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最強のくつろぎカフェ、人を癒す

深い事は気にしない方がいい小説です

カランカラン、カフェの扉があいて人が入ってきた。

「おい俺は強盗だ」

強盗だった。

「くつろいでいくかい?」

店主はとりあえず聞いてみた。


「バカだな、俺は金を奪いに来たんだ」

強盗のやりに来たことは、実に強盗らしいことだ。

「バカはお前、カフェにそんなたくさん金あるわけないだろ」

店主は店の主として堂々と対処した。

「構わない、強盗は俺の趣味でもある」

「ああそう」

店主はコーヒーを客席に出した。


「何だこれは」

強盗はたずねる。

「サービスのコーヒーだよ、来客には究極の癒しを与えるのがモットーさ」

「ふん、舐めやがって」

強盗は席についた、それからごくごくと飲み干す。


「ぷはっ、うめぇ」

「毒入ってるとか思わんの?強盗にまともなもの出す義理があると思うかい」

「人を見る目くらいある、お前はそんなことしないヘタレだ」

強盗は笑った。

「強盗のくせに偉そうだねえ」

店主は呆れた。


さて、店主は強盗の前にことりとメニューを置く。


「何だこれは」

「メニューだよ、字は読めるかなっ?」

「とことん舐めてやがるな?」 

強盗はパラパラメニューをめくった。


「読める?それこの国の言葉じゃないけど」

「ふざけやがって……まぁいい、とりあえずこの、よくわからんが黒っぽいケーキを寄越せ」

強盗はメニューが読めなかった、海外の人に出す用だから。

「おおっとチョコレートケーキね、子供に大人気のやつ」

「俺はガキじゃねぇ!」

強盗は怒鳴る。

「はいガキー、子供っぽいって言われてすぐ怒るなんて大人の余裕あったらしません!」

「ばかにしやがって、もういい金出せ早く」

強盗は右手に持ったナイフを店主に突き出した。


「わあ、怖い怖い、殺されたくないなー、せっかく客を癒やしてるのにー」

「じゃあ金出せ」

「うーん、殺されるのは困るなー」

脅された店主はどうしようかなと少し迷った。

「じゃあついてきて、こっちに金とか保存してるから」

そして背中にナイフを突きつけられながら、店主は歩く。


「ほら、金庫だよ」

しばらくして金庫前についた。

店主はその戸を開ける。


……金庫といっても、入り口がやけに厳重な戸なだけで普通の部屋だ。

開けた中は家具とか何にもないフローリングの部屋、その隅にポツンと札束が一個置いてある。

「しょぼすぎ!金庫これか!?」 

それを見た強盗は、大きな部屋と札束一まとまりというアンバランスさに驚いた。


「そんなんでもうちの全財産だよ、取られたら困るよ」

「ふん、はした金だか仕方ない……一応飯代にはなる」

強盗はてくてく歩いて部屋の隅の金を取った。


「ねえ強盗くん、君はバカなんじゃないのか?」

その瞬間、店主は部屋の外から金庫の戸を閉めた。


「なんだお前?!」

「これで君を閉じ込めました、こんな不用心な君がよくこれまでやってこれたね」

店主は外から鍵をかけて、金庫に強盗を閉じ込めた。

これにて勝ちだ。


「くそ、やられた……!」

「それじゃごゆっくりー」

店主は平然と言い放つ。

強盗が内側から戸を叩いても気にしない。


「おい!お前このままだと俺は餓死するんだぜ!?いいのか?殺せるのか?お前に人が殺せないだろ!」

強盗は叫ぶ。

「別に殺さないよ」

店主は淡々としていた。


「じゃあどうする気だ?!」

「僕の生まれ故郷の日本だったら警察に通報なんだけど……この国は警察とか無いしー」

店主は迷った。


「なんだ?寒くなってきた」

強盗が震える声で言った。

金庫の中はまるで冬のように寒くなってきたのだ。

「あぁ、その金庫コールドスリープ装置だから」

「えっ」


「紙幣が古くなると嫌だから冷凍保存できるようにしてるんだ」

「……科学の極地のような機材が急に出てくんのなんかおかしいだろ」

「何がおかしいんだい」

「コールドスリープとか急に出すな、カフェが」

「いや持ってるものにおかしいとか言われても困るんだよな」

「くそ……」

強盗の声は小さくなっていく。


強制冷凍睡眠にはいったのだ。

そして長い時間がたった。


「おはよう」

店主が金庫の戸を開ける。

「ん……あ!クソっ!よくも!」

中にいた強盗は意識を取り戻した。

するとすぐさま右手でナイフを掴む。

そのまま豪速で部屋を飛び出し店主の胸ぐらを左手でつかもうとした。


だが、店主はめっちゃ頑丈で仮にナイフをぶっ刺されても平気な防護服を着ていたため手がすべり無意味だった。


「……そんなに怒る理由あるかい?」

「当たり前だ!俺の人生めちゃくちゃにして……!何年寝かせやがった?!」 

強盗は感覚で理解していた。

相当に長い時間がたってしまったのだ、少なくとも十年はゆうに越えるほど。


「そりゃあたぶん五十年以上は寝かせたけど、強盗するくらい滅茶苦茶な人生はどうでもよくない?」

「うるせぇ!」

強盗は怒りながら涙を流していた。


「ごめんね、これ懲役より悲惨だもんね、あっちは外に出れたら友達に会えるんだし」

「……元々俺にダチはいねぇよ」

強盗はうつむいた。

「わあそうなんだ!やっぱ悪いことする人にまともな友達できないよね!」

店主は強盗と出会って最もいい笑顔をした。

「喜ぶな!」

「でもよかったじゃん、もともとあの時代に生きる意味なかったんだからコールドスリープしたって問題ない」

「そういう問題じゃ……」


さて、強盗は店主への憎しみをつのらせる。 

だが店主はそんなことつゆ知らぬふうな顔をしている。


「ねえ君は怒ってるけどさ、ある意味ラッキーなんだよ?」

「ふざけんな!元の時代に返せ!」

「この時代にはもう誰も君を悪人だとわからない」

「……え?」

まったく予想外の言葉に強盗の動きが止まった。


「何言ってやがる……?」

「君はこれからまともに生きる事も可能ってわけだ、だから強盗なんかやめちゃえよ」

「……まさか、俺に更生のチャンスを与えようってのか?」

「……客に究極のくつろぎを与える、それがこのカフェのモットーさ」

店主はまた笑った。


「いいのか?俺は強盗自体は普通に楽しんでたこともあるぜ?更生のチャンス渡すべきやつは他にいっぱいいる」

「楽しんでたって言っても……君はほかに生きる選択肢なんかなかっただろ?それに君はまだまだ”子供”なんだ、まだやり直せるさ」

店主の言うことは事実だった。

強盗は悲惨な生まれだった、まともな大人と出会ったことがない。

そんなだから奪う生き方しか教われなかった。

そして、生き方を変える機会はまったく訪れることのなかった"子供"だ。

10歳を越えたかもわからぬ子どもなのだ。


「なぜそんなことわかる?」

「君より人を見る目があるからかな」

さて、その強盗はため息をついた。

「お前に見る目はねえよ……悪い事しないで生きるのを選んでるのに苦しんで生きてる俺より若い奴はごまんといる、そっち助けろ」


うーん、と店主はうなった。

「あのね、目の前でころんだ人がいるとする」

「それがなんだ」

強盗は脈絡のない話に困惑する。

「そういう時に他にどこかでもっとヤバい怪我した人もいるとか考える?そうじゃなくてまずは目の前の人から助けるだろ?」

「……」

「君は客として僕の目の前にきたんだよ」

「……ちっ!」 

強盗はずっと右手に持っていたナイフを捨てた。それから店主に背を向け歩き出す。


「どこに行くんだい?」

「外に決まってんだろ!」

「いやいや何の知識も無いまま出て行っても強盗に戻るだけだよ、せめて僕と話し合ってから行こうよ」

「うるさい!」


強盗はイライラしながら入り口へと走って向かう、店主は追いかけた。

だが強盗の方が早く動き出したため、扉を開け外に出てしまった。


だが立ち止まる、そこには森があったのだ。

こんな場所にカフェを建てようとは決して思わないほどうっそうとした森。


「俺がこのカフェに来る前、こんなんじゃなかったはずなんだが」

「……ごめん、たぶん数千年……人類が滅んでおかしくないくらいに君の事寝かしてたかも……ごめん……」

「は?!」

店主はうっかり、強盗の事を数千年ほどコールドスリープさせてしまっていた。

一応は人類が繁栄している環境の中強盗に過ごしてもらうつもりでいたので、気まずすぎて言葉が途切れ途切れになる。


「寝かしつけてから十年くらいしか経ってないと……さっきまで思ってたけど……コーヒーの味の調整に夢中になってたりしたから……時間間隔狂って数千年たったかも……」

「なに言ってんだ!そんなわけ……」

そんなわけないだろ数千年もたってりゃ気づくはず、と強盗は言いよどんだ。

店主はコールドスリープ装置なんて常識はずれなものを持っていたように、何か一般人と隔絶したものがある。


このカフェの店主を常識に当てはめてはいけない、強盗はようやく理解した。


「まぁとりあえず、数千年越しだけどコレ……」

流石に店主は気まずかったのでチョコレートケーキを出す。

「クソ!」

強盗はもりもり食べ始めた。


「ところで君、お金持ってるの?コーヒーと違ってコレは有料だよ」

ふと店主は気になった。

「ぁ?んなもんねえよ強盗なんだから」

ああやっぱりか、そう店主はため息をつく。

「……このカフェで働いていきなよ、とりあえずここにいるうちは強盗なんかしなくても生きてけるから」

「ちっ」

強盗は舌打ちした。


「滅んだ世界じゃお客が来ないって気にしてるのなら大丈夫、もっと遠くまで調べてば人類残ってる可能性あるし」

「……」

強盗は無言でケーキをむさぼる。店主はそれにお構いなく話していく。

「仮に人類絶滅しててももう一回人類発生から文明発達まで待つみたいなやり方もいくつかあるからさー」


「……相当気が長い話で面倒だな、俺がこのケーキ代払うのは」

「ごめんね」

だが、それはそれとして強盗はこのカフェで働くことを了承した。

既に強盗は甘ったるいチョコレートケーキを食べきっている、美味くて落ち着く味だった。

読んでくれてありがとうございました

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― 新着の感想 ―
[良い点] カフェの主人の全く物怖じしない態度が頼もしかったです。 物語は二転三転し、最終的に強盗はとんでもない目にあってしまいますが…温かい気持ちにもなれる作品でした。
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