勇者・追放
「異世界からの勇者よ、そなたを追放する!」
王国の王城、その玉座の前で俺は跪いて王様の言葉を待っていたんだけども……俺はいきなり追放を言い渡された。そして、それに対して俺は……
「え?」
頭が追い付かずそんな返事を気の抜けた表情でしか返す事しか出来なかった。
※※※
「あのアホ王が!」
それから時が少し経ち、場面は移って城下にあるある酒場。
そこで俺は木製のジョッキをカウンターの上へと叩き突けるように置いていた。あ、ちょっと零れた、拭かなきゃ。
「マスター、ナフキンくれ!」
「おいおい、酒を飲むのは良いがあんまり飲み過ぎるなよ」
「これは酒じゃね、ミルクだ!」
「」
酒場のマスターからテーブル拭きをもらい零れたミルクをふき取る、うん綺麗に拭けた。
再度飲もうと口を付けるんだけど‥‥あ、中身がない。しっかたねぇなぁ。
「ミルクおかわり!」
「酒を頼めよ酒を!」
何だかんだと言いながらマスターは奥へと入る。数分後戻ってくるだけど持って来たのは瓶詰のミルク。お、これは北の国の物だな……レアものを仕入れているんだんてマスターわかってる!
「っぷっは! うめぇ!」
そして俺はそれを躊躇なく飲み干した、やっぱうめぇな北の国の物は。
唐突だが俺の話をしようと思う。今から10年前、この世界では魔王と呼ばれる存在が次々と出現していた。魔王は魔物を操り人類を危機に追いやろうとしていた。
しかし人類もただ黙って見ていた訳でもない、人類側はその対抗策として伝説上の存在である勇者を求め始めた。
それから数年様々なアプローチが試され、そしてある国が異世界から勇者を呼び出す事に成功した……してしまった。
呼び出された勇者は特殊で強い力を宿していて簡単に言えばチート級。その反則級の力で魔物相手に大戦果を挙げた。その事により他の国でも我先にと勇者を呼び出していった。そして、その結果俺も勇者として呼び出されてしまう。しかし呼び出された俺は別の致命的な問題を抱えていた。俺は他の国で呼び出されていた勇者とは違い特別な能力が備わっておらず、あったのは基本となる身体能力強化の能力のみ。その能力も他の勇者と比べると微々たるモノであり例えるならそう、完全に……欠陥勇者だった。
しかし運の良い事に俺は第二世代型の勇者、初期の召喚ともあって召喚する方もデータが足りずその結果俺は生かされた。
そしてなんやかんや血反吐を履きながら頑張ってようやく10年目で日の目を得たと思った途端にこの追放……やってらんねぇよマジで。
それで追放された理由ってのが……
「失礼する」
「いらっしゃい」
その時、酒場に新しい人が入って来た。目を向けるとそこには歳は若く16ぐらいだと思う女の子が経っていた。頭はブロンドの綺麗なロングの髪をしていて一目で可愛いというより綺麗だと分かる容姿、関節の可動域を阻害しないように最低限の黒色の鎧を身に纏い赤色のマントを羽織っている。下を見れば黒とス白のツートーンをしたスカートと黒色のストッキングから見せる絶対領域は魅力的そのモノだろう。これだけ好条件の揃った女の子は異世界でもお目にした事は俺も無い。酒場にいる男連中も俺も含め例外なく皆そちらの方へと目が行っている。
そしてこんなかわいい子がいるも問題も降りかかってくるわけで。
「おい、ねぇちゃん俺達と遊ばないか?」
「くっひひひ」
ほら、出て来た。
何処の世界でもバカの一人や二人出てくるモノ。男達はそのまま女の子へと絡んでいく。いつもの俺なら止めに入るところなんだけど今回は例外。
「……汚らわしい」
女の子は絡んでくる手を振り払い進もうとするけれど男達は諦めずに再度絡もうとしたのだど。
「っぐへ」
彼女はスルリとそれを避け、拳を叩き込んだ。おいおい、一発で伸びるとかよくここを出入りできるな。
「このぉ!」
もう一人の男はパートナーが暴力を振るわれた事に気付くとすぐさま腰の獲物を抜いた。あちゃぁ~抜いちゃったか。
「女だからと言ってなめんじゃねぇぞ!」
そして斬りかかる……死んだな(確信)
彼女は降りかってくる剣に向けて腰のモノへと手を伸ばす。
次の瞬間先に振ったはずの彼の剣、その剣は持ち手から先が消失していた。
そして……
「おい、あんた大丈夫か?」
「大丈夫……大丈夫……」
その刃はコップを直撃して俺はミルク塗れになった。マジか……匂い取れるかな?
そんな俺を他所に酒場にいる人たちは彼女に釘付けになっていた。
彼女が抜いた腰の物、それは綺麗な装飾が施されており刃は淡い光を宿していた。そしてそんな獲物を持ってるとどんな人物だと一目で分かるわけで……
「っひ!」
刃の無い剣を落とし尻もちを付く男。そりゃそうさ、この子がオレの後釜の新しい勇者なんだから。
その男を他所に堂々と歩き―――
「隣失礼しますよ、先生」
―――迷わず俺の隣へ座っちゃう。
「あははは……なぁ~んでここが分かったのですかね……」
そして……俺が教えた教え子の勇者でもある。