幸福な結婚とは? 12 ジョージ=パネライ
大公閣下の話しは続くと思いきや、一度だけ
止められた。
閣下自身が、部下二人を部屋の外で待つよう
指示した為だ。
「ふ…。二人の話しは外に聞こえない様になって
いるし、盗聴防止のシールド魔法も張ってある…
気にすることなく、機密情報の話しもできる。
さて…と、ジェニー…君は調べれば調べる程、
不思議な娘だ」
大公閣下はそれが癖なのか、また両手を擦り合わせた。
「君のことは…ルートヴィッヒに訊いても教えて
くれないのだよ…。それはこの世界の住人に関与
すべき事ではないとねーー」
(ちょっと…そんな煽る言い方しなくとも…)
とは思ってものの、陛下がわたしの立場を
守ってくださる…その事がわたしに閣下に
対抗するちからをくれた。
「でしたら…お知りになろうとするのは御止めに
なったらいかがですか?」
わたしが大公閣下を若干恐る恐るになりながらも
真っ直ぐ見つめて言うとーー。
大公閣下は破顔一笑して…一言だけ言った。
「君は分かっていない」
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「君は分かっていない」
私は目の前の娘が怯えながらも反発する様を
心から楽しんでいた。
猫が鼠をいたぶる気持ちとはこの事なのだろう…
何度この様な場面に遭遇しても弱者を弄ぶ愉しみが
自分の中に存在する。
(皇帝の家系の血だな)
毎回、実感する一コマではある。
検討はついているー…中身を完全に掌握している
わけではないが、姉上…バルミュラの二人病を話す時のルートヴィッヒと重なる、この曖昧な印象で。
(バルミュラ姉上の中の…もう一人の穏やかな姉上…)
これが鍵だった。
姉上の中のもう1人の彼女は、
穏やかでほとんどの人格を占めたバルミュラとは
異なりとても慎み深かったが、
いつ知ったのか皇宮内の図書室にもない言語を
聴き取り…理解する事が出来た。
『何故』『どうやって』彼女は知り得たのか…?
自分は長年それが知りたくて仕方なかった。
まさに彼女が自分が情報屋になる
きっかけだったと言ってもよい。
そして今姉上と同じ情報を持つかもしれぬ娘が
目の前にいるーー。
興奮を抑えよと言う方が難しかった。
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わたしの眼にも大公閣下が静かにーーだが、
興奮しているのが分かった。
わたしは(心の中で)舌打ちを思い切りした。
世の中には真実を知りたくて仕方がない…時に
迷惑な人種がいるが、その最たるものが
この眼の前の大公閣下だろう。
自分の息子(ヒューゴの事よ)の結婚を捻じ曲げてでもわたしという秘密を入手したいらしい。
「分かってらっしゃらないのは大公閣下では…?
私は既にアベルと事実上の結婚はいたしております。
ヒューゴ様はお許しにならないだろうし、
そもそも大公閣下のご命令でもお望みにならない
娘を嫁に迎えるなど承知なさらない性格なのでは
…?」
わたしは落ち着いて言った。
(…つもりだった。多少語尾が震えるのは許してほしいわ)
大公閣下がこれで引き下がってくれる事を
望みながら。
「ふふ…、若者は性急でいかんな。
しかし別に純潔でいてくれなどと私は勿論
ヒューゴでも望むまいよ。
ただ純潔なだけが取り柄の育ちの良い貴族の
娘に何の魅力と価値があるというのだ?ん?」
「…ヒューゴは君を嫁に迎える事に形ばかり
抵抗はしても最終的には折れるだろう。
わたしは彼の父親で彼の事は何でも知っておる。
…今現在の想い人もな」
「ここに君を囲い気持ちが変わるまで滞在して
頂いても、私は別に構わないぞ」
大公閣下はわたしを見ながら不敵に微笑み、
引き下がる様子は全く感じられなかった。
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大公閣下の追い出される形で廊下待機していた
ラウルとカイルは未だ言い争いを続けていた。
「…俺は断固反対する!なぜ坊の嫁にあんな
伯爵風情の痴女を押すんだよ!?」
ラウルはカイルに言い聞かせるように言った。
「理由は分からんが…ジョージ閣下はどんな手を
使ってもあの娘を欲しいと見た…
今まで欲しいと思ったものを手に入れるために
ジョージ様がやってきた事を知らない訳
じゃないだろう?」
カイルはぐっと言葉に詰まると無言になった。
ラウルはため息をついて続けた。
「大人しくあの娘が嫁になると言ってくれる
のが一番丸く収まるんだ…」
お待たせしました。
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