~目覚めは船の上~
目が覚めると、俺は薄暗い部屋にいた。
狭い部屋の天井には電球がチカチカと点滅していた。
コンクリートの床でうつ伏せのまま寝ていたのもあり、起き上がると関節が痛く、体が重い。
どこだここ?
寝ぼけていたのもあり、記憶が曖昧だ。自分自身の現状に疑問を持ちつつ、俺は立ち上がった。
周りを見渡すと部屋には窓一つなく、あるのは鉄製の扉だけでそのほかには何もない。
「!?」
扉に注意を向けた途端、突然扉が開いた。
今の時間は昼間の様で、扉の先は部屋の暗がりのギャップで明かりが強く、外がどうなっているか分からない。
俺は現状を一刻も知るべく、光のさす道を歩き出した。
「...どうなってんだよ」
思わず声が漏れてしまった。
青い海、燦燦と照り付ける太陽、波で揺れ動く船体、周りでは船員とみられる人たちがそれぞれの仕事に没頭していた。
俺のいる場所は帆船の上だった。
なぜ自分がこのような場所にいるのか困惑し、辺りを見渡すと俺と同じように困惑している様子の人が5人程いることが分かった。彼らも俺と状況なのだろうか。
そのようなことを考えていると、後側から呼びかける声が聞こえた。
「目覚めたようだね♪」
声がした方向へ振り向くと、俺が出てきた部屋の上に少女が足をぶらぶらさせながら座っていた。
見た目は13~15歳位、髪色は青色、髪型はツインテール、服装は帆船ということが影響しているのか、白色を基調としたセーラー服を着用していた。
「いろいろと聞きたいことがあると思うけど、まずは自己紹介からしようかな。アタシは水を司る女神にして、この天界を管理しているキャリスレイア。これから長い付き合いになるだろうけどよろしくね♪」
俺たちの動揺をもろともせず、淡々と彼女は喋りだした。
「理解できてないようだから一応教えておくけど、君たちは死んで天界と呼ばれるこの世界に来たんだ。信じられないかもしれないけど、ここは死後の人間が訪れる場所なんだ。」
彼女が言うには、俺含めここにいる5人は何らかの理由で死んでしまい、天界と呼ばれるこの地(厳密には船の上)で目覚めたのだという。
「今からどうなるか心配って顔しているね♪」
現状に困惑している俺たちに気づいたのか、彼女はニヤリと笑いながら喋りだした。
「君たちには今から、天界に突如として現れた大陸を調査してもらいたい。もちろん君たちだけなんてことはないから。アタシの部下達も先に調査させているから、そのお手伝いの様なものだね。」
彼女は俺たちにあっさりとそう説明すると、もう説明することはないと満足したような顔をしながら、ありはしないと思いながら「何か質問とかある?」と聞いてきた。
「ちょっといいか?」
彼女は俺たちは死んでここに来ていると言っていたが、そもそもそれ自体、俺は納得できていない。そんなことを考えていると、俺は自然と質問していた。
「...何かな?派手な寝ぐせの君。」
キャリスレイアは少し驚いた顔をした後、すぐに平常運転に戻った。
「俺たちって本当に死んでここに来たのか?」
「そうだよ。」
彼女は平然と答える。
「だとしたらおかしいだろ。そもそも俺は死んだ覚えが...あれ?」
おかしい。ここに来てから驚くことが多かったせいか、冷静に考えられてなかった。
俺はここに来る前にどこにいたのか。というより
「俺は誰だ?」
俺は今まで生きてきた軌跡を何も思い出せなかった。自分でも不思議な感覚なのだが、自分に関する記憶がド忘れした様になっており、自分一人では何も思い出せない状況になっていた。それでも俺が俺である、そんな自信は確かにあった。そんな感覚に陥っていた。
「アハハ!そういうことか!!確かに説明不足だったね♪」
俺の言葉を聞いて、キャリスレイアは笑い出した。
「死人がここに来る場合、生前に君たちの死に関わる記憶は消させてもらっているのさ♪死んだ人間の中には、凄惨な死を遂げてしまった子もいるからね。思い出すとショックで魂に深刻な影響を与えかねないんだ。まぁ、面倒だから一応ここにいる全員の死にまつわる記憶を消させてもらったんだ♪君はすべての記憶を失くしてるみたいだけど♪」
キャリスレイアは笑いながら説明してきた。それと同時に自分の現状を悟ってしまった。
「てことは俺の記憶は手違いで消えたかもしれないってことかよ!!どうしてくれんだよ!!」
俺は自分の名前すら思い出せない原因に憤慨した。
「ごめんって。お詫びにさっき言った頼みごとをきいてくれたら、働きによっては女神キャリスレイアの名に誓ってなんでも願いをかなえてあげるよ♪もちろんほかの子たちもね♪」
彼女はそう言うと、両手を天高く伸ばした。すると俺たちの体が急に宙に浮き始めた。
「まだ何か言いたそうな顔してるけど、もう面倒だから先に連れてってあげるよ。残りの説明は現地の天使たちにでも聞いてね♪」
「おいまだ話は終わってねえぞ!!」
俺は宙に浮いた事も気に留めず、キャリスレイアに突っかかった。だが彼女もそんなことは気にせずに俺たちを帆船に向かう先、天界に現れた新大陸に向かって飛ばしたのだった。