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編集後記は異世界から。  作者: 瑞波らん
学院騒乱篇
32/33

部長、飛翔する

ゴォォォォォォォォォォン


正午。

低い銅鑼(どら)()が、演習場のすみずみまで響き渡った。

試合開始だ。


「……じゃ、僕たちは行ってくる」


リーダー役のアルネスが言うと、ディーズたち前衛パーティーは一斉に駆け出した。


「あ……待って待って!」


小柄なフェイは、スタートダッシュで置いてけぼりを食い、あわてて走っていく。

その姿を見送ると、後衛のリーダーであるリジーナ・イベリスタが指示を出す。


「ミズハさんとマールさんは、わたくしの近くに。サキは、()()()()()()を取って。デルセンくんは──」

「俺は、そのへんで適当にしてるぜ。どうせ敵が近づくまで、近接はヒマだからな」


ヒューレン・デルセンは、いかにもやる気なく片手をあげると、森のほうに歩いていった。


「……仕方がありませんわね」

「あのさ、()()()()()()って、どういうこと?」


わたしが聞くと、リジーナとサキ・ウィンテルは、顔を見合わせた。


「ミズハさんはご存知なかったのね。よろしくてよ、今お見せすることになるのだから」


リジーナがうなずくと、サキは駆け足で離れていった。

隊旗を立てた陣地の中央。わたしとシャステルを背に、リジーナは大きく両腕を広げた。


「<重積土塁(パイル)>!」


ゴボッ


一瞬、周囲の地面が、谷のように深く落ちくぼんだのが目に入った。

次の瞬間、視界が完全にさえぎられる。ものすごい速度で積み上がる土の壁が、みるみるうちに成長して、わたしたちを包み込んだ。


バラのつぼみのように、幾重にも重なった、うねる土の壁。

唯一、頂点の部分だけがわずかに開いて、差し込む太陽の光がドームの中をぼんやりと照らす。


「……これが、イベリスタ公爵家に代々伝わる守護の法。<イベリスタ・ドーム>とも呼ばれますのよ」

「すごい──」


シャステルが言うと、リジーナは自嘲気味に笑った。


「本当は、<光属性>の魔法も使いこなせればよいのですけれど……わたくしは、まだ修行が足りなくて。薄暗いのは許してね」

「あ、それならわたしが──<光源召喚(サモン・ライト)>」


わたしが唱えると、小さな光の球が、12個浮かんだ。リジーナが目を見開いた。


「まあ……」

「これって、外の様子がわからないけど、ウィンテルさんみたいな見張り役をドームの上に配置するのが定石(じょうせき)なの?」

「いいえ、お父さまは周囲の地面を動くものを<感知>する術を会得(えとく)されているけれど……わたくしは、まだごく近くの気配を感じるのがやっとで──」


──なるほど。ちょっと、やってみよ。


わたしは、王都でネルーさんが教えてくれた<感知魔法(センシング)>をイメージした。


──あれ、そういえば、これネルーさんが詠唱しているの見たことないや。


詠唱するのがマナーだと習った今になって、はじめて気がついた。

南方戦役に従軍し、<天網(てんもう)のネルー>と異名(いみょう)をとったネルーさん。その魔法は、たぶんお貴族さまの習い事とは、ぜんぜんちがうんだ──。


目標は、演習場をへだてる森の中。

こんなふうに、目視できない広範囲の<感知魔法(センシング)>に挑戦するのは、はじめてだった。

回復魔法(キュア)>のために相手の魔力の流れを感じたり、<属性魔法(エレメンタル)>のために空気や水の分子を感じるのとも、ずいぶんちがう。

地面は地面、樹木は樹木、人間は人間──。

物質や魔力が複雑にからまりあった環境で、物体の配置や人の動きを<感知(かんじ)>るのは、かなり難しい。


<意識>のツタのようなものを延ばしていく感じ──。

<イベリスタ・ドーム>は、ほんとうに花のつぼみのように、華麗な外観をしている──。

その上に、温かいもの──人間──サキ・ウィンテル──わずかに電気を帯びている。あー、ウィンテルさんって<雷属性>の魔法を使うんだ。

陣地外周──ドームの外は土がかなりへこんでる──等価交換──この土が動いてドームになった?

森──草──虫──これは花粉──森って、めちゃくちゃ要素が多い──木の上──光るもの──魔力?

これも人間──わかった、ヒューレンが枝の上で寝て──ん? なんで、こっち見てるの?──あ……


バチッ


「痛ッ」


わたしが叫ぶと、驚いたシャステルとリジーナが、わあっ、と一緒に声をあげた。


「何事ですの!?」

「どうしたの──ラン、指から血が出てる」

「え……」


右手の人差し指に、小さな切り傷。これって、手紙の中で青児(せいじ)部長が書いてた<反撃魔法(カウンター)>──?


「ごめんごめん、びっくりさせて。痛ったいなもう、ヒューレンのやつ、味方の<感知魔法(センシング)>を()()()どうすんのよ……」

「<感知魔法(センシング)>? ミズハさん、あなた、<感知魔法(センシング)>が使えるの?」

「あはは、いや、見よう見まねだけどね。でも、ちょっとわかってきたかも」


一度、<意識>を広げた場所は、<感知>しやすい。

わたしは、再び<意識>の枝を広げた。

森へ──ヒューレンは避けて──手前のディテールは、飛ばしてもいいよね──これは──。


森の中央部。

前衛パーティーは、早くも上級生たちとぶつかっていた。


<感知>しなれたディーズの気配は、すぐにとらえられた(同じ部屋で暮らしているんだから、当たり前だよね)。

<金属性>の魔法で生み出した剣を手に、同じく得物を構えたふたりと切り結んでいる。

ひとりは槍。ひとりは斧。

槍の先輩のほうが、動きが素早い。突き出される切っ先を、ディーズは身をよじって避ける。そのすきに、斧の先輩が強力な打撃を繰り出す。

そんな連携攻撃にもひるまず、ディーズは斧の先輩の膝を、鋭く蹴った──ボキッ──あー、かわいそう……。


一方のアルネスも、魔法戦の最中だった。

アルネスが必死に<火球(ファイアー・ボール)>を連打している相手は──木の枝?

魔力を帯びた植物の枝や根が、アルネスの行く手を塞ぐように、生い茂り、からみついていく。

この魔力は──もっとうしろの──草むらから──あれは女子の先輩だ──先輩が植物を<使役>している?


フェイは──フェイの気配は近くにない。ひょっとして、どこかで迷っているのだろうか──。


そう思ったとき、ふと、アルネスをからめとっていた植物の動きが止まった。

アルネスは──キョトンとしている。

あの女子の先輩は?──<意識>がない──眠ってる?──そのうしろに、フェイがニコニコして立っている──うそでしょ、フェイが何かしたの?


ガサッ


突然、大きな気配がして、フェイが顔をあげる。アルネスも空を見上げた。

木々が揺れている。風が森をかき分けるように、すごい勢いでわたしたちの陣地へと向かってくる。

あれは──!


「ウィンテルさん、()()よ!」


わたしが上に向かって叫ぶと、サキが身構えた。


「ありえないわ……もうここまで攻め込んでくるなんて!?」


リジーナが、戸惑った様子で言った。


「ありえないよね……リージス部長、()()()()()()()()

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