君が視たどんでん返し
「……これは」
「これが術者の心象風景かい……?」
遠くに広がる景色は、もはや戦争というには憚れる綺麗なものだった。
巨人と羽の生えた人類が剣や魔法をぶつけ合う。
確かに行為自体は戦争だ。しかし、それにしては異様である。
雑兵らしき巨人が呟く。魔法だろう。虚空が揺らめき生じたのは、灼熱を超える擬似的な太陽。
空も生命も鉄のように融解していく。大地に近づくと、周辺はガラス化していき、地面を抉る。
馬鹿げた威力だ。なのにそれを、巨人兵全員が乱れ打つ。
人類はもろに受け壊滅に追い込まれる。
しかし無抵抗で受け入れる訳がなく。
後方に鎮座する真四角の物体が赤白く光りだした。
「おい、このままいるとアレに巻き込まれるから一度退避するぞ」
三人は一度次元の切れ目に足を運ぶ。
リチャードは去り際、戦場を一瞥。
真四角の物体が、巨人はおろか人類さえ巻き込んで急速に肥大化していく。
やがて巨人の倍大きくなったそれは、等分されていくと────
そこで次元の切れ目が閉ざされ、見る事ができなくなった。
──十分ほど経過した後。
また見に行くと、あら不思議。
晴れ晴れとした青空のもと、無造作に浮くブロックと底知れぬ奈落の世界に。
黒い灰が降ってくる。しんしんと。
終わりを告げる静寂のカーテンが閉まっていた。
不気味にも安心を誘うような寂寞感がある。
……こんな戦争、二人は知らない。
戦争とは、もっと生臭くて、悲鳴があって、血が飛び交って、
──耐えきれないほどに悍ましいもののはずなのに。
この戦争は、戦争にしてはあまりにも綺麗すぎた。
未知にぶん殴られた二人は放心するも。
モヘンジョは口を開いた。
「──なぁ、泥人形とは何を材料にして創られたか知っているか?」
「……材料、か? 知らんな」
「うーん、これは無学者リチャード」
「煽るなカス!」
「喧嘩するなアホども!!」
代わりにサラディンが答える。
「──戦争の灰だろう?
確か混沌神様と邪神様が戦争を始めて百年経たない頃、
我々人類に羽が生えていて。邪神の下僕は巨人しかいなかった初期の頃。
人類と巨人が衝突して生まれた戦争の灰を、邪神が利用して創られたのが泥人形だろう?」
──正解だ。そう言わんばかりにモヘンジョは頷く。
「モヘンジョは、ここをその初期の世界を投影したのと睨んでいる」
・•・•・・•・•・
ところ変わり名無しは、土下座の姿勢のまま顔を上げる。
「……暇つぶしになんですが、この世界について考察を深めませんか? わたくし、一つ仮説がありまして」
「お、奇遇だな俺もだ。これを機に深めるのもいいな」
──よっこらせ、と。イアソンは地べたに座ると。
「うわ硬った! ケツが痛ぇ!!」
「よろしければお膝を貸しましょうか?」
親切にも名無しが申し出た。
「え、膝枕してくれんの!? ラッキー!!」
か──! 偉大なリーダーにはやっぱ癒しが必要なんだよなぁ、などと。
いそいそと近づくイアソンは首根っこを掴まれた。
「……なんだよアスクレピオス」
「名無し……その気遣いは、もっと他の奴に使うべきではないか?」
その指摘に思考が──止まった。
「ああああメディアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」
「大馬鹿ニャァ!!!」
「あ………ゥ゛ェ」
まな板の上で死にかける魚のように、
メディアは横たわり、泡を吹いて、目が右往左往していた。
『うっわ』
「い、生きてますか!? 生きてますよね!?」
「問題ない、ただの疲労だ。休ませればいい。休ませれば」
「名──無しッ! 俺の事はどうでもいいからメディアにしてやってくれ!!」
……とまぁ、紆余曲折あり。
現在、メディアは安らかに寝息を立てながら名無しの膝で眠り。
イアソンの上着を枕代わりにしてハルマンは引き続き昏睡中となった。
「──んで、俺の仮説聞いてくれるか?」
イアソンは胡座しながら投げかける。
「ズバリ、ここはクッソ大昔──たぶん泥人形が創られる直前か直後くらいだと思うんだわ」
「その心は?」
「ひと──つ! ここは空想建築境界──すなわち心象風景なんだよ。
そもそも心象風景というのは、経験やら感性やらを基に作られるんだわ。
だからそっから術者の心が見えてくるんだ」
例えば、狂人であれば世界がネジ狂うだろう。
聖人であれば神聖で溢れた神々しい世界だろう。
──けれどもこの世界は。
「──なーんか変なの。なんで巨人なのかなって。
数ある生物の中から巨人を選んだあたりちゃんとした理由があるはずだ」
巨人というのは、既に滅んでいて、
「今や御伽噺にしか語られない存在となっているのに、なんでこんなやたら鮮明なんだ? 会える訳が無いし? 文献らしい文献も僅かだし?」
関係があるのは間違いない。
何がどうすれば巨人と関係が繋げれるか。
そこを必死に考えて──ついぞ見つけた。
「──泥人形の材料って、巨人と人類の戦争の灰なんだろ? ここで関係してんじゃないかって思った」
極めて妥当な結論。
しかし、謎はもう一つある。
「ほーん。その理屈だと術者は泥人形ニャね。……ねぇ、じゃあ裏切り者は誰ニャ?」
・•・•・・•・•・
「そんなものはいない。そうモヘンジョは思う」
「はぁ!?」
「おっと、これは意外だ」
《真祖》に肉薄する実力があるのなら、最初から本気出せば邪神降臨の儀は為せた。
為せなかった理由は、単なる実力不足で、超えるためにドーピング剤を強奪した。
そこまではちゃんとリチャードとサラディンは理解していた。
「そもそもモヘンジョの空想建築境界に居たのだぞ? 何か変なことしていたらモヘンジョが気づくし、在庫を確認したが何も奪われていなかった。ならそういう事だろう」
「まてまてまてまて!!」
あっけらかんと語るモヘンジョに。
リチャードは吠えた。
「──馬鹿な……ならば、何故主人(邪神)を降臨させないのだ─────ッ!!」
・•・•・・•・•・
「そこでわたくしの仮説が入るのですよ。
わたくし、裏切り者はいても、《真祖》に差し迫る実力者はいると。そしてその方は本気を出さなかったのだと推測しています」




