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黒猫虎 児童館

ラオンとりせくん。

作者: 黒猫虎

この作品は「冬の童話祭2023」の参加作品です。

 

 ぬいぐるみの王さまが治める国「ニャジーラ王国」にひとりの男の子が春に生を受けた。

 春に生まれたので、名まえは「ハル」と決まった。

 まだ姿形は決まっていない、真っ白なぬいぐるみ。


 生まれたばかりのハルは元気いっぱいに王国中をかけ回っている。


「元気いっぱいでいいねぇ」

「あたしにもあんな頃があったねぇ」

「だけど、あれで『おつとめ』がつとまるのかねぇ」


 近所に住む先輩ぬいぐるみたちが、ほほえましく、心配げに見まもっていた。



 ◇



 月日が流れ、ハルも青年のぬいぐるみになった。

 でも、まだ姿かたちは決まっていない。

 まだ真っ白だ。


 ハルに王城から「お城に来るように」と命令がきた。

 とうとう人間の世界へと旅立つ日がやってきた。

 大人になったぬいぐるみは、人間の世界に働きにいくのだ。



 初めての王城。

 その大きさにおじけづくハルではない。

 ずんずんと中に入っていく。



 ◇



「ハル、立派になりましたね」


 ぬいぐるみの王さまは女王だった。

 国と同じ名まえの「ニャジーラ女王」だ。


「人間の世界に旅立つ準備は出来ていますか」

「もちろんです、ニャジーラ女王さま!」


 ハルは自信満々で女王に返事をする。


「良い返事です。では頑張っていってくるのですよ」

「はい」


 ハルが旅立ちの(ゲート)の前に立つと、門番のおじさんがこう声をかけてきた。


「人間の前ではくれぐれも動いたりおしゃべりしているところを見られるんじゃないぞ」

「分かっているさ、それくらい。ぬいぐるみ最大の禁止事項(きんしじこう)だってさ」


 (ゲート)の中にハルが進んでいくと、(ゲート)が淡く白い光を放ち始めた。

 そして、ハルは人間の世界に旅立った。



 ◇



 ぬいぐるみには、人間の世界で役目を与えられる。

 ぬいぐるみを必要とする人物に(いや)しを与えるという仕事だ。


 人間の世界にやってくるときに、ぬいぐるみは、ぬいぐるみの神様から姿を与えられる。

 ハルの真っ白な姿は黄色のたてがみが立派なライオンになっていた。


 あたりを見渡すと、どうやら無事に人間の世界についたようだ。

 ハルは「ゲームセンター」にある「UFOキャッチャー」の中にいた。

 周りには、ハルとまったく同じ色と形をした、ライオンのぬいぐるみがたくさんだ。


「よう」

「うわっ」


 となりのライオンのジョンがあいさつしてきた。

 自己紹介のあとに、情報交換という名のおしゃべりすることにした。


「どんな人間に(ひろ)われるんだろう。ジョン、君はどんな人間に拾われたい?」

「だんぜん、美人の大人の女の人間がいいな。ハル、おまえは?」

「ぼくは、人間の子どもの、できれば女の子がいいな」


 ハルがこれまで集めた情報によると、人間の女の子に拾われたら、とても可愛がってもらえる可能性が高いらしい。

 逆に、人間の男の子に拾われた場合には、とても乱暴にあつかわれて、悲惨な目に合う可能性が高いそうだ。


 そして、最悪なのは、そもそも人間ではなく動物に与えられる場合があるらしいのだ。

 その場合、ぬいぐるみ人生はジ・エンド。

 つまり「終わり」である。



 ◇



 若い大人の男の人間がやってきて、ジョンが拾われていった。


「大人の女の人間じゃなくて、残念だねジョン」

「なに、きっと彼女か奥さんにプレゼントするに違いないよ。心配しなくても大丈夫さ」

「そうか。じゃあねジョン。元気でね」

「おまえもな、ハル」


 しばらくすると、別の大人の男の人間がやってきた。

 女の子の娘がいてもおかしくないくらいの年齢(ねんれい)だ。


「女の子の娘がいますように」


 ハルはUFOキャッチャーから出されて、赤いリボンの箱に入れられた。

 ハルをつかむ人間の手は大きくて、少しこわかった。


 でも大丈夫。

 とてもやさしそうな目をしている人間だ。


 箱のフタが閉じられて真っ暗になる。

 ハルは少しだけ眠ることにした。



 ◇



 ハルが気持ちよく寝ていると、箱が大きくゆすられた。

 右へ、左へ、上に、下に、大きく振り回された。


「うわっ、うわーっ、たすけてー!」


 でも、あっ! ハルは「禁止事項」を思い出して、急いで口を(ばってん)にした。

 門番のおじさんの忠告も思い出す。


『人間の前ではくれぐれも動いたりおしゃべりしているところを見られるんじゃないぞ』


 ゆっくりとフタが開けられると、そこには人間の男の子がハルを大きな目で見つめていた。


  ゴクリ


 ハルのノドの音が鳴る。

 最悪の事態(じたい)だ。


 よりに。

 よりによって、人間の男の子だなんて。

 恐怖に震えるハル。


 だけど、人間の男の子はハルを、こわれものを扱うように、やさしく、やさしく持ち上げたのだ。

 そして、やさしく、やさしく抱きしめたのだ。


「ふわっ」


 人間の男の子の腕の中はとても柔らかく、あたたかく、ハルの声が少しもれてしまった。

 あわてて人間の男の子を見るが、ハルの声には気づいていないみたい。


「あぶなかった……、あわわ」


 また小さな声を出してしまい慌てるハル。

 小さな人間の男の子は、うっとりとハルを抱きしめている。


「ラオン……きみの名まえはラオンだよ」


 この瞬間から、ハルはラオンとして生きることになったのです。


 人間の男の子の名まえは「りせくん」。


 ラオンはりせくんにとても大事にされて、一生涯(いっしょうがい)の友だちになりました。




 このあとすぐ、ラオンに大ピンチが(おとず)れるのですが、それは別のお話。





 おしまい






この物語を新しく我が家にやってくる小さな命に捧ぐ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 「冬童話2023」から拝読させていただきました。 優しいりせ君に当たって良かったです。 最後は。後でおめでたいお話を聞けますでしょうか。
[良い点] ニャジーラ王国からぬいぐるみたちがお仕事にやってくるという設定がいいですね。 しゃべってはいけないというところで「口を×に」というのが面白いです。 りせくんが大事にしてくれて、よかったで…
[良い点] 乱暴な男の子の場合は機嫌の悪い時にぬいぐるみに当たることもありがちですが、りせくんは大丈夫そうですね。 [気になる点] この引きで終わっていると、続きが気になりますね。(^-^;)
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