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第1話 ガチの不仲

「あなた達って本当に仲が悪いよね」


「お前らって何でそんなに仲悪いの?」


俺たちが高校に入学してから、今まで何度も何度も言われてきた。


そりゃそうだ。

目が合うなり大喧嘩始めてたら、そう言われても仕方がない。


俺、油小路あぶらこうじ隼人はやとと、水見みずみ千咲ちさきは文字通り水と油の関係だ。


これは良くある、

「喧嘩する程仲がいい」

とかじゃあない。


ガチの不仲だ。


相手の声も聞きたくない。勿論顔も見たくない。



なんでこんな事になったのか?


そもそも、ここまで不仲な二人が、何故同じ高校に通う事になってしまったのか。



きっかけは些細な事だった。


あれは俺たちが幼稚園で出会った、あの日の事だった。

というか、出会ってから今までの事だ。

過去形じゃない。現在進行形だ。



「はやとです。よろしくね」


「ちぃちゃんです。はやとくんよろしくね」


この時はまだ良かった。

というか、この一分後には喧嘩してるんだけど…


「ちぃちゃん、おにごっこしよ」


「ちぃちゃんはねぇ、おえかきがしたい!」


たかだか四歳のガキが、相手の気持ちなんて汲める訳が無い。


「おにごっこするの!」


「おえかき!」


まぁこんな感じで喧嘩になる。


正直、幼い子供の喧嘩なんていくらでもある。

すぐ仲直りしてまた仲良くなれる。

普通はそうだ。


俺たちは普通じゃなかった。


小さな事で、何度も何度も数え切れないほど(いさか)いを起こしてきた。


その度に仲直りをした…訳じゃない。

仲直りする前に新しい揉め事を起こす。

この繰り返しだった。



問題だったのが、俺たちの年代に四人しか子供が居なかったこと。これが本当にまずかった。


俺たちが住んでいる場所は所謂いわゆるド田舎ってやつで、子供なんてほとんど居ない。


子供の事をよく子宝って言うだろ?

俺たちの町じゃ本当に宝みたいに扱われてた。


そんな閉鎖空間の中、相容れない二人がずっと一緒に居る。

仲が良くなる訳が無い。


一度不仲になればずっと不仲だ。


勿論、最初のおにごっこ、おえかき論争だけでこんなに仲が悪くなったわけじゃない。


小さな事の積み重ねでこうなった。

俺たちは一度として仲直りをしていない。



俺たちの家は隣合っているんだけど、最悪な事に、親同士は滅茶苦茶仲がいい。

でも仕方ないよね。

同い年の子供が四人しか居ないって事は、勿論親も八人しか居ないわけ。

その八人の内、当たり前だけど母親は四人しかいない。

このくそ過疎地域だったら、嫌でも仲良くなってしまう。

母親という職業は大変だからね。

誰かに相談しなきゃ、やってられない。


それがお隣さんなら、もう母親同士は親友と言っても差支えがないほどに仲が良くなっていた。


俺たちは、そんな両親の前で喧嘩なんて出来る訳無かった。

だって物凄い暖かい眼差しで俺たちを見てくるんだよ?


「千咲ちゃんはもう殆どうちの娘ね」

「隼人くんだって殆どうちの息子よ」


なんて事をずーっと言われてきた。

今更、不仲でした。なんて言えねーよ。


挙句の果てには


「隼人くん。千咲の事、貰ってね?」


これを千咲の母親、彩希さきさんは、恐ろしい事に、俺と千咲の前で言いやがった。


無理です。


なんて言えない。


「…はい」


この後俺は何発殴られたんだろう。

思い出したくもない。


詰まる所、俺たちは滅茶苦茶仲が悪いのに、環境のせいで、関わりざるを得なかった。という訳だ。


だから俺は決めた。

高校生になったらこのド田舎を出て、東京で暮らす。

で、頭のいい学校に通って、可愛い彼女を作る!

あのクソ女ともおさらばだ!


俺の両親はそこそこ金持ちだ。

まぁ、両親って言うよりは、じいちゃんが凄いんだけど。

この辺りの土地は殆どじいちゃんが管理している。


まぁ、大地主ってやつ。


だから学費などの資金的な問題は無かった。

ただ、親に伝えるのが面倒くさかった。


俺は何とか誤魔化して、受験が終わってから親に言うつもりだった。


それまでは地元の高校の受験をするフリをしていた。


意外とバレないもんらしい。

まぁ、中学一年の頃から考えてた計画だったから、バレたら困るんだけど。


そうして俺は、猛勉強の末、東京の高校への入学が決まった。


俺はウキウキだった。


「母さん!父さん!俺、東京の高校受かったよ!

九里学園ってとこ!」


「え? 地元の高校受けるんじゃなかったの?」


「隼人、説明しろ」


勿論怒られた。

理由は東京でしか出来ない事がしたかった。

とか適当に取り繕った。


うちの両親は優しい。なんだかんだ許してくれた。


俺は本当に嬉しかった。

やっとこのクソ狭い檻から出られる。

あの女から離れられる。


もう、それだけで今すぐ死んでしまいそうなくらいに喜んでいた。



母親から恐ろしい事実を聞かされるまでは…


それは、俺が親に合格した事を伝えた、次の日の事だった。



「あー。分かったわ! あなた千咲ちゃんと同じ学校を目指したのね? もう、早く言ってくれればよかったのに!」


「え?」


俺は自分の耳を疑った。

きっと聞き間違いだ。


「母さん。なんて言った? よく聞こえなかったんだけど」


「だから、千咲ちゃんと同じ学校行くんでしょ?

さっき、彩希さんから連絡が来たの。

千咲ちゃん東京の高校行くーって」


いや、待てよ。

東京の高校ってだけで違う学校だろ。


「母さん、千咲が行く学校の名前って何?」


「九里学園ってとこよ。あなたもそうでしょ?」


終わった。

意味が分からない。何で同じとこ受験してんだ?

一応受験会場はうちの県内にあったけど、あいつ居たか?


もしかして県外の受験会場まで行ったのか?


そんな事はどうでもいい。

そもそも、何であいつは俺と同じ高校を受験してんだ。


まさか…

俺と同じ事を考えて、たまたま同じ学校を受けたってことか?


どんな確率だよ。


今まで一度として意見が合ったことなんてないのに。


それから俺はすぐに、千咲に連絡を入れて二人で話すことになった。



「何よ。いきなり呼び出して。また殴られたいの?」


相変わらずムカつく女だ。

コイツが女じゃなければ何回でも殴ってやったのに。


「いきなり呼び出して悪かったな!

じゃないだろ。今はそれ所じゃない。

どういう事だ? 何でお前が俺と同じ高校を受験してんだ?」


俺はいつものようにキレ気味に言った。


「は?あんたが私に合わせたんでしょ?

本当に気持ち悪いんだけど? 死んでくれない?」


俺は思わず動きそうになる手を何とか抑えた。


「いやちげーよ!

そもそもお前から離れる為にわざわざ東京の高校受験したんだぞ!?

なんでお前に合わせなきゃいけねーんだよ!」


「は?

私だってあんたと離れるために東京の高校受験したんだけど?

じゃあ何? 同じ事考えてたら、たまたま同じ学校受けちゃいました、とでも言うの?」


俺たちはそこから何も言葉を交わさなかった。


だって、千咲が答えを言ってしまったから。


本当に有り得ないかもしれないけど、俺たちはお互いが嫌いすぎて、東京の高校を目指した。

その高校がたまたま同じだった。


「どんな確率だよ!」


「うるさいわね。私だって叫びたいわよ。

何でまたアンタなんかと…」


「高校に入ってからは絶対に喋りかけるなよ!」


「こっちから願い下げよ!」


俺たちはこの日はこれで解散した。

本当にヤバかったのは、この後の事だった。


家で寝ていると、何故か千咲の両親が家へ来た。

千咲はいなかったけど。


うちの両親と千咲の両親は二、三時間もの間、何かを話していた。


その後、あちらの両親はニコニコで帰っていった。


その日の夕飯での事だった。

俺は殆ど食べ終わり、食器を片付けようとしていた。


「大事な話がある」


父さんがそう言った。


超聞きたくない。



「なに?」


「ちょっと座れ」


俺が逃げようとしているのに気付かれたのか、無理やり席に着かされた。


「隼人。お前千咲ちゃんと一緒に住め。東京で」


は?コイツ頭沸いてんのか?

俺と千咲がもし不仲じゃなかったとしても、それはダメだろ。

男と女が一つ屋根の下で暮らすんだぞ?


「いや、父さん。それは流石にまずいでしょ

まず、千咲のお父さんとお母さんが良いって言う訳ないじゃん」


俺がそう言うと何故か父さんは吹き出した。


は?コイツなんで笑ってんの?

今の話の流れで笑うとこ何てないだろ。


「違うぞ。隼人。

これを言い出したのは千咲ちゃんの両親だ」


俺は何も言葉が出なかった。

黙ったままでいると、父さんが続けた。


「東京で、大事な娘を一人暮らしさせるのは厳しいんだってさ。だから、もう息子同然のお前なら信用出来るから一緒に住んでくれと。

もし間違いが起きても、あの両親は大歓迎だってよ。

勿論俺たちも大歓迎だぞ。孫の顔が見れて嬉しいしな! なぁ母さん」


「勿論よ! 早く孫の顔が見たいわぁ」


まずい、情報が多すぎる。

意味が分からない点が多々ある。

何で一人暮らしが厳しいからって俺ならいいんだ?

そもそも間違い大歓迎ってなんだよ。

もうそれ間違いじゃないじゃん。


そんな事より俺は、まず聞かなきゃいけない事があった。


「それって、千咲が嫌がってたらそもそも成り立たなくない?」


父さんは即答した。


「あー千咲ちゃんは良いってさ。良かったなー隼人。

勿論お前も良いよな? まぁもう十数年の仲だもんなぁ」


何であいつOKしてんだよ…










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