フィクションが視た鮮やかな敗北
「おっっかしぃぃぃいいだろぉぉぉおおメディア!!
俺らはちゃんと! 邪神降臨の要たる中央拠点を破壊したはずだ!! 何度も何度も慎重に確認した! それがどうして起動している!?」
「わ、分かりません! 何か…見逃したの…かと……ご、ごめんなさい!」
「……ああ、いや謝るなよ。メディアのせいじゃない、俺らのせいだ」
メディアの謝罪により急激に冷えていく脳を。
酷使させる。加速していく思考速度。
時は静止したまま、波打つ思考を張り巡らせた。
腕に這う蟲けらの不快さを与える視界の暴力に、なおも悲鳴を上げ逃げ出したい本能を、一喝。
──”邪魔だ失せろ”と。
お前は誰だ? 役目はなんだ?
──”リーダーとして、Aチームを率いるため”にいるんだろう!?
その役目を果たすには。
今度こそ失わないためには。
──恐怖は邪魔だ──ァッ!!
歯よ砕けろと食いしばりイアソンは──果たして、解決策を弾き出す!
「──邪神に支配されない事が先決だ! 俺らは一時撤退し、他チームと合流する!!」
イアソン達は《真祖》ほど理不尽な強さを誇っている訳ではない。
けれども世界の代表として選ばれるほどの──世界トップクラスの実力はあると自負している。
故に、ここで我々が支配されると後々が困るだろうと。
冷静に判断する。
そして、忘れるな────ヤベェ奴が味方にいるだろう?
「──ハルマァァ────ン!!! お前のご先祖様は誰だ!? 邪神も混沌神様もボコボコにしたヤベェ奴だろ!? お前は、今! そいつの力を借りてるんだろ!?」
空の彼方に座す頼もしい味方に。
「──つーーわけで! お前は支配されずに立ち回りながら、俺らが合流する時間を稼げ! なんなら倒してもいいんだぞ!?」
無茶振りをする。
「──でも死ぬなよ──────ッ!!!」
心からの悲鳴に、ハルマンは笑った。
「無論だ! 我が力と《真祖》様の力の相乗は、神をも穿つ!!」
訳分からんけども心強い言葉に、心底安心するイアソンは。
「撤退だ、あいつに任せるぞ」
勇者たちを引き連れ撤退し始める。
今にも這い出ようとする邪神を背に、身体に鞭打ちながら走る勇者たちは……足を緩めることはできなかった。
邪神から逃げるため? ──否!
邪神が恐ろしいから? ──否!
真に恐れ、逃げるべきは、空に座すあいつだ。
元気良く返事した後──世界が夜に還るように黒に染まっていく。
「──煙る鏡よ」
喉から出す、か細い声の詠唱を始めた──それだけで。
朝を迎えようとした世界に、無数の景色を、切り貼り継ぎ接ぎした光景が広がった。
朝に昼と夜が同居する狂った空間。
「──今一度世界を創生しよう」
屋内も。屋外も。空も海も陸も地中も。果てや宇宙さえ──”ここにある”、と。
──『ここ』とは『どこ』で──『いま』とは『いつ』か。
不変の定義をぶち壊し、世界を統べるのは”我”であると。
神をも足蹴にする不遜さが、世界をまた壊す(バグらせる)。
──で、済めばどれだけ可愛いかったか。
「──赤……穀物を司る赤よ。この大地はお気に召したか?」
否──そう大地は応えたのか。
地表が崩れ始める。小さく粉砕された土、根っこをぶち引っこ抜かれた木、哀れにも巻き込まれた動物たちが。
空に堕ちる────重力に逆らい始める。
島が抉られていく。
となると…当然勇者たちも巻き込まれる訳で。
「いやぁぁああああ!!! なにあいつ!! エール送った途端これだよ!! 俺らも殺す気なの!? 実はおこなの!?」
「──な、わけねぇニァ!! とっとと走れ! 邪魔!!」
「ぎゃああああ!! 蹴んなよ、堕ちるだろォォン!? ご乱心ござる!? ここに敵がいるぅぅうう!!」
「うるさい!」
悲鳴を出しながら(主にイアソンが)、這う這うの体で不安定な地面を走る。
「──青…戦を司る青よ。血は足りているか?」
否──そう渇望は応えたのか。
大地は、しみの如く赤にじんわりと染め上げていく。
若々しい緑たる草木、毛深い茶たる獣も、一片の例外なく赤に染まる。
……もちろん、イアソンたちも。
「ああああ!! 赤色ぉぉうん!?」
「赤くなっただけだ! 問題無し!」
「あるわ!」
「どういう原理でしょう、これ」
「──白…風を司る白よ。現状の人は素晴らしいと思うか?」
否──そう風は応えたのか。
木枯らしが吹いた。
そして、地面から白い棒が──いや、骸骨が這い上がる。
地面だけではない──海からも。
数千にも及ぶ、虚しく海に溺死した生き物が。
今──アンデットとして目覚める。
「──黒…己を嫌う黒よ。全てを壊したくないか?」
是──そう王は応えたのか。
アンデット達の身体が、粉砕される。光を纏いながらキラキラ輝く骨粉は。
────ハルマンのもとに集う。
世界に漂う怨念の残滓を──全てエーテルに変換。
宇宙創生と張り合える量のエーテルが!
「──ここに死者が同意した……」
ハルマンの掌で、収縮、圧縮、そして槍状にとろけ──
「──滅べ…そして目覚めよ! 五番目の世界よ!!」
今──────放たれた。
………
…………で、どうなったのだろうね?
いや、なんか……なんだろう。僕の比じゃないことくらいは分かる。とんでもなくやばいのは分かる。
分かるけども……分かるけどもよ。
草一本も無い、ボコボコのクレーターまみれの、島だった所に。
黒い灰が、降ってくる。しんしんと。
辺りには静寂のカーテンが閉まる。
凄いとか、怖いとか、そんな感想より先に出たのは。
『なんできみ生きてるの???』」
ただただ、語彙を失う僕に。
「たぶん、手加減してくださったのか、Aチームの誰かが魔法でも使って守ったのでしょうね」
勇者は苦笑する。
(──それよりも、自信を失うとは感心しませんね。…虚勢でも勝つぞという意気込みが欲しかったです)
チクリ、と僕の胸に鋭利なものが刺さった。
『……そら、あれを見れば誰だって自信を失うよ』
人というのは、嫉妬をする生き物なのだが。
どうしようもなく、圧倒的な存在──手が届かないと確信してしまえば、嫉妬が起きないもよ。
《真祖》はまさしくそれだ。
神に勝った……て。なにそれ?
僕自身混沌神をぶちのめしたいのに、できないんだぞ。
頭を下げてしまう、心のどこかでは敵わないと思っている輩に、勝つってなんだよ。ほんとなんなんだよ。チートすぎんだろ。
『というか、君はあれ見てどう思ったのさ』
すると勇者は、それこそ愚問だろうと。
(──嬉しかった。わたくし以上の天才がいることに)
凡人では理解できない視点で答えた。
そして──自信に満ちた表情で…空に手を翳し、
(──いつか勝ちますよ。絶対)
────勝利宣言をした。
清々しいまでに傲慢すぎて、僕は変な笑いが出た。
ただ、勇者は気に食わなかったのか。
むっと、顔を顰めて。
(──なにおう。それと、フィクションさんが自信を失うには、まだ早いですよ)
『なんで?』
(──慢心とかいうダサすぎる敗因ですが、裏を返せば本気を出していないということ────)
挑発的に唇を吊り上げて。
(──いつか魅せてくださいよ、あなたの切り札。期待しているのですから)
僕に激励を送った。
「ん、あっちにBチーム、そっちにCチームがいる」
開けた視界により見つけることができたピロークテーテ。
「そうか…合流するか」
「はい」
「終わり終わり」
「呆気ないもんだな」
祭り終了もかくや。空虚感を漂わせながら、ぞろぞろと歩いていく。
──────しかし、人生とは……そう事がうまく運ばないようで。
「「「──────ッ!?」」」
途端、吹き荒れる煙が一同を襲った。
気づいた時には遅かった──煙は檻のように取り囲む。
そして霧消したのだが、引き換えにイアソンたちは青ざめた。
「……な、なんでだよ……なんでクリアスモッグが……」
「クリアスモッグ……? なんでしょう、それ?」
一方で何が起きたのかさっぱり理解できない勇者よりも、現状に納得いかないと。
「まさか────ッ!! あれは幻覚!?」
絶叫するイアソンを、嘲笑う影が一つ。
「────ほんッと!! 馬鹿なのね!!」
いつの間にか背後に、死んだはずの赤リボンつけた大黒泥人形が佇んでいた。
「あぁ……なるほど。これは一本取られましたね」
ようやく理解した勇者は、拍手した。
つまりは──こうだ。
何故、破壊したはずの中央拠点から邪神が召喚されたか?
ありえないだろう……そうだ、ありえない。絶対に起こりえない。
すなわち──あの邪神は幻覚だったのだ。
全ては、邪神に気を取られすぎた我々を、不意打ちするために。
「けど、誤りましたね。クリアスモッグ? というのは存じませんが、シンプルに攻撃すれば良かったでしょうに」
──うまくいけば倒せましたよ? と。
告げる勇者を、逆に笑う大黒泥人形。
「ははっ……上昇した能力や付与された能力を帳消しできるクリアスモッグが正解なのねー。お前こそねー、アホなのね……
対峙したことねー、ないからねー、分かんないだろうけどねー……」
その目は……なんか死んでいた。
「──攻撃したら自動で反射する装備とねー…一度死んでも生き返る道具とかねー……持っている奴らとね…対峙してみろね」
「よ、よく生きていますね……尊敬します」
何も言い返せずに苦笑いする勇者だった。
「ま! それは置いといて。ノコノコと出てきてくださりました貴方様に、レクイエムを送りましょう。行きますよ皆さん!!」
勢いよく振り返る勇者。
だが………誰もいなかった。
「────え?」
いない。いないのだ。確かにいたはずのAチームは、痕跡を感じられないほどにいなくなっていた。
すわ、幻覚か? と思ったけれども、今幻覚見せる理由が思い至らない。
あまりに不自然すぎる光景に、呆然と硬直する勇者を。
上から目線で慰めるしたったらずな声。
「安心しろねぇ? お前も仲間の所にねー、送ってやるね!!」
「………そうですか」
訳が分からない。展開が見えない。
けれども──逆に好都合だと割り切った。
「──あなたを肥やしにしてあげますよ!!」
ここには邪魔をする方々はいない。
目の前にはお目当ての邪神の下僕。
これすなわち──! チャンスだよねぇ!?
「──ザラシュトラの灯火よ」
焼却させてやらんと詠唱をし始める勇者。
だが目の前の人形は、したったらずな声で魂ごと全てを嘲笑する。
「無駄なのねー。もう、お前は負けなのねー」
どういうことかと訝しむ勇者。
そして──唯一の負け筋に気づいてしまった。
先程、大黒泥人形は言った。
「上昇した能力や付与された能力を帳消しできるクリアスモッグ正解なのねー」と。
さて、今一度思い出してほしい。
ハルマンは、あくまで《真祖》を降ろしただけで、実際には本人の力ではない。
また《真祖》を降ろすには副作用が伴うと。副作用を踏み倒すにはドーピング剤を飲む必要があると。
では──《真祖》を降ろした状態で、ドーピング剤の効果、能力の上昇を打ち消されば?
おお、どうか外れてくださいと。らしくなく天に祈るのだが。
嗚呼……的中してしまう。
──加速しながら堕ちていくハルマンを見つけてしまった。
このままいけば落下死してしまう。助けるには受け止めなければならない。
けれども受け止めるには大黒泥人形から遠く離れなければならず、魔法の射程外になる。大黒泥人形を倒せない。
──隙だらけの状態を、果たして見逃してくれるのだろうか?
──謎の不可知な攻撃を、一人背負いながら捌けるのだろうか?
だからといって、勇者に見捨てるという選択肢は無かった。
地面を蹴り上げ走り、堕ちるハルマンを受け止めた。
「──アシャ・ワヒシュタ!!」
────だからって、無抵抗でやられやしませんよ?
せめてもの抵抗として当たらない魔法を放つ。
そこで、勇者の意識は途切れた。
・•・•・・•・•・
タイムリミット ???
目を覚ますとそこは……
「どこでしょう……ここ」
──まず、ルービックキューブを想像しよう。
そしてベンチでバラバラに分解しよう。床に転がるは無数の、元・ルービックキューブ。
それを更に千回ほど繰り返してみよう。
どうだろう。想像できただろうか。
かくして出来上がった光景が──勇者の眼前に広がる光景だった。
「違法建築もいいところですよね……」
適当乱雑に積み上げた正方形の白い地面に足を踏み締めて、見下ろした。
底というものが見当たらない。奈落が顔を覗かせていた。
落ちたらひとたまりもないなと身震いしながら、気絶しているハルマンを抱えて前へ進んでいく。
何百メートルか進むと、看板の前で頭を抱えるイアソンとアスクレピオス、ピロークテーテとメディアを見つけた。
「名無しです。今どういう状況なのですか?」
「あ……ああ、そうだな端的に言えば……裏切り者がいて、俺たちは嵌められた」
「……どうしてその結論に?」
「今の状況を作り上げたのは、チクった裏切り者と幻覚魔法を使った泥人形のせいだ」
一言おいて。
「まず断っておくが、俺らが幻覚魔法を警戒しなかったわけじゃない、ちゃんと対策した。
だが対策をぶち抜いたという事は、相手もドーピングしたって事だろ。俺らが用意し、裏切り者がくすねたドーピング剤を使ってな」
「あら、彼女らが自力でどうにかした線は?」
「無いね。だったら何故初日に切らなかった。そのせいで主人たる邪神の降臨が妨げられたんだぞ」
「……ふむ、確かに」
勇者は頷いた。
「そしてクリアスモッグというのは、副作用無しドーピングに焦った邪神が対抗策に編み出した魔法だ」
まるでイタチごっこのような関係性。
「効果は、上昇されたステータスや、付与されている能力を打ち消すのだが、デメリットがあってな。どうやって上昇されたのかが分からないと発動しないんだ」
一括りにドーピングといっても多様だ。
例えば、ステータスに干渉して無理矢理変動させるものや。筋肉を肥大化させて上昇させるもの。
原理が違えば、対処法も変わるわけで。
「だから、俺たちはどうやってを隠したんだ。
効果だけ知って、どうやって上昇するのか分からないまま突撃した」
究極の隠蔽法。もし心を読まれても問題ないように。
「けど……何故かできた。おかしいだろ? たった一日で判明するもんかね?」
いいや──できない。早すぎる。
「──けどな? ここに二人、教えずとも知識で分かる奴らがいてな?」
「そ、それはいったい……」
緊張感が走る空気の中。
イアソンは指さした。
「アスクレピオスとハルマンだ。アスクレピオスは医者だから薬剤方面の知識がある。ハルマンは真祖復活のため危ない薬やら実験やら手を出している」
──となると、裏切り者とはその二人になるのだが。
アスクレピオスは憤慨しながら叫ぶ。
「僕はしてない! 混沌神様に誓ってやるぞ! だいたい裏切ったとしても、そのせいでネームレスの怪我を治す機会が失われたんだぞ!!
医者たる僕がするわけない!!」
「一方、ハルマンは効果が打ち消され、副作用だけが残った。一ヶ月の昏睡と魂削ったとな?」
イアソンは空を仰いだ。
「じゃぁあああ誰が裏切ったんだよぉぉぉおおお!?
幼馴染が裏切り者でしたー。弟弟子が裏切り者でしたー。信じたくねぇぇぇよォォン!?」
──魂の限り叫ぶ。
勇者も頭を抱える。なにせどちらも裏切りの動機がありえないのだから、納得してできないのだ。
「──そんでぇ! あっ、みっぎてをご覧くださぁい?」
その先には看板が。
小学生が書いたような下手くそな字で、こう書かれていた。
ーーーーーーーーーー
お前たちは閉じ込められた、ね!
出たきゃゴールに辿り着け、ねー
全部で三十マス、死ぬ気で走れよ、ねー
マスの最後らへんに命令があるから、ねー
それ従いクリアしないと、ねー
先に進めないから、ねー
せいぜいがんばって死ね!
by可愛すぎる泥人形ちゃん
ーーーーーーーーーー
「……どう思うよ」
「……すっごい、煽られています」
「だよなぁ……」
はてさてどうしたものかと、考える勇者。
指示通りに従っていいものか。
いや、そもそも何故閉じ込めたのか。
やはり分からない。何がどうなっているのか。
「それで、どうしますか? リーダー?」
「……お前さぁ、俺分かるぜ? お前誰かに指示を乞うタイプじゃないって」
責任を押し付けた勇者を、イアソンはジト目で見つめる。
だが、笑い飛ばして。
「まっ、だが安心しろよ……俺らは誰だ?」
その透き通る声は、聞く者の心を鼓舞する。
「────四大元素全てを全て操るコルキスの魔女──メディア!!」
「はい!」
「────飛ばぬ邪神の下僕を撃つなぞ鳥よりも簡単──ピロークテーテ!!」
「ま、ヨユーしょ」
「────人を生き返らせそうと、勇敢(無謀)にも突き進む至高の医者──アスクレピオス!!」
「無謀じゃない。確実だ」
「────昏睡中の神をも逃げるシューベルト国王子と、なんかいるよく分かんない奴──ネームレス!!」
「一般通過天才可愛いアンデットに訂正を」
「この六人がいれば!! どんな試練でも余裕だろぉぉん!?」
強く、啖呵切った。
──かくして。
他のメンバー、特に空間について詳しいモヘンジョを探しながら、台風のごとく果敢に突き進んでいく一同。
一マス進み、ニマス目を踏んだ時点で天を見上げ、何故かある古屋と牛を見やって。
────『あ。これ、無理だ』……と。
頷き合い、全てを爽やかに忘れ、古屋に引きこもり──現実逃避を決め込んだ。
……こうして謎空間に閉じ込められた一同の物語はこれにて完結。
──黄金の毛皮を求めた大旅路?
──人類への復讐?
無いです。
彼らの次回作をお楽しみください。
【完】
安心してください。終わりません。
ただ、リアルで用事が転がり込んできたので。
次の投稿は四月二日にさせてください。




