フィクションが視た天空の乙女
「やっぱこうなるのね」
夕闇に包まれるタラプ島に沈んでいく声が。
赤リボンをつけた泥人形だ。Aチームと交戦していたあの大黒泥人形だ。
地表から出た木の根っこに注意しながら、一輪車を押している。
「あんのモヘンジョにねー、空想建築境界が乗っ取られるとはね……そんな気はしてたのよねー、あんにゃろうなんでこんなとこに、ね」
舌打ちをし、歯軋りも。込み上がる憤りを鎮めようと深呼吸する。
「まあ落ち着くのね、私、大丈夫なのねー、乗っ取ったところでねー、無意味なのねー……だよね?」
保険をかけてはいるものの、やはり不安であった。
《真祖》の血縁者を連れた想定以上に強い人類と、
謎の乱入したアンデットに、
空想建築境界を乗っ取ったモヘンジョ。
──不透明な死を感じた。
死ぬことはないだろうに、何故か腕が震える。
そうして無意識に足を止めて、
「……分かんないのね、お姉ちゃんの考えてることが、ね」
──自分は能無しだ。
ただただ邪神様に”尽くすため”だけに生まれた、一人形に過ぎず。
自分の頭には比喩無ではなく泥しか詰まってない──人形如きが他人の心を計れやしない。
──姉の心でさえ。
「お姉ちゃんは人類が嫌いでね、いつもいつもぶっ殺せ、てね、言ってるのにね……行動が変なのね、命令に殺意が無いのねー。
しかも、お姉ちゃんがねー、最初から本気だせばねー、邪神様はねー、降臨できたねー……」
──それでも、と。
一輪車を再度押し始める。
「お姉ちゃんがねー、裏切るわけないねっ」
それだけは自信持って言える。
こうじゃないといけない理由があったんだ。
きっと未来は明るくて、人類の死体が積み重なっているはず。
「よーし、よくわかんないけどね、お姉ちゃんのいうことならね、たぶんなんとかなるね、がんばるぞー!!」
鼻を鳴らして気合いを入れ直した。
・•・•・・•・•・
白いブロックのみが漂う殺風景な世界にて、
メディアは過労により倒れ。
イアソンは部屋の隅で震え。
アスクレピオスは頭を抱え。
ピロークテーテは気持ち良く爆睡。
何も知らぬハルマンは引き続き昏睡中。
『これ、どっかで見たなー』
「いやな再放送ですね……」
体操座りしながら黄昏る勇者。
単純な話だ。
あの命令を受けた以上、途中で離脱はできない。よって、否が応でも引き戻るしかなく。
三マス、もとい1500k m走れば、そらそうなる。
今までの努力を無に帰され、脱力感に苛まれる彼らを、嫌いだけども僕は少し同情していた。
努力に免じ、このタラプ島での戦いだけは打算抜きで手伝ってもいいくらいには。
ただ、僕はあくまで勇者を通して状況を把握しているに過ぎない。声も届かないし、魔法なんてもってのほか。まぁ、声援はしてやるさ。
「……なぁ、なんで人って生きてんだ? どうして無意味な努力をするんだ?」
「十二回目の問いだな、だが十二回目も同じ事を言おう。泥人形が性悪なだけだ。泣け」
「う゛お゛お゛お゛ん!!!!」
淡麗な顔を遠慮なく歪ませる号泣も、もはや見飽きたものだ。
ここからタラプ島を狙撃してやろうか、と。
フィクションは本気で思い始めた──のだが。
「……何か、巨大なものが来ています」
勇者が立ち上がる。短剣を引き抜いたのを皮切りに、瞬時に切り替え四人は一斉に構えた。
巨人かと警戒するが違う。
クルーザーに近しい形状をした、直径二百メートルはゆうに超える巨体。飾られるは両端につけられた金の羽と色鮮やかなステンドグラス。
それが、爆速でこちらに向かっていた。さらには紫の煙を伴って。砂埃ではない。クルーザー自ら発する煙だ。
では未知の敵かと予想するが、展望に立つ人物を見つけると、一同は警戒を解いた。
その人物は大きく右手を振りながら、左手で舵をきる。
すると戦艦は停止した。
「おーい! みなさまー!! ご無事ですかー!?」
たおやかな声をあげ、ふわりと飛翔し、イアソンの眼前に着地する。
三つ編みを結んだ薄紫の髪と、清楚に見えるもののよく観察するとなかなか際どいワンピース。そして──純白の大翼。
見間違えない。
「おお、ブリュンヒルデ! 生きてたか!」
「はい。イアソン様たちもご無事でなにより」
──ブリュンヒルデ、Aチームの一員だ。
「おっと、私めもいますよ」
「わたしもだ」
しなやかな長い黒髪と褐色。緑のフードを見に纏い、矢筒を携え、弓を持った美女と。
皺が入り、枯れる間際の樹木を思わせる弱そうな老人。されどどこか侮れない雰囲気を漂わせている。
遅れて登場した二人の人物を、フィクションは知らない。
「おっと、名無しは二人を知らなかったな。この女はアルジュナ。で、こっちの老人はガッバースだ」
その言葉で思い出す。確か、タラプ島奪還作戦において、
──リーダー、ガッバース。
──サブリーダー、アルジュナ。
ああそうだ、そうだった。作戦の中枢だ。
「始めまして、アルジュナと申します。可愛いアンデットさん」
「……ガッバースだ。よろしく頼む」
二人は勇者を注視する。
だが、当の勇者は目を瞬かせていた。
「どうなされましたか? 具合でも?」
「い、いえ、大丈夫です」
口では平気ぶるも、明らかに理解できていない様子。
『どうしたのさ、何が理解できないの?』
(──……そうですね、2点ほどありますが、今回の件とは関係ないと断言できる些細な事なので、今は置いておきます)
わざとらしく指をふる。
「それよりも情報交換しましょう」
「然り。では始めよう」
話をまとめるとこうだ。
BチームもCチームも、幻の邪神を撃退しようと合流を図る。しかしAチームと同じく不意打ちを喰らい、空想建築境界に閉じ込められたあげく、バラバラにはぐれた。
ブリュンヒルデは自前の乗り物──ビマーナを取り出し、搭乗して仲間を探す。
そこでアルジュナとガッバースと合流したのだった。
「……ふむ、命令に殺意が無い…ですか。確かにそうでしたね」
こちらの事情を聞いたアルジュナは頷く。
「ところで、ビマーナを取り出すって……あぁカローン・ナウスと同じか」
「ビマーナの取り出し方が気になります? こうやるのですよ」
ブリュンヒルデが指を鳴らすと、ビマーナが蜃気楼のように消える。
「こうやって亜空間に仕舞います。また指を鳴らすと──」
ビマーナが出現する。
「……話を戻そう。断言は不可能。しかしてわたしは”姉”が関与していると思う」
「”姉”?」
ガッバースは語り始める。
「──泥人形が戦争の始めに創られたのは有名な話だが、泥人形の最初の個体は知らぬだろう。泥人形共は、その最初の個体をこぞって”姉”と呼んでいるのだ。
どうやらそやつから分裂して、今の泥人形があるらしい。そして、まだ存命だとも」
「えっ!? まじで生きてんのそいつ!?」
驚くのも無理はない。話が本当だと、何万年も生きている神話となる。
「然り。わたしが見た。偶然の出来事だったな、若かりしわたしと相対した。最初こそ信じなかったが、宣言通りやつは強く、賢い。負けてしまったよ。
そも、この空想建築境界自体見たことある。やつと何一つ変わらん」
──だが顔は忘れてしまったよ……
無念に顔を曇らせるガッバース。だが、ブリュンヒルデは否定する。
「……お言葉ですが、何一つ証拠になっていません。それが本当なら既に情報が出回っているはず」
「報告したが笑われた」
「でしょうね」
「──でも、それをただの戯言で片付けるには早計でございます」
勇者はそれこそ否定する。
「討伐隊は人類の先鋭が洗練された武器と道具を持った部隊なのでしょう? それを欺き、さらには《真祖》も返り討ちにする……
それほどの実力者がいるのです。神話の生き残りという大物がいてもなんら不思議ではない」
「だよな。頭の片隅には置いておこうか」
同調するイアソン。ピロークテーテやアスクレピオスは納得していないようだが、イアソンがいうならと譲歩する。
「……述べたいものは、これだけか?」
ガッバースの真剣な言の葉に、皆首肯する。
「────ではゆこう、散った仲間を探そうか」
・•・•・・•・•・
一同はビマーナに乗った。
なにぶんイアソン達は限界だったのだ。
本気の行進とは比にならないスピードで進む。
暴風を受けるビマーナの先頭に、イアソンは立ち──
「ハッハァ!! 徒歩で進むとか原始時代かよ馬鹿馬鹿しいぜえ!! っぱ、乗って進むに限るわ、うおおおお唸れ俺のレボリューショオオオオン!!!」
──今までの鬱憤を晴らすように、イケメンがしてはならないゲス顔で叫び散らかしていた。
「あの、こちらのビマーナです……よ?」
「もうだめニャ、あいつああ見えて精神脆弱なのニャ、放っておけ」
「何一つ良くないが? おいブリュンヒルデ、医療室くらいあるだろう? 勝手に借りるぞ、名無しを診るついでにイアソンも連れていく」
「……すみません、ここ医療室ないんです」
「は!? 無駄が多すぎるだろここ!!」
舌打ちしたアスクレピオスは、イアソンの肩を叩く。
「おい阿呆いったん寝ろ、錯乱してるぞ」
「やだぁあ、そんな殺生な! あのね俺ってばずっと頑張ってたじゃん、めっちゃ走ったじゃん」
「僕もだがな」
「──なら今ッ! このッ──何もせずとも味わえる”この”風を楽しませておくれよ!!」
「そうか、寝ろ」
「やだぁぁぁぁあ!!!」
大の大人がみっともなくじたばたするのだから、
──おいおい子供の駄々かよ、と。
白い目を向ける他だが、それよりも。
「それより命令はどうなるのでしょう?
一度引き返したら達成した命令はもう一度しなければならないのでしょうか?」
目下に燻る疑問を、メディアが投げかける。
「それに関しては、すでに私めが検証しました」
答えるはアルジュナ。凛とした態度で前に出る。
「結果としましては、別の区域に入り戻ると、たとえ命令をクリアしていてもやり直すことになります。さらに命令はクリアすると変わります」
「なるほど。じゃあ、”ちんぽこ引っこ抜き爽やかに死ね”、ではない命令を遂行することになるのですね」
「な、なんですかその悪趣味極まりない命令はッ!?」
どんな筆記体でしたか!? などと、切羽詰まる勢いで、名無しに詰め寄るブリュンヒルデ。
その光景を尻目に、ピロークテーテは遠くを眺める。
「……看板の輪郭が見えてきたニャよ」
まだ見ぬ命令により、空気に緊迫感が走る。
──ところで話は逸れるが、彼らは閉じ込められており、未だ術者の掌の上にいることを思い出してほしい。
術者は彼らを殺す気は無く、ずっとこの場にいてほしいという空気を漂わせている。
そんな術者がはてさて、どのような命令をするのか。
……もう、察したかもしれない。
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時速300k mで進む乗り物を、二度と動かせないように壊しなさい。
ーーーーーーーーーー
誤魔化しが一切通じない事実上の死の宣告。
イアソンは空を仰いだ。
「やっぱ、世界ってクソだわ」
正直メンタルフルボッコにされ泡吹いて倒れたい衝動に駆られるも、持ち堪える。
──冗談は勘弁してくれよ……
足を失えば、体力的にも精神的にももうダメだ。分かりきっている。
されど時速300k mの乗り物と指定された。代用なんてできやしない。
どうすれば回避できるか、ひたすらに思考する。
「────あら、わたくし時速300k mで走る乗り物を持っておりますよ」
名無しの、天啓に等しい声が響いた。
「ま、まじかよお前……」
イアソン含め全員が、期待に満ちた視線を名無しに注ぎ。
『……ちょっとまって、ほんとまって!?』
フィクションは悲鳴をあげる。
だってほら、勇者が持ってる時速300k mで走れる乗り物ってぇ、ほら……
──僕が作った────
「こちら、カローン・ナウスです」
『いやぁぁぁああああああ!!!!!!!!』
けれども悲しいかな僕の声は届かない。
──かくして残ったのは灰だった。
(──あの……ごめんなさい)
『いや、いいんだ。いいんだよ……』
彼らの判断は合理的だ。
一人しか進めない乗り物よりも、大人数で進める乗り物を守るのは当然だ。僕だってそうする。
それはそうとして消えた悲しみは拭えない。
『……遺灰を集めてくれるかい? カローン・ナウス2号を作るからさ』
(──承知しました)
いそいそと小瓶を在処を尋ねる名無しを背景に。
フィクションは。
もしかしてだけど〜(もしかしてだけど〜)
もしかしてだけど〜(もしかしてだけど〜)
検索よけしたらマイページにも載らないんじゃないの〜!?
……はい。名前を変える時に気づきました、あきないです。
かなり前に没集を投稿したというお話をしましたが、件の没集がマイページにも載っていなかったらしいですね。
こんな物語にもなっていないものを公然に出すわけにはいかないので、
お手数ですがこちらのURLからお飛びください。
https://ncode.syosetu.com/n3795ie/




