幸福な結婚とは? 9 ヒューゴ=パネライ
更新遅くなりました…。すみません…。
着いたのはー…とにかく広い、
そして高い壁に囲まれた敷地にある邸宅だった。
皇宮ばりの敷地、そして壁…と言えば、
わたしにはたった一人のお方しか思い当たらない。
そう…ヒューゴのお父上パネライ大公の邸宅だ。
鬱蒼とした森に囲まれた邸宅の主人は、
過去にバルミュラ皇后の暗殺対象になった
貴族を何人も救い仕事も与えたという。
よくみれば森の中は細い小道がいくつも通っており、
本当の東屋や東屋に似せた入り口の無い建物、
もしくは(人がいたが)見張り小屋など
(何に対してが不明だが)警戒感が半端ない。
「-着いた。降りるぞ」
カイルが言って馬車のドアを開ける。
ラウルは先に降りて、わたしの手を引いて
エスコートしてくれた。
(ふむ…)
所作はスムーズで彼らが貴族なのは間違いが
ないのだがー…。
(ベルハイム…ベルハイム…ねぇ…)
いまひとつ聞き覚えが無かった。
もしかしたら、今回のルートヴィッヒ1世再即位で
国外からパネライ大公派の貴族が戻ってきているの
かもしれない。
するとエントランスで思いがけない人が立っていた。
たぶんこれから皇宮に戻るのだろう。
単騎で来られたらしい様子だ。
かなりの長身で、一見細身だが鍛えられた鋼の身体、
黒髪はつやがあり後ろに撫で付けられていて、
冬の凍て付くような夜空に似た美しい瞳は
凛々しさと美しさを兼ね備えているー。
帝国立騎士団団長ー
「ヒューゴ様!」
わたしは彼に駆け寄った。
「ジェニー…あ、いや…ジェニファー嬢。
こんな所でー…」
彼はわたしを見ると戸惑ったように呟いた。
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「どうして貴女がこちらにいらっしゃるのかー…?」
わたしを見ると彼は驚いたように目を見開いた。
「坊ー帰ってらしたんですね…」
ーそこでヒューゴに声をかけると私の後ろで
様子を伺うラウルとカイルに気が付いたらしい。
「なぜーお前達と彼女が…」
ヒューゴは眉根を寄せると厳しい声で
わたしの後ろにいる二人に尋ねた。
「ー何かありましたか?」
そして…なんとわたしの肩を抱き、
そのまま夜空を映した瞳をきらっとさせ、
わたしの顔を覗きこんだ。
(眼福だわー…!!)
「いえ…、野暮用ってやつですわ…お気になさらず
…ほほ」
真っ青になるアベルとカイルを放置したままー
わたしはヒューゴに笑いかけた。
なんといっても前世わたしの一押しだった
彼のド!アップである。
(これは堪能しなければ…!)
わたしが心の中でうなずいていると、
「アベルが…亡くなってしまったかもしれないと
貴女が嘆き、哀しんでいる間、何も力に成れず…
申し訳ない事をした…」
ヒューゴは唐突に言い出した。
「貴女が真に辛い時にー…傍に行けない事が
こんなに苦しいとは…俺は思わなかったー
…ジェニー」
わたしはあんぐりと口を開けてヒューゴを見つめた。
アベルとカイルも同様である。
一体どうしたというの!?
(いやいや…。まさか乙ゲーが続いているんじゃ
ないでしょうね!?)
しかし…ヒューゴは冗談を言うタイプでない。
今も大真面目な表情だ。
そして彼はわたしの手を取ると手の甲に口付ける
仕草をしようとしてーはたと止まった。
「この手首はどうされましたー?」
まるで『敵に襲われたのか』
と確認するような声だった。
もともと青ざめていたカイルの顔色がみるみる内に
蒼白になり脂汗が額に浮くのが見えた。
わたしは慌てて
「おっ…、おほほっ。ろっ、路地裏で実は盛大に
転びまして…手を付いたら思い切り捻ってしまい
ましたの」
とかなんとかごまかしたがー...。
(よく見ればあざは指のカタチがくっきりと
残っている)
ーそれにしても、よく気が付く男性である。
前回のほおの傷も、今回の手首も。
アベルは繊細そうに見えて意外に大雑把な
ところがたくさんある。
(そこも楽でいいんだけどね…)
ヒューゴはわたしの手をうやうやしく取り
回復魔法をやたら念入りにかけてくれた。
そしてそのままわたしの手を握ったまま
話を続けた。
「この者たちとここに来られたと言う事はー」
ヒューゴは小さくなるラウルとカイルをみながら言った。
「ー俺の父と面会する事になるでしょう」
わたしは
「…はあ…。分かりました」
と間の抜けた返事をしてしまった。
(つまりラウルとカイルの上司は
ジョージ大公様という事なのね…)
乙女ゲームでは多分1カットも出てこない
名前だけの大公閣下だ。
わざわざ大公宅に訪れて
「こんにちは。はいーさようなら」
で済む訳は無いだろう。
(面倒な事になってしまった…)と
わたしは心の中でため息を吐いたのだった。
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