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第4話 春休みが終わる

「ふーっ。やっと休めるー!」


何も無い部屋に大の字に寝転ぶ。


めっちゃ疲れた。

人混みに慣れてないのも影響してんのかな…


「うるさい。静かに出来ないの?」


相変わらず凄い目付きだ。

どうやったらそんな目で人を睨めるんだ?


まあでも、やっと腕を休ませる事が出来る。

なんでもいいから早く風呂入りてぇなぁ。


「とりあえず、それ運んでね」


千咲が指を指した方向には、山積みにされたダンボールがあった。


あ〜昼間の冷蔵庫とかか…

結局家具も色々買ったんだよな…


てか、無理だろ。

腕がホントに使えなくなっちまうよ。


「俺の腕が嫌って言ってる。

これ以上は労基違反だって」


「運ばないなら夕飯は抜きね」


千咲は、うさぎの刺繍ししゅうが施されたエプロンを着けて、包丁をブンブン振り回している。


うさぎとのギャップがすげーよ。

ギャップ萌え? 違う。ギャップ怖ぇ。


「ってか、お前料理とか出来んの?」


「バカにしないでよ。私、料理はかなり得意よ。

昔あんたにも食べさせた事あるじゃない」


…あったっけ?


俺は、脳内の奥深くに仕舞われている記憶を掘り返す。


んー


あ、思い出した!


「あのゲロみたいなやつだな!

確かに食わされたわ! ははははっ」


-ゴンッ


*****



さっき殴られた所が腫れている。


そこまで怒らなくてもいいじゃんよ。

確かにゲロは言い過ぎたかもしれないけど。


結局荷物を運ばされる事になった。

まぁ、包丁を突き立てられたら断れねぇよな。

不可抗力だ。


「冷蔵庫、ここでいい?」


料理をしている千咲の後ろから問いかける。


「そこ以外どこがあんの?」


「はいはい。分かりましたよ」


せめてこっちを見て言えよ。

場所確認してねえじゃん。


「電子レンジと炊飯器はここでいい?」


「だから、どこでもいいって! いちいち喋りかけないでくれる? 鬱陶しいんだけど!」


これ以上怒らせたら包丁が飛んできそうだ。

もう何も聞かない事にしよう。


それから俺は適当に荷物を運んだ。



「やっと終わったー!」


何も無い部屋で…じゃなかった。

俺が色々置いたんだ。


訂正。


家具が色々置かれている部屋で大の字に寝転んだ。


なんかいい匂いがする。

この匂いは…カレー?


「出来たわよ。運んで」


台所には、具材タップリのカレーライスが二つ並べられていた。


「お、ありがとな。本当に料理出来たんだな」


俺がそう言うと千咲は自慢げな顔をした。

ホント、分かりやすい奴。

そう言えば、飯ってどこで食べるんだろ。

この家は二人で住むには狭いけど、一応、自分の部屋はある。


まぁ、一部屋4畳ぐらいだけど。


俺は作って貰ったカレーを手に持って自分の部屋へと向かおうとした。


「どこ行くつもり?」


俺が台所を出ようとしたら、千咲に呼び止められた。


「自分の部屋だけど?」


「はぁ。ご飯ぐらい普通一緒に食べるでしょ。

そこでいいじゃない」


千咲はダイニングに置かれているローテーブルを指さした。


「お前に気を使って、別々に食おうと思ったのに」


「そんな気遣い要らないわよ。

これから三年間は一緒に過ごすのよ?

家の中でもギクシャクしたままだったら休まる場所がなくなるわよ」


まあ、その通りっちゃその通りだけど…


「わかったよ。一緒に食えばいいんだな?」


「なんで上からなのよ!? 私が一緒に食べて《《あげる》》のよ!」



それから、俺たちは嫌々ながら共に食卓を囲んだ。



「この人参うめぇな、本当に料理上手いんだな!」


「……」


「カレー食べるの久しぶりだなぁ!」


「……」


お前がギクシャクするのが嫌だとか言うから気を使って喋ってやってんのに。

全部無視かよ。


結局、この日の夕飯は、俺が一方的に喋り続けて、幕を閉じた。


*****



風呂気持ちよかったー。

初めての檜風呂だったけど、あれはアレで風情があっていいな。


俺は疲れた体にムチを打って、自室の畳の上に布団を敷く。


八時半か…

ちょっと早いかな。

でも、もう耐えれそうにない。


俺は布団で横になって、母さんから送られて来ていたメールに返信する。



『着いたら連絡ください』



「無事着いた。これから寝る」



『おやすみ。千咲ちゃんも横に居るの?』



……俺は無視した。


布団に潜り、目を閉じる。


-ダッダッダッ


うるせえな。なんだよ。


-スーッ


襖が開く音がする。


「ちょっとどういう事!?

志保しほさんから変なメールが来たんだけど!」


一番聞きたくない声が聞こえた。最悪だ。


俺は閉じようとする瞼を何とかこじ開け、千咲が差し出してきたスマホの画面を見る。


『しっかり付けるものは付けさせてね。

子供は大学生ぐらいになってからでいいからね♡』


うわ、マジかよ。

母さん、流石にこれはないわ…



「いや、俺は知らねえよ」


「あんたが志保さんに何か言ったんでしょ!?

ちょっと見せなさいよ!」


千咲は顔を真っ赤にして俺のスマホを奪い取り、トーク画面を見つめたまま、石のように動かなくなってしまった。


「ごめん。これは私が悪かったわ…」


珍しく謝ってきた。

というかウチの親が100%悪いんだけどな。


「いや、謝るなよ。

母さんには後で厳しく言っとくよ」


「あんたも苦労してるのね…」


千咲はそう言い残して自室へと帰って行った。


同情されると虚しくなってくる。


「はぁ」


俺は深いため息を着いて、眠りに落ちた。



*****



その日から特に何の変化もないまま日常を繰り返し春休みの終わりを迎えた。


何も無かった。と、言うと嘘になるかもしれないけど。


親が来たり昔の友人が来たりとか、まぁそんな所。


明日からは俺が夢見た高校生活がやっと始まる。


多少のイレギュラーはあったけど、絶対青春を謳歌してやる。


可愛い彼女を作って部活に入って勉強して良い大学に入る!



世界で一番相性の悪い女と同棲してるからって、

俺の青春が奪われるわけが無い。


はずだった。




























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