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セラン・ブルーと幸福の少女  作者: Annabel
第2部 テュリエール王国編
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エピローグ - これから -

 とある日の夕方、オリヴィエ邸のタウンハウスに優雅な調べが響く。メインホールから流れるそれは、ピアノとヴァイオリンの音色が見事な協奏曲だった。


 ほどなくして、伸びやかな余韻を残し奏者二人が手を止める。すると今度はパチパチと盛大な拍手の音がホールに満ちた。観客達は一様に感じ入った表情をしている。

 それを見渡すと、ライナスは弓を下ろしピアノの方へ向かって声をかけた。


「フェルシア。最高だったよ。ありがとう」


「ありがとうございます。ですが、私などライナス様について行くばかりでした」


 案の定返された謙遜にライナスは「そんなことはない」と笑う。彼女の演奏は正確で美しく、素晴らしいものだった。


 多くの来賓が注目する中、ライナスはフェルシアの手をとる。それからそろって一礼し、二人は壇上を降りた。すると舞台袖を出たところで声がかかる。


「素晴らしかったよ、二人とも。さすがだな」


 自分達へ微笑んで近付いてきたのはハース公爵だった。今日の来賓の筆頭として、またライナスの親しい友人としてこの場に招待されている。ハース公爵は穏やかな表情をライナスへ向けた。


「改めてライナス、誕生日おめでとう。この一年は間違いなく最高の年になるな」


「ありがとうございます。ええ、フェルシアが隣にいてくれる限りそうなりましょう」


 その祝辞にライナスも心からの笑みを返す。フェルシアの存在は自分にとってかけがえがなく、それはハース公爵にもお見通しらしい。


 今は十月の始め、オリヴィエ家当主の誕生パーティの最中だ。今年もほとんどの招待客が参加し、会場は大層にぎわっている。

 会の冒頭にも二人へ祝辞を寄せたハース公爵が、今度はフェルシアへ目を向けた。


「フェルシアも。私はあの時からずっと応援しているからね。彼のことを頼むよ」


「はい、公爵様。もったいないお言葉です」


 そう答える彼女にたどたどしさはなく、いつもの涼やかな口調だ。

 きっと演奏前、会場中にフェルシアを「婚約予定の恋人で、来年には結婚する」とライナスが紹介して回ったおかげだろう。あの時のぎょっとした反応もよかったが、こうして観念し大人しくしている彼女も可愛い。


 始め、フェルシアはこの場をただのパーティと思っていたようだ。しかしとんでもない。今日は二人の関係を周知する好機で、これから瞬く間に社交界へ話が広まるだろう。

 自分の縁談避けも兼ね、フェルシアに変な虫がつかぬようアピールするため、ライナスは堂々と会話を続けた。


「では私も、必ずや彼女を幸せにせねばなりませんね。フェルシア、愛しているよ。祝ってくれる方々のためにも二人でよい家庭を築こう」


「……はい。私もどうぞよろしくお願いいたします」


 その返事には一瞬の間があり、フェルシアが「婚約もまだなのに、大きな声で言うのは恥ずかしいから止めてください」と思ったのが察せられ、ライナスは笑みを深めた。


 自分達は婚約を控えた関係だ。そのため多少いちゃついても問題はないはずだが、やはりフェルシアには気になるらしい。

 先月グローリーブルー領で一週間をともに過ごしたものの、こういうやりとりに彼女はまだまだ不慣れだ。晴れて夫婦になるまで、互いにもっと理解を深めねばなるまい。


 去っていくハース公爵を見送りながら。ライナスはフェルシアとの無事の結婚に向け、これからも力を尽くそうと思いを新たにした。



* * * * * * *



 パーティの翌日、同じくオリヴィエ邸の一室にて。


 朝になり、日の射し込む室内で目を覚ます人物があった。

 彼女は銀の睫毛をぱちりと瞬かせ、ぼうっと曖昧あいまいな表情で口を開く。


「フェル……?」


 そのかすかな声は、すぐに静謐な空気へ溶けて消えた。

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