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「え、ここどこ?」

「んー、わからんけどなんかチルくね?」

「わかるちょっと暗い感じとか良き」


パアァ、と神々しい光で王城内が満たされた後、ぐるんぐるんの黄金の髪をしたまつ毛の長い女子と、漆黒の髪をゆるく巻いたこれまたまつ毛の長い女子が現れた。二人は魔王の襲撃によりボロボロになった王城内を見渡しながら四角い板のようなものを持ちパシャパシャと音を出している。「チル〜」という謎の鳴き声付きだ。

少々困惑していた王とその臣下たちだったが、一番最初に我に帰ったのは大臣だった。


「勇者様方、どうかこの国を救ってください」


恥も外聞も捨てて頭を床に擦り付ける。召喚してしまった以上後戻りはできない。ちる、という不思議な言葉や華奢な体つきを見て本当にこんなことを頼んで良いのだろうかと不安に感じたが、召喚されたと言うことは彼女たちが勇者なのだ。勇者の力がなければ魔王は倒せない。


「どうか、どうか魔王を倒してください」


そう頼み込む大臣を見て、王やその他の臣下たちも我に返ったのか一斉に頭を下げ始めた。

当の少女たちは顔を見合わせ不思議そうに話し始める。


「勇者? どゆこと? うちら?」

「えー、勇者とかごつくね? うちプリキュアがいい」


困惑しながらも要望を伝える二人に、大臣はプリキュア……? と不思議に思いながらも言語はほぼ問題なく伝わるようだとホッとして言い直した。


「プ、プリキュアのお二人にどうかこの国を救ってほしく……」

「おけ」

「いきなり呼び出しておいてこのような要求、受け入れ難いとは思いますが……え、良いのですか?」


まさかすんなりと了承が得られると思っていなかった大臣は軽すぎる返事に目をぱちくりとさせた。いきなり知らない場所に連れてこられて魔王を倒してくれ、だなんてそんな無茶な要求が通るわけがないとたかを括っていたため、幻聴を疑いつい「本当に……?」と呟いてしまう。

そんな大臣の言葉に黒い髪の少女は「おけおけ」と軽い口調で続けた。


「まおーって人をシバけば良いんでしょ? さっきマックで爆食いかましたからちょうど運動したかったんだよね」


その言葉に金髪の少女もうんうんと頷く。


「いやそれな? 2キロは太ったわ、筋肉つけてこ」


まっく、とやらがなんなのかは全く見当もつかないが、とにかくこの少女たちは魔王を倒しこの国を救ってくれるようだ。

大臣は歓喜に震えながらもこれだけは伝えなければいけないと言葉を続けた。


「ほ、報酬についてなのですが、現在復興費に国庫の大半が使われておりまして、現時点ではこれくらいとお伝えすることが出来ない状況にあります……」


無償で助けてくれ、なんてそんな恥も礼儀も知らぬことは言えないが、しかしこの国は魔王軍の襲撃によりどの街も疲弊していた。そんな状況では税を取ることも出来ない。そして人命救助やぐちゃぐちゃにされてしまった畑の復興などに国中のほとんどのお金を当てているためこの国は非常に困窮しているのだ。

それ相応の報酬は出すつもりではいるが、今この状況でどれくらい渡すとなどということは確約できそうにない。


申し訳なさそうに頭を下げる大臣を見て、黒髪の少女は「んー」と頬に指を当てて少し考えてから口を開いた。


「じゃあキンパ奢りで」


キン、パ……? と首をかしげる大臣を尻目に金髪の少女は「ミカめっちゃ食べるじゃん」と手を叩きながら笑った後、ツヤツヤと輝く髪をくるくると指で回しながら「でもぉ」と言葉を続ける。


「キンパだけってのは労力に見合ってないっていうかぁ? もうちょっとあってもよくね?」


金髪の少女の言葉に大臣はそれはそうだと頷く。キンパとやらが何かはわからないがおそらく食べ物なのだろう。金銀財宝を想定していたため、いくら高級な珍味であったとしても食べ物だけと言うのはいささか少なく感じられる。

一体どんな要求をされるのだろうか。城中の者がごくりと息を呑んだ。


「だから、チーズキンパ奢りね!」


金髪の少女の言葉を聞き、黒髪の少女は「チーズいっちゃうかぁ」と苦笑いをする。


「チーズも運動すれば許されるって」

「ユミそれがちで言ってる?」


そう盛り上がる少女たちだったが、大臣の一言により更に盛り上がることとなる。


「チーズは我が国の特産品ですので味にも品質にも自信がございます」


大臣は少し誇らしげにそう告げた。魔王の襲撃で畑は荒らされたが、家畜たちは皆無事だったのだ。そしてチーズはこの国の特産品。平和だった頃はこれを求めて世界中から人が集まっていたものだ。

だが誇らしい気持ちと同時に少し不安な気持ちもあった。チーズ追加だけで本当に良いのだろうか。労力に見合っているのだろうか。これは大臣だけではなく城中の誰もがそう感じていた。


しかし、チーズが特産品であるという言葉は現在の状況下で少女たちを興奮させるのに一番適した言葉であった。


「ちな伸びる?」

「国内記録では最大8m出ています」

「がち!?」

「やばテンション上がってきた」


少女たちは目をキラキラとさせながら「じゃ、行ってくるわ」とやる気をそのままにすぐ出発しようとした。

しかし流石に勇者とはいえ、うら若き女の子二人だけを危険な目に合わせてはいけないと大臣はそれを引き止める。


「お待ちください勇者さ……プリキュア様方! 我が国の屈強な兵士たちも連れて行ってください! きっと役に立つはずです」


そう告げた後、大臣は後ろを振り向き手招きをした。すると後ろから鎧を装着した二人の男が現れる。


「騎士団長のカクティフォルメと魔術師のスケルツォです。どちらも国内一と名高い実力の持ち主です」


紹介された二人は一歩前に出ると深々とお辞儀をした。少女たちは「へー」と視線を彼らの頭のてっぺんから爪先までゆっくり2往復させてから真剣な顔で尋ねる。


「ちなチーズどれくらい伸ばしたことある?」


二人は少し困惑しながらも少女たちに問われるまま、カクティフォルメは「5mです」と、スケルツォは「6mです」と答えた。


その言葉に少女たちは顔を見合わせて満足そうに微笑む。そして声を合わせて高らかに「採用」と宣言したのだった。

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