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第5話 高校初日

「…さい! 遅刻するわよ!」


布団あったけー。

そういえば、この布団もう十年以上使ってるよな。

タオルケット症候群ってやつかな。

まあ、なんでもいいや。

もうちょっと寝よ。


-ガバッ


体を包んでいたものが無くなった。


「起きろって言ってんでしょ?

あんた、今日から学校よ? 初日から遅刻するつもり?」


あ、学校か…

って、やっと学校か!

待ちに待った日がやっと来た!


「どうしたの? 急に飛び起きて。気持ち悪いわよ」


「学校だぞ? やっと入学だぞ?」


「だからそう言ってるじゃない。早く着替えたら?」


千咲は俺の制服を投げつけてきた。

いつもならキレる所だけど、今日は許してやろう。


「俺の広い心に感謝するんだな」


「何馬鹿な事言ってんのよ。

そもそも、起こしてやった事に対しての感謝は?

今日のあんた、いつも以上に気持ち悪い。

ホントに近づかないでね。学校でもよ」


お前だっていつも以上に目付きが悪いぞ。

なんて言えない。


「あーはいはい。起こしてくれてありがとよ。

で、どういう風の吹き回しだ?

普段なら俺を置いて先行くだろ」


「今日入学式でしょ?

あんたの母親と私の母親がわざわざ来るのよ。

本当にイベント事が好きよね。

で、入学早々あんたがいなかったら、どうなると思う?

あんたと私の親よ?

絶対面倒臭いわよ。

だからわざわざ起こしてやったのよ。

親が来なかったら、あんたなんか置いて一人で行ってたわよ」


吐き捨てるように淡々と言った。


コイツには建前ってもんがねえのかな。


だけど…母さん来るのかぁ…

しかも彩希さんとセットかよ…


千咲がわざわざ俺を起こした理由も分かった。


俺がもし入学式に居なかったらまず千咲を尋問するだろうなぁ…

なんで置いてきたとか、仲悪いのとか。


考えるだけで鳥肌がたってきた。


「母さんたちが来るのかぁ…最悪だよ…」


「今回ばかりはあんたと同意見よ…」


「「はぁ」」


俺たちはお互い顔を合わせて、深くため息をついた。



*****



俺は千咲に黙って、少しだけ早めに家を出た。

同じ家から登校してる、なんて事がバレたら、俺の青春がぶっ壊れるからな。

それだけはマジ勘弁。彼女欲しいし。



-タッタッタッ



後ろから足音が聞こえる。嫌な予感がする。


俺も全速力で走り出した。



-グッ


逃げれねーよ。速すぎねぇか。


「はぁはぁ。…な、なんで逃げるのよ」


「…こうなると思ったから」


息を切らすまで追いかけてくるなよ。


「で、何の用だよ。

まさか、一緒に登校したいとかじゃねえよな?

ガキでもあるまいし」


俺がそう言うと、千咲の目から光が消えた。

普通に怖いよ。


「あの、そう言うの冗談でもやめてくれる?

本当に気持ち悪いわよ。吐き気がする。

私があんたと登校したがると思ってんのなら、本当に病院行った方がいいわよ?

さっきも言ったよね? 親が来るのよ。

別々に登校してる事がバレたらどうするつもり?

あんたが二人に説明してくれるのね?」


「すみませんでした」


これっぽっちも言い返せない自分が嫌になるよ。


「分かったならさっさと行くわよ。

私だって、あんたと一緒に登校してる所なんて見られたくないわよ」


コイツ、俺の心の中が読めるのか?


流石に今日ばかりは、三歩後ろを歩くのは無理そうだ。俺たちは嫌々ながら、足並み揃えて学校へと向かった。



*****


-ガタンゴトン


東京の満員電車ってすげーな。

人がゴミのようだ。


ここでバ〇スって言ったら何か起きねえかな。


って、本当に苦しいな。これ。

俺たちの地元の電車なんか全席ガラ空きだぞ。

これじゃ常に、おしくらまんじゅう状態じゃん。


すぐ目の前にいる千咲の方に目をやる。

どうやら千咲も同じ事を考えているようだった。

顔見りゃわかる。


って、めっちゃ胸を押し付けてくるんだけど。

何なの? 嫌がらせ?


「あの、胸当たってんぞ」


「最低。あとで顔面歪ませるからね」


千咲は下を向いたまま動かなくなった。

あー、余計なこと言わなきゃよかった。

何発殴られるかなぁ。

三発ぐらいで許してくれねぇかな。




五分ぐらい経つと目的の駅に着いた。


朝から本当に疲れた。これが毎日続くのかぁ。

東京の人って凄いなぁ…

俺は電車から出て深呼吸した。


-スーッハー


-ゴンッ


「さっきのお返しね」


深呼吸中に殴ってくんなよ。

でも、一発で済んで良かったぁ。

じゃねえよな。普通一発でも殴られるのっておかしいよな。

まぁ、いっか。慣れたし。


俺たちは階段を上がる。


「で、学校ってどっちの方面だ?

ここの電車を使うって事しか知らねんだよなぁ」


「あんた、あれだけ休みがあったのに、下見にすら行ってないの?

ホントに無能クソニートね」


「うるせーよ。俺はお前と違ってやる事があったんだよ」


俺は確かにすべき事があった。

だから春休みの間は殆ど家から出ていない。


「やる事?

やる事ってあの"青春ノート"を書くこと?

青春ノートって。あははっ

ネーミングセンス終わってんね。

特に"可愛い彼女を作る"って所で笑いが止まらなくなっちゃった。

思い出したらまた笑けてきたわ。あはははっ」


コイツどんだけ人を馬鹿にすれば気が済むんだ。

いいじゃないか。田舎者が都会に夢みて、やりたい事を書きつづったって。

俺だって青春したいんだよ。


「なんでそれをお前が知ってんだよ。

俺の部屋に置いてたはずだぞ」


「掃除した時に目に付いたのよ」


「お前、勝手に人の部屋入ったのか?」


「あんたの部屋汚すぎるのよ。

掃除してやってんだから、感謝するのが普通じゃない?」


この女、勝手に部屋入って勝手に人のノート見やがって。

まぁ、掃除してくれたならいっか。


「まぁ、掃除してくれてたのはありがとな。

でも人の物を勝手に漁らないでくれよ」


「はいはい。以後気をつけますよー」


めちゃくちゃ棒読みじゃねーか。

絶対反省してねえな。


「結局学校はどこなんだよ」


「こっちよ、ほら、早く」


千咲は俺の腕を手繰(たぐ)り寄せる。


「こんなに引っ付く必要あるか?」


距離感がおかしいんだよ。

普通に横並びで歩けばいいじゃん。


「この辺りから親に会う可能性があるでしょ?」


そうなのか? あまり引っ付かれると、周りに要らぬ誤解を与えそうなんだよ。


まぁどうせ今日限りだし、問題ないかな。

ただ、この女に纏わりつかれるのがストレスでしかない。


そこから二、三分歩くと大きな建物が見えてきた。


「ここか?」


「そうよ、九里学園って書いてるじゃない。

目、見えてんの?」


いちいち鬱陶しい。

ただでさえ引っ付かれてウザイのに。


俺は千咲を突き放した。


「もういいだろ。学校見えてきたし」


「そうね。やっと離れられて清々するわ」


そりゃ良かったな。俺も嬉しいよ。


「で、ここからどうすんだ」


先を歩く千咲に問いかける。


「ちょっとは自分で考えたら? バカニート。

まずは自分のクラスの確認よ。

それぐらい分かるでしょ?

多分下駄箱の前に張り出されてるはずよ」


「りょーかい」


俺のとこじゃクラスが分けられる程人数居なかったからなぁ。

千咲はなんで知ってんだろ。


校門をぬけ、少し進むと人だかりが出来ている場所があった。


「あそこかぁ。めんどくせぇな」


「ほら、早く確認してきて」


この女。思いっきり背中押してきやがった。

力加減って知ってる?



A組からG組まであんじゃん。クラス多すぎだろ。

でも、油小路だしどうせ一番だろうから、探すのには苦労しないかな。


俺は各クラスの一番上を確認していく。


あ、あった。E組か。

やっぱすぐ見つかるな。


えーっと、千咲はー、水見、みずみっと。


これ探すのめちゃくちゃ面倒臭いな。

各クラスの三十番あたりを見れば見つかるか?


A組…D組…あ、あった。E組か。


え? E組? 嘘だろ? 見間違いじゃねえよな。


E組の一番をもう一度見る。


1番 油小路隼人


見間違いじゃねえな。


29番 水見千咲


あー終わったわ俺の青春。

まだ始まってもなかったのに…


俺は呆然と立ち尽くすしか無かった。


「クラス分かった? どこよ」


後ろから声がする。

俺は無言でE組を指差す。


「へーあんた、E組なんだ。私は?」


俺はまたE組を指差す。


「え?」


千咲はそれだけ言うと、俺と同じようにその場に立ち尽くしていた。


「神様って居ないんだな」


「逆じゃない? 神の嫌がらせでしょ。これ」


「「はぁ」」


ため息をつくのは今日で二度目だ。

あと何回ため息をつけばいいのだろう。


俺たちは重い足取りで教室へ向かう。


ドアの前で一度足を止める。


「一緒に入ったら勘違いされるかもだろ?

先にお前入れよ。遅れて俺が入るから」


「気にしすぎよ。ほら入りなさいよ!」


俺は無理やり教室に押し込まれた。


確かに気にしすぎだったか。

皆初めての顔合わせで、緊張しているようだった。


俺は自分の席に着く。

千咲も自分の席へと向かったようだった。


通路側の一番前かぁ。

席替え早くしてくれねぇかな。


俺は頬杖を着いてクラスを見渡す。

えーっと、可愛い子…可愛い子。


「何探してるの?」


「んー可愛い子」


あまりに自然に質問してきたから、思わず答えてしまった。

誰だ、俺の美女探しを邪魔してきたのは。


「ん? 可愛い子? 面白いこと言うね」


声は俺の後ろから聞こえる。

俺は後ろを振り向こうとした。


「面白くもなんともない…」


………可愛い子いるじゃん。

ショートボブで少しだけパーマを当てた茶髪。

二重の大きな目、小さな口。


「どうしたの? 顔、赤いよ」


「いや、なんでもない」


顔が熱くなる。

改めて、自分の女性に対する免疫の低さを再確認した。

今まで関わってきた同級の女って千咲だけだしなぁ。


「ま、いいや。私の名前は一ノ宮(いちのみや)もも

一ノ宮でも、桃でも好きに呼んでくれていいから。

君の名前は?」


コミュ力たけーな。

初対面でここまで話せるのすげーよ。

俺なんか緊張しっぱなしなのに。


「俺は油小路あぶらこうじ隼人はやと

よろしく、一ノ宮」


俺は精一杯の勇気を振り絞って自己紹介をした。

でもいきなり女子の名字を呼び捨てか…

名前じゃないだけマシかな。


「よろしくね。隼人。

で、可愛い子を探してるんだっけ?」


いきなり名前を呼び捨てで呼んでくるの?

俺も名前を呼び捨てで読んだ方がいいのか?

いや、無理だな。流石にハードルが高すぎる。


「うん、そうだな」


俺は適当に相槌をうつ。

可愛い子ならもう見つけてるし。


「君、彼女居るのに?

しかも彼女めっちゃ可愛いじゃん」


「は?」


何言ってんだ?

出会って早々悪いけど頭大丈夫か?


「は? じゃないよ。私見てたんだからね。

君たちが通学路でベタベタしてたの。

それに、教室にも一緒に入って来てたでしょ。

美男美女でお似合いだなぁと思ってたんだから」


やっぱ見られてんじゃん。まずいよ。まずすぎるよ。

それに、美男美女ってなんだよ。

美女と野獣の間違いじゃねえか?


なんで俺が野獣なんだよふざけんな。


「違うよ。あいつと俺はそう言うのじゃない」


「ほんとかなぁ?」


怪訝そうな面持ちで俺の顔を見つめる。

にしても可愛いなぁ。


「ほんとだぞ。すぐ分かる。

俺たちは相思相愛の真逆。不倶戴天の仲だ」


俺はハッキリと言い切った。


「ふーん」


一ノ宮はまだ疑っているようだった。

あと一日もすれば俺たちの関係はすぐに分かる。


もしかしたら一日もいらないかも。







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