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探偵リスタート  作者: 東谷尽勇
第二章 探偵の卵
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第二章 その2

 若山さん達が起こした事件から数日後の放課後。

 学校内は平穏を取り戻しており、生徒達は日常を過ごしていた。


「金谷郷君。この前貸した本はどうだったかな?」

「なかなか面白かったよ」

「よかった。明日また新しい本を持ってくるから。じゃあね」

「ばいばい」


 俺と千倉さんもそうであった。

 事件以降、隣の席ということもあって俺と千倉さんはよく話をするようになり、本を貸し借りする間柄になっていた。

 といっても、千倉さんから借りた本はまだ二冊だけだ。


「あっ、千倉さんまた明日」

「うん、また明日」


 若山さん達が逮捕されたことにより、千倉さんに対するイジメが完全に鳴りを潜め、クラスメート達が気軽に千倉さんに話しかけられるようになった。

 それが影響してか事件以降、千倉さんは以前よりも明るくなった、と一方的にだが思っている。

 そういった事件後に得た平穏な光景を見るのが、俺は嫌いじゃない。


「最近は随分と、千倉様と仲がよろしいようで」


 一仕事終えていい気分に浸っていると奥山さんが少々攻撃的な態度で話しかけてきた。


「えっ? まぁー、そうなるのかな?」

「なぜ疑問形なのでしょう。既に千倉様とは本を貸し借りする間柄ではないですか」

「そうなんだけど、本を貸してくれるようになったのは、千倉さんが読んでいた本を俺が興味津々な顔で見ていたらしく、千倉さんの方から貸そうかって気を遣ってくれたのが切っ掛けでさ、向こうに今も気を遣わせているんじゃないかって思っちゃって」


 ある日、千倉さんが読んでいた本は、偶然にも蓮がかつて俺に薦めてくれていた本であった。

 気付けば俺は、その本に興味津々な視線を向けてしまっていたらしく、千倉さんの方から本を貸そうかと申し出てくれて、俺はその提案をありがたく受けることにした。

 そして読書嫌いではあるが、捜査資料などのおかげで文章自体を読むことは苦手ではない俺はあっという間に借りた本を読破し、その本に魅了されていたのだ。


 そんな話を、もちろん蓮のことなどは伏せて千倉さんに話したところ、また本を貸してくれることになり、本を貸し借りする間柄になったわけなのだが、どうしてもスタート時点で相手に気を遣わせてしまった負い目があり、はっきりと仲がいいとは言いづらかったのだ。


 ちなみに千倉さんが貸してくれた二冊目の本も蓮に薦められたことがある本だったのだが、そもそも千倉さんが貸してくれる本は読書になじみがない人でも読みやすい本であった。

 つまり、かつて蓮は読書嫌いな俺でも読みやすい本を薦めてくれていたということであり、相棒の心遣いに今更ながら少しだけ救われた気がしていた。


「そういうことですか。旦那様、千倉様の心遣いに甘えて本を読むのは結構ですが、まだまだ前回の出費を取り戻せていないのでしっかりとお仕事もなさってくださいね」

「は、ははっ……」


 そう。事件の決め手となった証拠品を手に入れるため俺は金谷郷家の力を使い、それによって消費したお金を取り戻さなければいけなくなり、金谷郷政太郎として色々と仕事をこなすようになっていた。

 もっとも、今のところはただ会議に出席して訳の分からない話を聞いているだけであり、どちらかと言えば負担は少ないと言える。


「あっ、でもごめんなさい。今日はちょっと、放課後に寄るところがあって……」

「……はぁー」


 奥山さんの深いため息に俺は冷や汗をかくしかないが、それでも俺は今日の放課後は仕事を断らなければならなかった。

 今日の放課後、探偵事務所で犬成に会う約束をしているからだ。


「迎えの車はどうなさいますか?」

「い、いらないです」

「承知いたしました。では、屋敷の方で金谷郷家の将来の行く末を心配しながら旦那様の帰りを待つとします」


 どうにか奥山さんから許可を貰うことができ、俺は一安心する。その時だった。


「……ん?」


 俺は視線を感じ、視線を感じた方にこっそりと視線を向けてみる。

 すると、俺を見つめる江月さんの姿があった。

 なぜ、江月さんは俺のことを見ているのか、その理由を考え始めた直後、


「あっ、しょうちゃん、ちょっといい?」

「何だ?」


 江月さんはあっさりと俺から視線を外し、教室に残っていた新地教諭に話しかけた。

 ……たまたま俺のことを見ていただけか。


 と、結論付けた俺はカバンを持ち、探偵事務所に向かうため教室をあとにした。


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