幸福な結婚とは? 6 アベル=バランタイン
アベルの結婚のおねだりは今に始まった
ことじゃない。
いままでもあったけれど
「いつかしようね」程度だった。
(今回はよほど寂しかったんだろうな)
わたしもアベルに会えないと寂しいのは一緒だ。
まだ婚約して日も浅いししばらくこのままでも
いいかな――と思っていたが、すれ違いでストレスが
溜まるより早めでも具体的に日取りを
決めてもらった方がいいかもしれない。
(――でないと先に妊娠するかもしれない…)
アベルが最近避妊の魔法をかけるのを
しぶるからだ。
(あえて理由はきいていないが
最近のヤンデレぶりをみると
なんとなく想像がつく)
さすがに公爵家と伯爵家の結婚に
――妊娠したぼて腹の新婦では醜聞だろう。
(気をつけないと…)
――公爵家で過ごす一日は大変快適だった。
ご飯もお茶もおやつもすべて美味しいし、
皆が本当に気を使ってくれる。
アベルの部屋で彼が帰ってくるのを待ちながら
お茶を飲んで考え事をしているうちに、
あまりにもやる事がなくて暇でつい
うとうとしてしまった。
(結婚してこんな毎日だったらジェニ―の
身体だと確実に太るな―…)と思いながら。
その時ちょうど魔法管理省から帰ってきた
アベルが、うたた寝しているわたしを
ソファからベッドへ
横抱きにして連れて行ってくれた。
わたしをベッドへ横たえるとアベルは浴室に
向かったらしい。お湯を使う音がする。
しばらくすると湯浴みから戻ってきた
アベルがわたしの横にするりと入ってきた。
アベルの身体から石鹸の良い匂いがする。
彼はそのまま眠っているだろうと思われている
わたしを抱きしめて
「…おやすみ、ジェニ―」
と軽くキスを髪に落とした。
「-アベル」
わたしはアベルに声をかけた。
「うわっ、びっくりした…!
ジェニ―、起きていたの?」
「ええ、起きておりました。
アベルに今朝散々意地悪をされたあと、
お昼寝もたくさんしましたので」
アベルはわたしのジト目を見てちょっと
赤くなった。
「ご、ごめん。
今朝はジェニ―があんまり可愛くて――」
わたしはまだアベルの顔をじいっと見ながら、
「…『結婚する』とあんな時に無理やり言わされて
すごく、すご―く恥ずかしかったですわ」
「――う…ごめん、ジェニ―」
アベルは俯いてしまった。
わたしはアベルの顔を覗き込みながら言った。
「だからもう一度ちゃんと言ってくださいな。
もう一度きちんとしたプロポ―ズを…わたしに」
弾かれたようにアベルはわたしの顔を見た。
そしてあの煌めくパパラチアサファイアの瞳で
わたしを見つめて、熱を帯びた口調で言った。
「もう僕はきみのいない人生なんて考えられない。
今も、これからも――。ジェニ―…愛してる」
「僕と結婚して…ずっと僕のそばにいて欲しい。
一生大事にする」
――とわたしをぎゅッと抱きしめてくれたのだ。
わたしも微笑んで
「はい…喜んで…!」と手を回して
アベルの背中を抱きしめたのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「――では、いつしますか?」
「え?」
「結婚ですわ。いつします?」
わたしはアベルのガウンの首元を掴んで訊いた。
「――ジェニ―…?
切り替えが早すぎやしないかい?」
「善は急げと申しますし、
これ以上アベルの情緒が不安定になっても
困ります。仕事に差し障りますわ」
わたしはきっぱりと言った。
「ジェニ―、僕の事をそんなに心配してくれる
なんて-嬉しいよ。愛してるよ…!」
とアベルは感激してわたしをまた抱きしめるのであった。
わたしは片手でアベルの背中を撫でながら
頭の中では冷静に
(――困るのはアベルだけじゃないのよ)
と考えていた。
――わたしも困るのだ。
(こんな快適な公爵家で何もせずごろごろして
いたらアッという間に子豚になってしまう)
(太りやすいジェ二―の身体ですもの。
妊娠中毒症になったりしても大変だわ)
はやくアベルに安定してもらって
わたしもできる限り公爵家で運動だけでなく、
社会活動もしなければ…!
――とそこまで考えていると、
「魔法省のイベントが終わったら
大きい仕事はひと段落するから、
義父上とジェ二―のお父上に報告しよう。
その時、日付も具体的に話し合っていくから」
とアベルが言ってくれた。
「ええ…!わかりましたわ」
わたしはまだ片手はアベルのガウンの襟元を
掴んだまま頷いた。
「良かった、ジェ二―…、
じゃあ襟元の手を離してくれるかい?」
アベルが困ったように笑っている。
わたしはアベルの顔から首元までじっと見つめた。
アベルは「な…何?」とまだ何を言われるかと
若干わたしから引いているようだ。
「わっ、ジェ二―…!」
わたしはアベルの身体の上に乗ってから、
びっくりして起き上がった彼のガウンを
肩からすべり落とした。
アベルの裸の肩と胸を優しく撫でてから、
ついばむようにキスをしていく。
「う…ん…ジェ、ジェ二―…今日もするの――…?」
アベルは切なげな吐息を漏らしながら、
わたしの顔を見下ろした。
わたしはアベルへと微笑みながら彼のガウンの
腰紐を解きはじめた。
「…いいえ。
今日はわたしの中に入れちゃダメですわ」
「ええ…!?そんな…」
更に切なそうな表情をするアベルへ
わたしはにっこりと笑った。
「大丈夫ですわ…。
ちゃんと気持ちよくして差し上げます」
わたしはそのまま布団をがばっと大きくめくると
中に潜っていった。
「え??何?ジェ二―、一体…」
状況が飲み込めてないアベルに説明するより先に
――アベル自身をわたしの舌が捕らえた。
(アベルは理解してくれたかしら?)
――今夜はわたしがアベルを苛めて翻弄する番だ
ということを。
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