国とは違う、異国情緒あるきらめきに彼女は見とれていた。


 初めて訪れたテュリエールの王都。


 そこは大都市の名の通り、大きな建物がひしめきあい、絶えず人々の行き交うにぎやかな場所であった。

 まだ時折騒乱があるらしいが、見渡す限り風雅な街並みである。


 フェルシアは正直、もう少し荒れているのでは…と思っていた。樹海を抜け、田舎道を抜けて。初めて街の防壁を抜けた時は驚いたものだ。


 そうしてしばらく、フェルシアが街全体の輝くような光景を眺めていると。


 背後からコンコン、とノックが聞こえた。


「失礼いたします。お嬢様、お目覚めでしょうか?」


 リリィだ。返事をすれば入ってきた姿にフェルシアはホッとした。

 ここでは宮殿に部屋を借りているが、やはり見知った人がいると安堵あんどする。


 その後リリィからタオルを渡され、寝汗を拭っていると呼びかけられる。


「今宵はいよいよ晩餐会でございますね」


「…ええ。遅れないよう気をつけるわ」


 使節団がテュリエール到着して早三日。

 今夜は使節一同がテュリエール王と正式に(まみ)えての食事会だ。


 会には着任中を除いた自分達軍人も出席し、フェルシアも正装して参加する。ナイトドレスを装うので、仕事が終わり次第早く帰ってこなければ。


「公爵様もご存じですし、きっと定刻にて帰してくださることでしょう」


 リリィの言葉にフェルシアも頷く。

 今日の任務はハース公の護衛。彼もフェルシアが晩餐会に出ることは知っている。


「でも、仕事が押すこともあるから……もし遅れても、頼むわね」


 だが、フェルシアにも事情があるとはいえ、あくまで主たる役目は一隊員だ。

 そう伝えればリリィは「もちろんにございます」と微笑み、フェルシアに立つよう促した。


 二人してクローゼットへ進む。今更ながらこの部屋は豪華だ。


 天蓋付きのベッドにサイドテーブル、クローゼット、鏡台など。身支度に必要なものが揃っている。

 全体のみやびやかな装飾はもちろん、広い前室と寝室の続き部屋であることも外せまい。


 本来なら一室がせいぜいのところを、フェルシアは厚遇されていた。おそらく名指しで呼んだテュリエール側から配慮されている。


 そうして身支度を終えたフェルシアは、仕上げに白銀の髪を結び、青い制服姿で軍帽を被った。


「行ってきます。リリィも気を付けて」


 室内を出て、これまた大理石の美しい廊下で二人は向き合う。


「はい。お嬢様もお気をつけて。どうぞ行ってらっしゃいませ」


 フェルシアもその挨拶に頷くと、サッと身をひるがえした。

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