だんご虫に罪は無いけれど。
だんご虫、僕はいつでもおまえを覚えていますよ。
僕は、畜生いじめをする、悪いやつです。良き民の皮をかぶった、うす汚れた野郎です。
外を歩いていて、だんご虫を見つけるとやってしまうのです。
踏みつける? とんでもない。
用水路に落とす? そんなばかな。
大きな生き物に食べさせる? いやいや、つまらない。
だんご虫が行く道を少し、ずらしてやるのです。どうせ虫です、何を目指しているかなんて、ありません。ふさぐのではなく、ずらす。ちょっと意地悪をしてやると、胸にメンソールの空気が通る感覚がするのです。
これは、昔から始まったことではありません。詰襟をもう着なくなった時に、やりだしました。
だんご虫に似た語感のあだ名で呼ばれていた、異性がいたのです。僕と同じ学年であり、同じ部活動に入っていました。
とにかく、変わった人でした。まず、目を引くスタイルの良さ、に合わない小物と服装。全体的にうるさい印象がありました。次に、男とつるんでいないと気分が良くならないという体質。交際しているわけではないが、荷物を持たせたり、用事に付き添わせたりしていました。僕も声をかけられたことがあります。体格に合わずひ弱な僕を、あの人は「カモ」と呼んで、こき使われました。男だから、それくらいできて当然だと思い込んでいたのですね。吐き気のする甘ったるい洗剤のにおいがしました。
だんご虫の異性は、僕にたまにいたずらをして、気を晴らしていました。たまに、がミソなのです。日常的にしていたら何かと問題になります(といいましても、僕はでかいくせして影が薄かったので、見て見ぬふりをされるのがオチでしょう)。しかも、耳打ちをしては、僕にとって不愉快なことを……。遠目からは、僕たちは仲が良いように思ったのではないでしょうか。
幸いなことに、だんご虫の異性は進路が僕と相反する所だったので、会う機会が減りました。でも、僕は、だんご虫のしてきた事を忘れられはしませんでした。いつかどこかで、お返しをしようと、誓いました。
僕は、弱いやつです。本人に毒のある言葉でも贈れば良いのに、畜生へちょっかいをかけて。これが、巡りめぐって、あの人の不幸の種になる、などと信じて。
だんご虫、おまえには何の罪もありません。悪いのは、あの人なのです。