幸福な結婚とは? 3 アベル=バランタイン
ジェニーは話し始めた。そう―生き生きと。
彼女はこういう時ーいつも可愛くて魅力的だが、
更にその魅力を増すのだった。
「水腫という水が身体に溜まる病気があります
でしょ?」
「うん。心の臓や肺の臓、手脚に余計な水が
溜まる病気だね」
と僕が言うと,ジェニーは頷いて、
「流石ですわ!アベル」
と手を鳴らし誉めてくれるのは悪い気はしないが、
「それがどうしたの?」
僕ら魔法を使うものは回復魔法を
使い治してしまう事が多いため、特に内臓系の病気については医療魔法を極めたものしか、病気の
起こる機序について、理解していないことが多い。
僕も水腫の病名と症状は知っていても
何故それが起きて、水が溜まってしまうのか
まではしらない。
ただ、心の臓の働きが悪いときに
起こるのは知っている。
「この葉は主に心臓の動きを強くするそうです。
葉を乾燥させて使うのですが、
中毒も起こりやすいのだそうです」
利尿作用があるため水腫に効きやすいが
血中濃度を確認していかないと、副作用も
起こりやすいーとジェニーは続けた。
ー食品医薬品管理局の局長
ロベルト=シュナイダー侯爵ー
「だからーレイモンド閣下に紹介してもらった
のです」
「薬の作用機序を研究しつつ、被験者を集められ
副作用についても理解できる研究所はこの局
しかありませんから…」
ジェニーはアベルににっこりと笑った。
アベルはいつも思う。
(彼女は、前の世界で一体どんな女性だった
のかー)
一度深くしつこく訊いたら何故か怒ってしまった。
(いまだに何故怒っていたのか分からないが)
「…薄々分かっていましたけど、
アベルは絶対年上の女性が好きなんですわ!
だから、わたしみたいな同い年のちんちくりんは
本当はタイプじゃないんですわー!」
ちんちくりんの意味が分からなかったが
彼女が拗ねて怒ってしまったのは分かった。
こんなに会う度に「好きだよ」「愛してる」と
言っているのにも関わらず、何故か心配らしい。
(―そもそも中身は年上じゃないか…)
と言うとまた問題になりそうなので止めておく。
「でも良かった。他の男と仲良くしてたかもと
想像したらー…」
「…アベルじゃあるまいし、わたくしはそんな事
いたしません」
ジェニーはプイッとそっぽを向いた。
「ちょっと待って。
なんで僕がそこにでてくるの!?」
「ーレイモンド閣下にお聞きしましたわ。
ーラウラ嬢のお尻ばかり見て
いらっしゃると」
(義父上ー!)
一体あの人は僕とジェニーをどうさせたいんだ!?
「ジェニー、それは誤解だ。きみとなかなか
会えないからー」
「だから他の女性のお尻を見ていたんですのね」
(藪蛇だ。何なんだ、一体!?)
「違う…」
そこにタイミング悪く執事がやってきて、
「アベル様の部下と呼ばれる方がいらっしゃって
ます。ラウラ=ベルハイム様です」
と告げた。
ジェニーはジト目になって、
「…おしごとの邪魔になるといけませんから、
わたくし帰りますわ」
僕は慌てて、身をひるがえそうとするジェニーの
手首を捕まえた。
「待って、久しぶりに会えたのに嫌だよ。
こんな誤解されたままさよならするのは。
ジェニー」
またそっぽを向く彼女の顎を僕のほうに向けた。
「ジェニー、会いたかったよ。とても」
と熱っぽく囁くと、彼女は顔を赤らめた。
「…わたくしもですわ」
と恥ずかしそうにしていた。
(可愛い)
僕は彼女をぎゅっと抱きしめた。
「お願いだよ。このまま帰らないで。
せっかく会えたのに。
ね…?ちょっとだけ待ってて」
少し上目使いでお願いすると、しぶしぶと
「わ、わかりましたわ…」と返してくれた。
「ありがとう。大好きだよ」
とジェニーにキスしようとすると、
「ーアベル副長官」
と落ち着いた女性の声が聴こえた。
温室の入り口にラウラ=ベルハイムがいつもの
ぴっちりしたワンピースを着て立っていた。
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