恩返し欲張りセット
むかし、むかし、あるところに正直者のおじいさんがいました。他人が困っていると手を貸して、簡単にだまされるためいつも貧乏でした。
それでも文句をいうことなく毎日一生懸命に働いていました。
あるとき、町からの帰り道でのことでした。冷たい風が吹く中、おじいさんは道端にポツンと立つお地蔵様をみつけました。頭に真っ白な雪をかぶってとても寒そうです。
「お寒いでしょう。この笠をかぶってください」
雪を払いきれいにすると、おじいさんは自分の笠をお地蔵様の頭にかけてあげました。
家に帰る頃にはおじいさんの頭はすっかり雪にまみれです。出迎えた女の子はびっくり。
「おじいさん、笠はどうしたの?」
お地蔵様にあげたことを話すと、女の子はため息をつきます。
「また、そんなことして……知らないよ?」
その晩、しんしんと雪がふる中、ズシンズシンと重たい音が聞こえてきました。
雪の中を笠をかぶったお地蔵様が重そうな荷物を引っ張っていきます。荷物の中にはおじいさんが喜びそうなものがたくさん詰まっています。
おじいさんの家に到着しましたが、お地蔵様は困ってしまいました。
玄関の前にはたくさんの人が並んでいたのです。こんな夜更けにと不思議に思いながら尋ねてみることにします。
「あんたもこの家に用があるのかい。それじゃあ後ろに並びな」
列の前には亀、茶釜、鶴、雪女など色々な人外が並んでいました。
「あなたたちは?」
「正直者のおじいさんに恩返しにきたけれど、なかなか順番がまわってこなくてね。こうして待っているのさ」
なかなか列は進みませんでしたがお地蔵様はじっと待ちました。待っている間もおじいさんがくれた笠のおかげで寒くありません。
贈り物をおじいさんは喜んでくれるかなと楽しみに待っていると、急に空が晴れました。雲を割って月光が地上を照らします。
みんながまぶしそうに見上げていると、ポツリと空に浮かんだ影がゆっくりゆっくりと近づいてきました。
現れた集団はとても立派な身なりをしていました。彼らは月の都の使者だと名乗ります。
「竹取の翁よ。姫を迎えにきました」
「ちょっとお待ちなさい。順番を守ってください」
せっかく並んでいたのにと抗議します。他のひとからもブーイングの嵐です。
「今宵、我々には姫を迎えるという重大な使命があります。姫を立派に育ててくれた彼とも話をしなくてはいけません。どうかご遠慮ください」
「それはみんな一緒です」
言い合いは続き、やがて一夜があけました。
朝日が差す中、家の戸ががらりと開いて女の子が顔を見せました。
「あーあ、またか……」
降り積もった雪にはたくさんのいろいろな形の足跡が残っていました。
「どうしたんだい、かぐや?」
「ん~ん、なんでもない」
女の子は首を横に振ると、何事もなかったように戸を閉めました。
囲炉裏を囲んで二人は朝ごはんを食べます。
「おじいさん、今日も街にいくの?」
「今日も寒いからね。きっと竹炭がほしいってひとがいるはずだよ」
「そっか。ところで、この前竹切ったときに黄金が出てこなかった?」
「あったあった。びっくりしたよ。きっと落とした人が困ってるだろうから町に届けておいたよ」
「……そっかぁ。おじいさんはほんとに正直ものだよね~」
その日も、おじいさんは困っていた人を見つけては親切に声をかけましたとさ。