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フィクションが視た絶望的状況

 勇者の容態は良くならないのではないか、と。

 重苦しくなっていく空気。

 しかし、それを蹴破る存在が一人……

 バァン! と品のないドアの開閉音とともにやってきたのは、


「よ! 進んでいるか? …進んでねぇなこれ。おいおい、元気出せよアスクレピオスぅ」

 ───イアソンだ。バシバシ! と焦るアスクレピオスの肩を叩く。

 叩かれたアスクレピオスは集中の標的を文字からイアソンに変えるものの、不快そうに。そう、心底不快そうに舌打ちをした。


「なんだ貴様。今考えている途中なんだ、少しくらい物事を考えろ馬鹿め」

「そうか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今のお前」


 さらに眉を顰めたが、反論できず最終的に視線を逸らした。

 イアソンはそんな幼馴染を、微笑ましく笑った。


「そうかそうか。こと医術なら師匠を超えたお前のことだ、絶対に治せるさ。()()()()()()()()()()()()

「あら、もうそんな時間でしたか」

「そうだぞ、自己紹介から二時間近く経っているからな。メディアが丁寧に作ったムサカやピキニアがあるぞ」

「おお! ギリシャ人が作ったギリシャ料理ですか、楽しみです」

「ん?」

「あ、独り言です。お気になさらず」


 朗らかに談笑しながら扉に向かう二人に、アスクレピオスは首を振った。

「………メディアには悪いが、僕は行かない」

「ほぉーん?」

 怪訝そうにするイアソンにびっくりしたが、すぐに我に返る。


「……僕はまだ仮説さえ建てられていない。食べる時間が惜しい」

 必ず治してみせる、と心に決めたからこそ言うことができた言の葉。そこには医者としての行持が多大に含まれていた。

 しかし、イアソンは微笑ましい半分、困った半分のため息を吐く。


「…………全く、お前という奴は一度決めた事を絶対に曲げんもんなぁ……よし! こう考えよう。

 食堂には、魔法使い最高のメディアとモヘンジョ、ネクロマンサーたるハルマンがいる。あいつらに聞いてみたらどうだ? 新たな視点から見えてくるものがあるかもしれんぞ?」


 なんと建設的な意見な事か。凝り固まったアスクレピオスの思考が解けていく。

 けど、勇者は疑問を挟んだ。


「自己紹介の時にはいなかったハルマンさんがいるのですか?」

 ───そうだ。あの時ハルマンはいなかったうえに、彼はAチームではない。

「──────ああ! それか、それについてだが…」

 一言置いて。




「タラプ島奪還作戦において大事な話をするからだ」




 有無を言わさぬ気迫が、この場を支配した。



・•・•・・•・•・

 ───食堂。白のテーブルクラスを敷いた大きな丸い机の上に、豪勢な食事が置かれている。ぐるりと囲む椅子達に座っているAチームとハルマンは、もう既に食べ始めていた。


「遅いぞぉ! ───かァ! 美味いなこのパイ! あとは酒があればなぁ……」

「もう! 今戦争中ですよ! 酒なんて飲んではいけません!! あ、こっちの席空いてますよ」

 酒への未練を綴るモヘンジョと、それを叱るメディア。


「ん───ー! このサラダ美味しかったですね。もう一個食べたいなぁ…」

「なら、お兄ちゃんのをあげるよ」

「え、いいんですか?」

「もちろんだよ。こうして美味しく食べてもらう方が、野菜も嬉しいだろうからね」

 サラディンから野菜を受け取ったブリュンヒルデ。


「ニァーニァー、お前は話さないのかニァ?」

「……別に。一人がいい」

「そ、じゃあニァが話しかけるぞ。ぶっちゃけ()()()()()()()()()()()?」

「なっ!? あいつのことなぞどうでもいいだろうが!!」

「あ、それわたくしも気になる〜。お隣失礼」

「はっ!?」

 ピロークテーテに揶揄われるリチャードと、それに交わろうとする勇者。


 ふと、肩を叩かれる。

「ん? 何でしょう?」

「──くっくっく。()()()()()()……」

 持ち主は、ハルマン・レーゼ・シューベルト。

 ニィ──と。三日月ような笑みを浮かべる口元。

 怪しい。ただただ怪しい。邪悪な魔法使いにしか見えない。服装も悪趣味の塊だし、それにしか見えない。

「初邂逅の刻はあの様な状態故、名乗り上げる事ができなかった……しかぁ─し──ッ!!」

 ──ドォン! と、勢いよくテーブルを叩きつけて。

 おいおい、なんか椅子から立ち上がったぞ。動きも何だか騒々しい。


「────この刹那!! 我が名を語ろうではないか!!

 我が名はハルマン・レーゼ・シューベルト!! 至高なるアンデットの主にして──叡智の深淵に挑みし真祖様の復活を目論む者!!!」

 ……と。無駄に仰々しく。無駄に声を張り上げ。

 不思議と気品が漂う謎の邪悪なポーズで、そう自己紹介するハルマンに。


「くっ!? まさか貴方もエスパーの使い手──!?

『どうしてたじろいてんのさ』

 何故か震える勇者は、

「ならばこちらもお返しです。ご覧あれ超・能・力!! 略して超凄い能力──ッ!!」

 同じく椅子から立ち上がり。


「我が名は名無し(ネームレス)! 天才無敵のスーパー凄いアンデット! ……フッ。これこそが、我が真髄なり……」

 変人としての側面を存分に魅せつけた。


 ──そして、すわ食事中いきなりどうしたんだと、凍りつく空気……。

『さ、寒い……なんだこれ』

 だが元凶の一人であるハルマンは、ぶるりと体を震わせて。


「────くっ……くぅあーはっはっはっはっ!!

 よもや我が波長に適合できる存在がいたとは……くっ、愉快愉快」

「オートマトン……この素晴らしい出会いに祝福を……」

 双方、握手するのだった……。


『……なんだろう、変人と変人が意気投合している…』

 僕の呆きれに呼応するように。

「良かったですねハルマンさん。あなたと会話できる存在が現れて…」

「苦節三十年……ようやくか」

「ふん、さっさとあんな話し方を辞めればいいものを…」

 母親かと思う歓喜の涙を流す一同を見た僕は、思ったのだ。


『あの人、友達いなかったんだな………』

 嗚呼──王子として富も名声も地位も得てもなお、ネクロマンサーとしての才能を兼ね揃える天才は。

 変人なのでぼっちだった────

 ……なんか可哀想。


「これはもう──”盟友”…そう呼んでも構わないのでは?」

「無論だ。我が盟友よ…ソウルに繋がれし我らに不足なし……存分に我を頼るがよい」

「ではあの、空気の流れが自分から外れたので語らなくでもいいでしょ〜と、逃げるリチャードという方を一緒に詰問してください」

「おい! 俺を巻き込むな!!」



 ───賑やかだった。

 彼らは各々好きなように食べ、楽しそうに談笑していた。

 とても、戦争中とは思えないほどに…


 イアソンが語り始め、

「よし! 食べながらでいい、聞いてくれ」

 自身も牛肉を頬張る。




「──────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 食べながらでもいい、と。イアソンはそう言ったが、ハタリと止める他の人達。

 深刻な空気が流れる最中、イアソンは続く。


「Bチームとcチーム、そしてアルジュナ、ガッバース、ハルマンの報告より、残す拠点はあと三つ。南と東と西だ」

「んきゅす!? 待ってくださいよぉ!!」


 情けない悲鳴をあげた勇者は、机を叩く。

 焦っているのだ。……無理もない。

 ──────それはやばすぎるでしょうが!!!


()()()()()()()()()()()()んですか!? あ、いえ、皆様が弱いとは思ってはいませんが、どうみても今回の戦は人類が不利のはず……なのに、どうして?」

 そうだ。僕らは困窮している人類に手を貸す事で、泥人形を狩るという、

 ハイエナのようなやり口で挑むつもりだった……だが。

 人類が勝っている? これでは()()()()()()()()()()


「ふっ、甘いなアンデット。何も()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ」

「………()()()()()()()()? ….…はっ!?」

 ───勇者の脳裏に電流が流れる。


「この作戦は世界が協力して行なっている。必然、世界から潤沢な金、最高の武器、至高な技術が集う訳だが…これが何を意味するか分かるか?」

 そこで勇者はようやく最低最大な読み間違いをしてしまった事に気づく。

 ──────そういうことか、と。

 ──────()()()()()()()()、選抜メンバーがどれだけ凄いのかではなく。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。


 唇を噛んだ勇者に、イアソンは大仰に頷いて。

 嗚呼───何故絶対的な不利を覆せたか?

 かくなる問いへの、真理(答え)を示した───すなわち───ッ!!






「”ドーピング”だ──────ッ!!!!」



 ぴしゃぁ──────あッッ!! と….

 事情を把握している面子は、イアソンの背にクッキリと落雷を幻視した。


「ふっ、いいかよく聞け。約6400Km2の広さを持つ島にいる、繁殖の暴力でぶん殴る二十万の大群を少数で殲滅しろ? ()()だね!! そんなん《勇者》とか《真祖》とか《法王》とかのバケモン連れてこいッて話!!

 ドーピングッ!  最高!!」


「おいおい待ちなさいな! 副作用はBlake out!?」

 ───強大な力には代償がいる。

 この常識(お約束)はどこに行ったんだと。

 勇者はツッコむのだが、イアソンは肩をすくめる。


「やれやれ……お前は分かってないなぁ〜〜。いいか? 邪神VS混沌神様というのは世界が生まれた時から続いてるんだぜ? あんな繁殖バケモンなんて昔っからいた訳で? そりゃ()()()()()()()()()()()よなぁ? 

 副作用無しのドーピングというのは、その一環っつーわけ。結構希少だが、世界が全身全霊俺らを支援してくれたおかげで手に入れた」


 さらに続く。

「で、俺らは支援のドーピングで蹂躙してたんだよ。まず、各国から徴収したエーテルを利用したガッバースが中央拠点を破壊。これで邪神降臨を阻止。

 次に、炎魔法強化のドーピング剤を服用したアルジュナが北を焼土。ちなみにあそこ流れ弾で焼土した所。

 真祖化を無償で行えるハルマンが、真祖化。そっから監視網を作る。

 最後、俺らはハルマンからの情報をもとに殲滅していってたの」


(───まずいですよこれぇ!!)

 表向きは称賛───しかし、心の底では発狂する勇者。

(───最悪も最悪。具材の無いスープの如し…

 このままでは治療できずじまいの挙句、悪戯に正体が判明するリスクだけを高めただけじゃあないですか!?)

『本格的にどうすんのさこれぇ!?』


 お医者様が首を捻り、人類の方が強い───

 つまりは───治す方法が判然とせず、邪神の下僕を横取りする前に狩られそうな現状。

 ただでさえ絶望的───しかし! さらなる追い討ちが僕らを襲う。


「今後の予定だが、Aチームはハルマンが。Bチームはアルジュナが。Cチームはガッバースが合流する。

 Aチームの理想は南の拠点を攻め落とし、大黒泥人形を討伐すること……あと、名無し」


「な、なんでしょう?」

 いきなり名指しされ驚く勇者。


「俺たちと行動する事になった。くれぐれも単独行動しないように。くれぐれも! しないように!!」

「も、もちろんですよぉ」


「あと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ミ゛」

『おっと?』

 後方支援……? それでは邪神の下僕を狩る可能性が劇的に下がるだろう!!


「な、何故ですか!?」

「───理由は二つ。

 一つ、()()()()()()()()()()()。少なくともタラプ島のアンデットではないだろうが。

 二つ、()()()()()()だ。悪化したらどうする」

 人道溢れた正論。───しかし、僕らはこれを通してはならない。


「お待ちくださいイアソンさん。わたくしはアンデットですよ、エーテルを流すだけで動く事ができます。

 この能力を用いて肉壁になり貴方達を守り抜きたいのです!

 ねぇ、ハルマンさん。ネクロマンサーたる貴方ならアンデットの凄さが分かるはず」


 凄さをアピールし、採用してもらうためにハルマン(ネクロマンサー)の太鼓判を貰おうとする。


「……ふん、アンデットはこの程度では止まらん。しかし───だ。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()?」


「───ぐぅ───ッ!!」

 嗚呼───なんということだ。

 こんなにも善意を押し出されば、断るに断れない!!

 勇者は黙り込んでしまった───ー。





「───ま、こんなもんかね。そうそう、アスクレピオスから質問があるらしい」

「ああ。お前ら、第五番目の元素、もしくは異世界について何か知っているか?」


 勇者の治療に直結する質問を投げかける。

 ───この反応次第で、治るか治らないかは大きく変わる……のだが。

「知らない」

「ごめんなさい」

「わからん」

「さっぱり」

「そもそも異世界なんてあんのか?」

「知らんな!」

「わかんにゃい」


 反応は───芳しくなかった……


 刻々…と。迫りくる最期に。

 勇者はぼんやりと、眺めていた。


『……本当にどうするの?』

(───そんなの決まっていますよ)

 刻々と……迫りくる最期。しかし───笑った。

 むしろ、“待ってました”と言わんばかりに。

 あるいは、スリルに身を委ねたいのか。

 ───勇者は、綴った。


(───命令通りに後方支援をしながらも、隙があれば刈り取りましょう。それができないならアスクレピオスさんを頼る。それでもなお不可能なら、一か八か塗ります。

 大丈夫ですよ。わたくし、天才ですから)


 この後───メディア、ハルマン、モヘンジョが解明を手伝ったが、成果を上げることは無かった。





・•・•・・•・•・

 ───同時刻 タラプ島の森にて。完全に太陽が沈み、暗闇が世界を覆っている。

 そんな最中───泥人形達は集合していた。


「……休憩中ーね?」

「たぶんー」

「太陽が昇る頃にはまた来る───よ」


 話し合いの中心になっている3人の容姿も声もそっくり。

 違いは髪飾りのリボンの色のみで、赤、青、緑の三色。

 Aチームと交戦していた赤リボンの泥人形が、拙いながらも話し出す。


「聞いてほしいねー、アンデットが自然発生していたねー」

 目を丸くして驚く二人。

「対策はしていたはず───ね?」

「したよ───ね!」

「うん」


 対策はこう……

 アンデットが生まれるには怨霊が必要。

 裏を返せば、アンデットは怨霊が無ければ生まれない。

 三人はタラプ島の住民を虐殺した後、発生した怨霊をエーテルに変換。

 そのエーテルを伝手に泥結界を張る。

 こうする事でアンデットを生ませず、アンデットを利用するネクロマンサーを封じる算段だったのだが。


「まさかねー、違う大陸から怨霊を引っ張るとはねー、思わなかったねー」

「たぶんねー、そのアンデットは嘘つきね! 絶対生まれないはずなのにねー」

「確かねー、侵入者がいたはずねー、たぶんそいつ」


 あっさりと、タラプ島産アンデット説を否定する。しかし、異世界人である事までは読みきれない。


「それでねー、どうする? このままではねー、負けちゃうよ」

 そう、泥人形は現在大ピンチ。

「んー、こればっかしはねー、ノルか! ソルが!! 賭けなのねー」

「そうだねー、()()()()()()()()()はねー、()()()()()がねー、なんとかしてくれることを祈るだけねー」


 泥人形達は、遠く離れている姉を夢想し。

 ただただ秘策がうまく発揮できるか祈るだけだった……

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