幸福な結婚とは? 16 不夜城にて
デルヴォ―帝国ではなく不夜城での話です。
ロンデリルギゼとリリスです。
ーー其の頃、不夜城では。
「…ぶ…、ぶぇーくしょーんーっ!!」
鳳凰が考えていた相手ではなく、その真向かいに
座るピンク色の髪の少女…炎竜ロンデリルギゼが
大きなくしゃみをした。
ゴウッとと凄まじい炎が吐き出され、
30mはある長いテーブル(決して近い距離ではない)に向かい合って座る、美少女姿のリリスの艶のある前髪を2本ほど焦がした。
「……」
丁度飲む直前のバランタイン邸より貰った貴重な
紅茶が入るカップを、リリスは無言で皿に戻した。
零れては勿体無いからである。
「ロンデリルギゼ、…ボクの綺麗な前髪が2本も
お前の炎で痛んじゃないか。どうしてくれる」
「あははっ、ごめんごめん、リリス様~」
ロンデリルギゼは片手で笑いながら黒い煙を
払った。
「最近また身体と魔力がでっかくなって
きちゃってさー、コントロールするのが
なかなかムズイんよ~」
その砕け過ぎる言い方にリリスの
眉間の皺はさらに深くなった。
リリスは真面目な声音で続けた。
「…謝罪する時は笑いながらではなく真摯に、だ。
あとその言葉遣いはなんだ?『でっかく』では
無く『大きく』、『ムズイんよ~』に至っては
何故そこまで言葉を省略する必要がある?」
なかなかに細かい言葉の指摘だったが、
ロンデリルギゼはスルーして話しを続けた。
「ねぇねぇ…リリス様~。あのさ、話があんだけど」
(...デジャヴか?)
ロンデリルギゼのその話の切り出し方にリリスは
イヤな予感を覚えたが
「なんだ?」と一応訊いた。
「あのさ、ルートヴィッヒとパパリン帝の所に
一度行っておきたいんよ。紹介したいからさ。
あたしの初めてのトモダチですって」
(何がパパリン帝だ…炎竜帝を意訳しすぎだろう)
「…そのアホ丸出しの言い方は
どうにかならんのか?
一体何処で覚えたんだ」
リリスは『予感的中!』
ーーとこの炎竜ロンデリルギゼとの会話で
よく起こる頭痛に備えて、こめかみを揉んだ。
「バリーだよ??」
ロンデリルギゼは、知らないの?と
言わんばかりに即答したが、
リリスにはその名前に全く心あたりが無かった。
「バリー?…誰だ、それは?」
仕方なく訊きなおす事になった。
「あはは~、ヒューゴの部下の副団長だよ~。
あいつ面白いよねー」
(ーーそんな奴知るか!)
心の内で激しく舌打ちしたリリスなのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
リリスがロンデリルギゼと共に不夜城へ戻る日の事だ。
リリスを見送る為、ルートヴィッヒ、レイモンド、アベルらが皇宮内の皇帝ルートヴィッヒ1世の執務室に集まった。
身体を小さく変化するのに慣れたロンデリルギゼは、パタパタと小さな羽根を羽ばたかせて、くるくると執務室を飛び回っていた。
デルヴォー帝国を訪れ、また離れる際にルートヴィッヒにロンデリルギゼの血液を飲むように勧めたのは、他ならぬリリス自身だ。
自分の愛弟子が…いやそれ以上に息子のように愛する者が大人しく病気に因って朽ちていくのを見るのが堪えがたかったし、何よりもロンデリルギゼがその状態のルートヴィッヒから離れる事を拒否した。
魔王を不夜城に連れて帰るーーこれが当初の目的だ。
その為に今まで苦労してきたのだ。
(ここでロンデリルギゼに駄々を捏ねられては困る)
急遽ロンデリルギゼの血液を新鮮なまま摂取出来る様に丸薬状に加工したものをリリスは作り上げ、
ルートヴィッヒに渡したのだ。
(あまりいい予感はせんな…)
これを受け取る時、老いたルートヴィッヒの瞳にヤンチャだった頃と同じ煌きが見えた。
これを飲む事で、老獪になったルートヴィッヒが、若い頃に迫る魔力と体力を取り戻す可能性がある。
(…それはさぞ美しかろうよ)
リリスは皮肉っぽく考えた。
ロンデリルギゼの血液は細胞単位のキズまでも回復させる。
その事により若かりし美丈夫のルートヴィッヒの姿を再度拝める可能性もあるのだ。
リリスが考えていると、ルートヴィッヒがいつの間にか音もなく近づいて来て、ぎゅうとリリスを抱きしめた。
そしてルートヴィッヒはリリスの耳元で囁いた。
「いつも…いつも感謝しても、し足りない。
リリス様…儂の愛と尊敬は全て貴方に捧げる。
...愛していますーー我が義父上」
ルートヴィッヒはリリスの肩に顔を埋めた。
お待たせしました。
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