君が視た不仲
唐突に話は変わるが、討伐隊は極まった呉越同舟だという話をしよう。
タラプ島奪還作戦は、世界が共闘して行う作戦である。
当然だが、世界全員が仲良い訳がなく。
ハルマン──というよりシューベルト国は、世界から大非難を受けている国だし。
アルジュナはエルフ族から嫌われているし。
──サラディンとリチャードに至っては、只今戦争中である。
『聖地』は我々の物だと互いに主張し、
もう十年も経っているのだ。
しかし、そんな険悪な仲にも関わらず、作戦中では未だに揉め事を起こしていない。
だからこそ、食卓の時(十ニ話より)ピロークテーテがリチャードに疑問を投げかけたのだ。
『──ぶっちゃけサラディンの事どー思う?』と。
もしかして昔交流があったのか、と。
はたまた戦争は不本意だったのか、と。
メンバー内では仲良い説が浮上していた。
間違いなく表面上は敵対している二人が、お互い一切関わらず。ましてや説を否定しない。
これには二人にも責任があるだろう。
なので──この際明かそうではないか!
これが二人の関係である──────っ!!
・•・•・・•・•・
「貴様、ここから飛び降りてみないか? 紐無しで」
「いやだなぁーリチャードくん。これだとお兄ちゃん死んじゃうでしょう? 頭大丈夫??」
「なに。見ず知らずの……しかも敵でも兄と自称する貴様とは違って、私は正常だ。貴様とは違って」
「あっはは! ”条約”忘れた人が言ってもなぁ!! ……あ、分かる頭が無かったんだねぇ……」
「覚えているに決まっているだろう? 奪還作戦中はお互い、殺さない攻めない不可侵条約を」
「じゃあなんで言ったんだい? 分かって言うのは低脳の証だよ?」
「はっ、不可侵条約なんぞ、危害を加えるな、という話だ。事故や過失は含まれない……これは提案だ、今すぐ死ね」
「ふふ……じゃあ、”うっかり”お兄ちゃんがリチャードを奈落に落としてしまったら、事故扱いで無罪になりそうだねぇ」
「はは、面白い冗談だ。たとえ貴様でも私を落とせない」
「どうだろう? もしかしたらなるかもよ??」
──などと、二人は和気藹々と。
心に立っている中指を隠さずにゴールを目指していた。
忘れないでほしいのは、この世界は正真正銘神が存在すること。そして、人類には邪神を討伐する使命があること。
なのに人類の領土であるタラプ島が占領された最中、身内で戦争するのはいかがなものか。
というか、本気で混沌神から天罰がくだりかねない。
そこで仕方なく──そう、仕方なく!!
両者は不可侵条約を結び、侵攻しない証明として、互いの最高戦力であるリチャードとサラディンを討伐隊に送り込んだのだった。
かくして今があるもので。
──はて、友情? あるわけない。
揉めていない理由は、目を合わせたくないくらい嫌っているだけであって。
今だってそう。
何の因果か、目を覚ますと近くにいたのは嫌いなあいつ。お互い負けたのだと、状況を察した。
この非常事態で好き嫌いや政治を持ち込むのはよろしくないと考え、共に動いているだけ。
あるのは──敵に送る殺意であった……。
二人は五メートルほど距離を空けて。
夏の牡鹿の如く、軽やかにブロックを蹴り上げ進む。
重力を感じさせない身軽さ。そして騎士に相応しい体力。
この調子で進めば、命令に辿り着くのは造作もないだらう。
「ねぇリチャード」
「なんだ話しかけるな、馬鹿が移る」
「さっき話しかけたのは誰だったかなぁ……それより、リチャードは音楽が好きって本当なのかい?」
脈絡の無い質問に、リチャードは訝しんだ。
「……好きだが……何故それを?」
「風の噂で聞いたんだよ。良かったら何か歌ってくれないかい? こんな殺風景じゃあ退屈で….」
「そうか、いいぞ」
「え、いいのかい!?」
ブロックが宙に浮かんでいるだけで、巨人も何もいない。
確かに飽きる風景で……というかリチャードは飽きていたもので。
暇つぶしがてら歌うことに賛同した。
「即曲でどうだ? タイトルは、そうだな……アホのサラディン」
「待ちなさい」
「サ、サ、サ、サラディンあいきゅ〜三 サボテン以下〜〜。鼻毛は手で抜く〜お笑い芸人〜〜
一歩進めばしくじって〜
二歩進めば落馬して〜
三歩進めば四歩下がる〜」
「うん、喧嘩売っているってよく理解したよ。称賛の石だよ受け入れなさい!!」
……とまぁ、こんな仲なわけで。
イアソン達は既に二マスも進んでいるが、
二人は一向に進む気配が無い。なんなら自爆する勢いである。
「あーもう、リチャードのせいでまた遅れたでしょう」
「はっ、事実を突きつけただけだが?」
「よーーし!! 喧嘩はちゃんと買ってあげる!!
あ、ほら、看板が見えてきたよ!」
「ふん……さてさて我々は一体何をされるのか」
初の命令には、こう書かれていた。
ーーーーーーーー
股ぐらのちんぽこ切り刻んで世のために死ね
ーーーーーーーー
「死ぬ覚悟はできてんだろうな英雄様ぁ!!」
「お労しいなぁ、敵を救って死ぬなんてねぇ!!」
Q、殺す気満々の人に殺せる口実を与えたらどうなる──?
A、ウキウキで殺す。
──命令が判明した瞬間、大気が震えた。
空が隷属する勢いで、衝撃の波紋が広がっていく。
渦中には、二人の英雄が対峙していた。
片や全てを実力でねじ伏せる獰猛な男。
構えるのは宝石で彩られた剣。
手向けるは睨みつける赤い眼光。
さながら豪雪地帯を根城にする獅子の如く。
宣言する──本気で殺しにかかるぞ。
片や深い叡智と愛情を分け与える優男。
突きつけるは黒雷を纏う槍。
捧げるは誰にも見せない執着。
さながら噴火を予期できぬ火山の如く。
挑発する──誰が君を侮ると?
そして、大戦争の火蓋が切られた。
互いに地面を蹴り上げた──その時だった。
「────やはり争うかこんの愚か者どもめ!!」
全く感知できなかった叱責と共に、二人はハリセンで頭を叩かれた。
・•・•・・•・•・
「弁明があるなら聞いてやろう」
「無い」
「言い訳はしません」
「素直だな、素直は良いことだモヘンジョは嫌いじゃないぞ。イアソンには黙ってやろう」
唐突に現れたモヘンジョは。
二人を仲良く正座させ、ふんぞりかえる。
「ところで、なんでハリセンを持っているのですか?」
「イアソン曰く、
『たぶんリチャードとサラディンはどっかで争うから、そん時はハリセンで叩いてくれ。
え? なんでハリセンかって? 鉄拳は痛いじゃんハリセンにしよーぜ』
との事だ。イアソンはお前らが争う事を予知してたぞ」
「……やはりあいつは侮れんな」
と、リチャードはイアソンを尊敬するも、
唐突に現れたモヘンジョに動揺を隠しきれない。
「おい、何故唐突に現れたのだ? 全く気配を感じなかったが……」
「む、それか。それは単純な事だ」
さらりと。衝撃的な理由を述べた。
「空想建築境界に定評のあるこのモヘンジョ様は、すでにハッキングしたからだ。
この空間ならどこでも瞬間移動できるし、なんなら壊す事をできるぞ」
これには、さしもの二人も驚かざるおえなかった。
──モヘンジョ=ダロ
ガンダーラ郷の宮廷魔術師にして、世界でも稀有な空想建築境界の使い手。
何か対抗策でもあるかと期待していたが、まさかハッキングまでするとは……
「なんだ、ならさっさと壊してこの茶番を終わらせろ」
終わらせる手段があるのなら、途端に茶番と化する現状。
だが、モヘンジョは悲痛そうに首を横に振る。
「……あー、悪いが。空間に閉じ込められた時点で、既に我々は詰んでいる。出たところで、いや出ない方が賢明かもしれん……」
「? 何を言っている?」
「何かあったのですか?」
教えるべきか、モヘンジョは少し躊躇うが。
思い止まる。
手を空に翳して、次元の切れ目を生み出した。
「とりあえず、この世界を見てくれ。話はそれからだ」
次元の裂け目にあったのは────。




