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カタチなきセカイへ  作者: ツカサマコト
前章
8/36

女神のイタズラ?


 インカレサークルの活動も年越しを終えて、

 2月になろうとしていた、とある日、

 インカレサークルの代表からメールで連絡が来た。


 『今度、インカレサークルの集まりでは面白いことやるので、

  みなさん絶対に参加をするようにお願いします』


 っとのことだ。


 基本的に自由参加で良いはずが、

 面白いとか絶対に参加などとずいぶんと熱量が入った連絡だったのもあり、

 何か気になって彼は行ってみることにした。



――インカレサークルの集まりの日


 場所が普段より大きめな会場が指定されていたが、

 サークルの集まりに行ってみるとその会場が埋まるように

 めずらしく大勢が集まっていた。


 それに会場の中に入る時に身分証明のようなことが行われて、

 その場で作成された名前が入った入場パスのようなものを受け取り会場に入った。


 2月という時期だけに大学や専門学校などをもうすぐ卒業する人もいるので、

 絶対に参加とあおるような言い方に

 どこか思い出作りのような感じに魅かれて来たのだろうか?

 普段見かけない人もいる気もする。


 そんな大勢の中、遠くに彼女の姿が見えた……。


 ただ、あまりにも大勢いるので、すぐに彼女の姿を見失ってしまったので、

 もしかすると気のせいだったのかもしれない。


 そうこうしている内に代表の話が始まった。


 「では、本日は大変お忙しい中、

  多くの人にお集まり頂き、誠にありがとうございます」


 そんな挨拶から始まったかと思うと


 「とはいえ、今日は何の日か知っていますか?」


 そう、あおるように話を急に切り返して聞いてきた。

 周りからあの日かというような話声も聞こえてくる。


 日付に関して特に気にしていなかった彼がそもそも今日は何日だろう

 と考えていると代表は続けるように言う。


 「そう、今日は2月14日バレンタインデーだ!」


 彼はそれを聞くと

 『そういう日が2月にはあったなぁ……。

  今日がその日だったとは……』

 と気付かされるような表情をしているとどこからか、


 「チョコでもくれるのか?」


 誰かのヤジが聞こえてきた。


 そのヤジに対して、

 想定していたのか、仕込みなのか代表は答える。


 「チョコをあげるのもいいけど……。

  それは各自でも出来ることだ……。

  せっかくこうして大勢が集まったのだから……。

  もっと別の事を行おうではないか」


 どうやらチョコがある訳ではないようだ。

 でも別の事というのは何だろうか。

 気になりながら彼が耳を立てて注目していると代表は話を続ける。



 「バレンタインは男女のキューピット的な活躍をした人物の名前で、

  その逸話が有名になっているが、

  元は女性の守護神でもある女神ユノと

  豊穣の女神マイアに豊年の祈願をする翌日15日の祭があって、


  その当時は別々に生活を過ごしていた若い男女が

  翌日の祭りを一緒に過ごすパートナーを決める儀式のようなことがあったそうだ」


 そんな話がバレンタインデーの裏側にはあったのかと知らないことに対して、

 彼が興味をひかれているとさらに代表は話を続ける。


 「その儀式では、

  女性達は紙に自分の名前を書いた札を桶の中に入れ、

  それを翌日のお祭りの日に男性達が引く。


  そして、札を引いた男性とその札に名前が書かれていた女性は

  パートナーとしてお祭りの間、

  一緒に過ごすことができるというもので、

  それをきっかけにのちに結婚などをしたというような逸話もある」


 そう話すと代表は何かを取り出しながら話をさらに続ける


 「……っということで、ここに箱を用意した。

  女神ユノが見守っているかもしれない今日、

  君達の未来の為に運命のきっかけになるかもしれない……。

  まさに運試しのようなイベントを提供しようではないか!」


 そういうと男性達はこの企画にかなり魅かれているようで、

 女性達もそれなりに盛り上がっているようで会場はざわざわしだしている中、

 最後に代表がいう。


 「この企画に賛同してくれる女性は、

  入場時に作成して渡した名前入りのパスをこの箱に入れてから退場して下さい。


  その後は別に部屋を用意しているので、

  そちらに移動してもらいしばらくお待ちしてもらいます。


  賛同できないという方に関しては、

  こちらにそのままパスを返却して今日は解散となります。


  また、この企画に賛同してくれる男性の方は、

  翌日というのは待てないだろうから、

  女性陣が退場後に女性陣が箱に入れた名前入りのパスを箱から引いてもらいます。


  そして、この企画でペアになった人達に関しては、

  今日と明日の2日間はお互いの承諾があれば、

  一緒に過ごすことをサークルは公認します。


  あとは何をするのかはペアになった人同士にお任せします。


  今回のペア表は後でサークルメンバーに共有しますので、

  他の人達も2日間はサークルメンバーのペアを見つけても

  ひやかしや邪魔などはしないでそっと見守る程度にしてあげてください」


 代表の説明が終わると、

 会場の出口が開き女性側から外にでると共にイベントが始まった。


 内容から結局は出会いのきっかけ作りで、

 興味のない人とペアになっても断れば良いだけという感じの所もあるから、

 とりあえず参加してみようかなという気軽な感じで、

 イベントを楽しんでみようとする女性の話し声も聞こえくる。


 それから、女性達も半分くらい退場が終わり少なくなってきた頃に

 会場を見わたしていると遠くに彼女の姿を見つけた。


 やっぱり彼女も来ていたのか。

 彼女はこのイベントにのっかるのだろうか……。


 彼はそう思って彼女の行動を目で追って見ていると

 彼女がこちらを向きそうになった。


 思わず一度彼女を視界からしばらく外すと、

 彼が再び周りを見わたした時には彼女の姿を見失っていた。


 しばらくして女性達は退場して男性達が残った。

 そしてアナウンスで誘導が始まる。


 「では、男性も退場を始めますが、

  まずはこの企画に賛同しない人はパスを返却して退場をお願いします」


 どうやらみんなイベントに参加する気なのか、

 それともあまり人が動かないこの雰囲気に動けないのか。

 とりあえずイベントに乗っかるようだ。


 彼も結局、目立ちたくないというのもあり、

 このままの雰囲気に流されることにした。


 「では、残りの人はこれから1人ずつ順番に箱からパスを引いてもらいますが、

  楽しみは会場を出てからという事で、

  引いたパスは見ずにそのまま自分のパスと一緒にスタッフに渡して下さい。

  あとはそのまま指示に従って退場をお願いします」


 そうアナウンスが流れるとバレンタインの運試しという名の

 他から見たらただの下心が生んだような

 怪しい新手のマッチングアプリのようなイベントが始まった。


 そして彼の引く番が回ってきた。


 箱の中に手を入れ、1つ取り出すと引いたパスが一瞬だけ少し見えた。

 ただ、誰なのか分からないように情報は隠されているパスになっていた。


 そのまま引いたものと自分のパスをスタッフに返却すると

 スタッフがインカムでどこかに指示を出していた。


 そして部屋の外に出るといくつかある会場の出口の1つに誘導させられた。

 会場を出ると特に誰もいないようだった。


 『よく考えるとペアになるという事は男女の参加人数が一緒でないといけない。

  男性の方が参加人数が多くなればペアになれないハズレもある訳で、

  これはハズレを引いたという事なのだろうか、

  それはそれで知らない人と会うよりかは良かった気がする』


 そんなことを思って帰ろうと彼が動いた時、


 「あの……」


 後ろから声をかけられた。

 誰かがいると振りかえると


 「あれ?なんだ先輩じゃないですか」


 そこには参加したのか分からなかった彼女の姿があった。

 どうやらこのイベントに乗っかていたようだ。


 ハズレでもう帰ろうと油断した時に知らない人に声をかけられたかと

 一瞬緊張した彼にとっては知っている人がいたことで少しほっとしていた。


 「先輩もこういうのに興味があるんですね」


 そう彼女は言うのに対して、

 「それは、お互い様ではないの?」


 そう彼は彼女に言葉を返すと

 「私はその場の雰囲気に流されただけです」


 彼女はそう強く否定した


 「じゃあ。同じだよ。

  あの雰囲気だと流されても仕方がないかもしれないよね。


  こうも流されやすいと詐欺とかには気を付けないと

  そう感じていた所だったし、会場の外に出たら誰もいなかったし……

  昔話の何かを体験させられたような気分だったよ……」


 彼女が強く否定したので少し和ませようと

 冗談まじりにフォローするように言うと彼女は少し笑ってくれた。


 「昔話って、竜宮城とかですか?」


 そんな冗談に彼女は話を合わせてくれるようだ。


 「う~ん。特に具体的なイメージはなかったけど、

  確かに竜宮城から戻ったら同じ場所でも別の村のように変わっていた

  という意味では少し似ているかもね」


 彼は彼女にはそういったが、

 どちらかというと亀に連れられて竜宮城の前に今いるのかもしれない

 目の前の彼女を見て、そう感じていた。


 それにこんな冗談に合わせてくれる所を見ると

 本当にその場に流されただけなのかもしれない。

 彼はそう思い彼女に提案を投げかける。


 「お互いに流されただけだから、

  これで解散ということにしようか?」


 そう彼女に伝えた時だ。

 会場の中からスタッフの人が出てきて、


 「そろそろ、次の人達が来るのでこの場から離れて下さい!」


 っとせかすようにその場から早く離れるように言われると

 彼女から思いもよらなかった答えが返ってきた。


 「せっかくサークル公認のペアになったのだから、

  行きましょ先輩!」


 そういうと彼女が手を引くように彼を連れて会場から離れた。


 会場から特に行く所も決めずにとりあえず離れると彼女は彼から手を離した。

 そして2人はそのまましばらく歩いた。

 沈黙が続く中で彼女が口を開いた。


 「そうだ!アミューズメント施設に行きませんか?」


 どうやら彼女は歩きながら行く場所を考えていたようだ。

 それにしてもアミューズメント施設って……。


 「なんで、そんな所に……」


 何か嫌な感じを感じた彼は彼女に聞き返すと、


 「遊ぶ場所じゃないですか?

  それに先輩たしか仕事していましたよね?

  今でも仕事しているなら見てみたいなぁと思って……」


 彼の感じた嫌な感じはあたった。


 今までバレていないと思っていたが、

 彼女は仕事をしていた彼に気づいていたのだ。

 それに対して、


 「えっ!なんで知ってるの?」


 仕事先で彼女を見かけた事があるのに

 彼女を見たことがないようにとぼけるように知らないふりを彼はすると、


 「やっぱり、仕事していたんですね。

  何度か似ている人を見かけたような気がしたことがあったんです」


 彼女がそう答えた。

 彼は初めて知ったように振まいながら仕事の話題から変えようと、


 「そういう所に行ってたんだね。

  でも、さすがに仕事先に行くのは困る……。

  遊び場所というのは一理あるから、

  仕事先とは別の店なら行ってみてもいいけど」


 彼は本題のこれからどこに行くのかという行き先の話しに戻した。


 「じゃあ……。とりあえず行ってみましょうか」


 彼女がそういうと近くのアミューズメント施設に2人は向かった。


 アミューズメント施設についたとはいえ、

 何をするのか決めていないので店内を見て回るが、

 これは他から見るとデートに来たカップルとして見られているのだろうか。


 それとも兄妹と思われているのだろうか。

 できれば兄妹の方だと気恥ずかしさもなくなるけど、

 他人がどう見ているかは分からないので、

 その事を意識すればするほど気恥ずかしさが彼の中では増していた。


 その時だ。彼女が何かを見ている。


 「このキャラクター可愛い!」


 どうやらクレーンゲームの景品のキーホルダーのようだ。


 アミューズメント施設で働いていると特にクレーンゲームは大量にお金をかけて、

 景品が取れないような人を見かけた時には、

 また遊びに来てお金を使ってもらいたいのでクレームにつながらないように、

 うちの店では取り方のコツをアドバイスしたり、

 取りやすいように少し配置をサービスすることもある。


 それだけに取れないのに教えるのはお客様に失礼という事で、

 よく店ではクレーンゲームの景品の取り方のレクチャーを受けてきた。


 そこまでうまくはないがある程度何回で取れそうかは、

 最近分かるようになってきていた。


 そんなこともあり、彼の何かに火が付いたのか。


 「これなら、取れそうかも」


 そういうと彼はクレーンゲームを始めた。


 少し彼が思っていたより苦戦をしたものの最後は運よく、

 目的の景品とおまけでもう1つ色違いのも同時に取れたので結果良しだ。


 「2つ同時に取れるなんてすごい!

  それにこれで今日の私達と同じペアですよ。

  はいっ!これ女神様からのプレゼントかな」


 彼女は取れた2つの内、1つを彼に渡した。

 そして、彼女は何かを思い出したかのように、


 「そうだ。記念に写真撮りましょ。

  昔は女の子同士で良く撮りに来てたんですよ」


 そういうとプリントシール機で写真を2人で撮った。

 彼は戸惑っていたのが顔に出てしまっている。

 それを見て彼女は笑っていた。


 それから少し他も見て周り楽しんだ後、

 アミューズメント施設を出た。


 少し気疲れした感じもあるが、

 楽しい一日を過ごして彼女との距離は近づいた気がしたが、

 これで今日も終わりか、そう思って彼が歩いていると、


 「ちょっと。ここで待っていてもらっていいですか」


 そういうと近くにあったコンビニに彼女は入っていった。


 一緒にではないからお手洗いでも借りに……っという訳ではなさそうだ。

 何かを買っている。

 しばらくして彼女が何かを買って出てきた。

 そして彼に近づくと買ってきた袋の中から何かを取り出した。


 「はい。これどうぞ。今日のお礼です。」


 それは、少し忘れていたが今日という日の象徴でもある。

 チョコレートだった。


 今、買ってきたものだから完全に義理だろうか。

 それにあまり、チョコもほろ苦く甘さが口に残る感じが、

 それほど彼は好きという訳ではなかったので、

 その複雑な感情が少し表情に出たのか彼女が言葉を続ける。


 「大丈夫ですよ。私の分もありますから。これもペアです」


 微笑みながら彼女がそう言うが、

 別に彼は自分だけが食べることに抵抗があったから

 複雑な表情をした訳ではないのだが、


 たぶん彼女はチョコが好きなのだろう。


 あまり深い意味を気にするのを彼はやめた。

 それからまたしばらく歩いた所で、後ろで彼女が足を止めて彼の腕をつかんで引いた。


 「先輩は、明日は何か用事がありますか?」


 なぜか明日の用事を聞いてきた彼女に

 「特にはないけど……」


 特に予定はなかったので正直に用事がないことを伝えると、


 「サークルのペア公認は明日までありましたよね。

  せっかくなので、

  もう1つ先輩を連れて行きたい所があるんですけど」


 そういうと用事がないと言ってしまった時点で、

 彼には断る選択肢を奪われていたも同然だった。


 彼女と明日の約束をした。

 そして約束の為にお互いに初めて連絡先の交換もすると、


 「私はこっちの道なので、また明日……」


 彼女はそのまま、別の道を進んでいた。

 彼もまた道を進んでいると携帯電話に彼女から連絡が来た。


 そこにはさっきそういえば聞くのを忘れていた

 待ち合わせ時間と場所が記載されていた。


 彼はその連絡に対して、短く『了解』と返した。

 その日は気疲れからか家に着くとすぐに彼は眠りについた。





【次話】坂道の中心


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